| いよいよテスト最終日、最後のテストが始まる 自分の席に着きペンの準備をしながら時間まで待機しながら色々と考える そう、例えば… 今現在、俺に浴びせられている視線の雨の事とかだ 「ん…？」 俺が振り向くとみんなして目を逸らす 心なしか教室の空気がいつもの違うような気がする 疑惑の眼差しというか、全員の頭の上に？マークがついているようだった 「はいはい、さっさと全員席に着いて、テスト始めるよー！」 だがそんな雰囲気も教室に入ってきたアリスの言葉によって別なものへと変化していった 今日のテストは後々重要になってくる 職業別のテストの点数は今後進む進路にも影響してくるとも言われている テスト開始まで…後1分 第65話 解放戦線 「あー…ちょっとアナタ？」 「はい？」 テスト用紙を配っていたアリスに呼び掛けられ、俺は顔を上げる 「アナタハダレデスカ？」 じっと俺の目を見つめて言うアリス やばい、これは本気の目だ 本気で俺の事が判らないという目をしている そうか、ずっと感じていた視線というのはこれだったのか 周りの皆が俺に送っていた視線はこれだったんだな 「えと…一応…カイゼルですけ…ど？」 「あっはっは！ 替え玉するんだったらもっとちゃんと人選しないとね」 いえ、あの、正真正銘カイゼルですけど っつーか疑うどころか冗談だとさえ思っているな テスト開始直前というのにアリスは大声をあげて笑っている これ以上伸ばすのも何なんで、俺はＩＤカードを取り出してそれを開く 「…すっごく本人ですから…」 これは冒険者である事を証明する他に、その人…つまりは個人を特定するのにも利用できる どういう原理か解らないが、登録した本人しか使えない つまりＩＤカードに記載されている情報と人物が合致すれば、それは本人という事になる 「すっごく本人だね」 「えぇ、ものすっごく本人です」 「で…何があったんだよ…」 テストも無事に終了し俺達は近くの飲食店に入って昼食をとる事にした 注文も終え、注文の品が届くのを待っている時にカイルが思い出したかのように言った 「何がだ？」 「いや、お前だお前、何時の間にその姿に？」 前回の時もそうだったが今回も同じような状況だった 朝、目が覚めると男に戻っていた 原因は解っている。あの謎ポーションが原因だろう 飲んではいないのだが全身にポーションを浴びたのが悪かったらしい いや、男に戻れたんだから、この場合は良かったのだろう 「もう俺にも何がなんだか解らないよ むしろ今まで女の体だったからこう…何か違和感があるっつーか、さ」 「もったいないよな、折角華があったと思ったのにさ」 「それはつまり私達じゃ華にならないって言いたいワケ？」 俺達の向かいでアイラと話していたエルリラがカイルを睨み付ける これでもかと言わんばかりの怒気を含んでいた 「黙ってればそれなりに…うん…」 「黙って…れば？」 しまった、俺とした事がつい本音を言ってしまった 今にも握っているコップを割り砕きそうなほど手に力を込めている ふるふるとそれは小刻みに震え、中の水は嵐が到来した海のように波立っていた 「そんな事ないよ、人それぞれ魅力は違うんだし 僕はエルリラにしかない魅力を磨けばそれが華になると思うな」 「え？ 私にしかない魅力？」 エルリラはジュリアンの言葉を聞き、一気にクールダウンしていった っていうかエルリラ、お前はいいように言い包められている 『華にはると思う』と言っているのであって『華そのものだ』とジュリアンは言っていないのだが それを言ったら消えかけている火に油を注ぐようなものだし、今は黙っておこう 「んーと…僕はそういうのは疎いから良く解らないんだけど… きっとエルリラの事を想ってくれてる人はいるんじゃないかなって思うよ」 思うのだが、ジュリアンは女性の扱いが上手だと感じる時がある 扱いと言うと聞こえが悪いかもしれないが、ようは付き合いが上手なのだ 適度な話題で相手を楽しませたりするのが上手い それは女性に対してだけではなく、男性に対してもそうだ 悩み事には親身になって相談に乗ってくれる 顔もそれなりにいいし、それが相まってか結構男女共に人気があるようだ 「そ、そうかなぁ…」 「そうだよ」 女らしい面をあまり見せた事のないエルリラでさえこうなんだ 実はジュリアンって隠れプレイボーイとかなのか？ それにしては浮いた話のひとつも聞かないが… 「エルリラと付き合った奴なんて尻に敷かれるよな」 「何！？ カイゼルと付き合う人なんて相当頭悪い人だよね！」 「そこまで言うかよ！？」 「先に言ってきたのはそっちじゃない！」 「あ、あの…お客様？」 なんて言い争ってると店員が近づいて来た それどころか店内にいるほとんどの客がこっちを見ている 俺とエルリラは顔を見合わせ、小さくなるように椅子に腰掛ける 男に戻ったと思うと…何か調子とか感覚が狂うな… |