| クルクルとペンを回して教室の窓から見える外の風景に視線を移す 何だかんだでプロンテラの復興作業も完全に終わっている 一見すると平和な時間が流れている だが俺はそんなにもこんな時間を楽しめる余裕なんてなかった いや俺だけじゃない 今現在、学を修める者にとっての修羅の時間が流れている そう… 「テストやっべぇぇぇぇぇぇ!!」 テスト3日前なのだ… 第62話 テスト期間 俺の中の幾つかの疑問は解消されないままテスト3日前に突入した あの日の事を思い出そうとすると酷い頭痛に悩まされる。この時期にそんな状態じゃ困る だから俺はテストが終わるまでは何も考えないように、思い出そうとしないように毎日を過ごしていた と言っても何もしていなかった訳では無い 一度だけ無理矢理に記憶の引き出しを引っくり返すような事をしてみた それなりの代償――頭が真っ二つになるんじゃないかってくらいの痛みを伴った そのせいもあってか、有力な手がかりを手に入れる事が出来たと思う 「レイン……フェイヨン……機械人形…か…」 手にしたメモを見ながら並べられた文字を確認するように読み上げる ホードがのたくったような字が書かれているが、正真正銘俺の字だ 頭痛に耐え切れずこんな字を書いてしまったのを覚えている この字の意味するところは解らないが、テストが終わってからでも調べてみる価値はあるだろう 「じゃ、今日はこれまでにしとこうか」 テスト範囲を纏めたプリントを配り終え、アリスは名簿や教科書を整理する 今日からは短縮授業兼半ドンだ。テストさえなければ手放しで喜べる 「あー…流石に憂鬱だよな」 何て言いながらカイルが俺の席までやってくる やけに重たそうな鞄をその手に持って 「そりゃ憂鬱にもなるだろ、その量の教科書を持ち帰るんだったら…」 学校が始まってからカイルは教科書を家に持ち帰った事が無かった いったいいつ勉強してるのかが大いに疑問として残るが… 「…お前もな」 それは俺も同じ事 机の中に置いてある教科書を見ては溜息が出てきた 誤解のないように言っておくが、置いてあるだけだ、間違っても忘れてるとかそんなんじゃない 再度言うが、置いてあるだけだ 「で、こんだけの量…一回で運べると思うか?」 と、カイルに素朴な疑問をぶつけてみる ぶっちゃけかなりの量だ 溜まった教科書で殴った場合、バイブルを10個重ねたくらいの威力はあるだろう 地面に落としたなら、轟音と共にめり込むくらいの重さもある 非力なマジシャンのカイルと、これまた非力なアコライトの俺じゃ持ち帰るのなんて至難の業だ 「いっその事置いてくってのは…」 「カイルは撃沈したいらしいな」 いくら世の中実力主義とはいえ、最低限の知識は持っていなければならない それを養うのが学校であり、その実力を調べるのがテストである 赤点なんて取ってしまえば恐怖と絶望の追試タイムが待っている 理解するまで教え込む、がこの学園のモットーらしい そりゃみんなして本気で勉強するわけだ 「む…むむむ?」 「どうした?」 「ちょっといい事思いついた」 ドサっと手にした鞄を俺の机の横に置き、カイルはどこかに行ってしまった 何気なくカイルの後を目で追ってみる 「円璽ぃ、ちょーっと頼みがあるんだけど…いいか?」 「何だ石潰し」 低姿勢なカイルと高圧的な円璽の図式が出来上がっていた 何やら数分程円璽と話していたカイルがまた俺の所へと戻ってくる 「バッチリだ、円璽のカートに乗せてもらう事になった」 意気揚々と喋るカイルの後ろで円璽は何とも言えない表情をしている 気の毒とは思う、が、こっちも非常事態故、円璽よ俺達の為に男になってくれ 「…お前ら素早いよな…」 無言でせっせと教科書を円璽のカートに移していく それと同時進行で円璽のカートの中身を外に出す 俺とカイルは工場の流れ作業以上の連携と素早さを持ち、無事に任務を完了させた 「まぁテスト期間中に勉強しないのは…」 「余裕ある奴かただの馬鹿のどっちかだからな…」 「「今は一分一秒も惜しい」」 そんなこんなでもう夜だ 今日という時間も後僅かしか残っていない 夕食は済ませた、風呂にも入った、夜食準備オーケー、飲み物オーケー この時間から俺は修羅となる 「あははははは〜」 「っだー!」 意気込んで机に向かうもエルリラの笑い声で中断させられる 「こっちゃテスト勉強してんだ、もうちょい静かにしろやー!」 俺が叫ぶと今までテレビを見て大笑いしていたエルリラの動きがピタっと止まった そして俺の方へ向くと、まるで人を馬鹿にしたような笑みを浮かべた 屈辱的だ 「…普段から勉強してれば切羽詰って焦る事ないのにね」 …屈辱的だっっ!! 「私には関係ない事だよね、せいぜい頑張りなさいよ」 それだけを言うとエルリラは再度テレビに視線を戻した あまりにも的確な攻撃に俺は崩れ落ちそうになる しかしエルリラの言う事は正論であり、俺が言い返したところで口ではエルリラに敵わない これが男と女の性能の差なのだ 男は黙して語らず、周りの雑音なんか気にしないで勉強をすればいい ただそれだけだ 「あっははははは!」 俺は負けない |