チリチリと肌を焦がすような熱が渦を巻いている
その熱は俺が対峙している男ウィザードの手の内に急速に集まりつつあった
ウィザードの手の中で火の玉が数個出来上がる
真っ赤に光、今まさに俺の命の炎を飲み込んでしまいそうな勢いだった

「………骨まで消し炭だ…いや…骨だけは残しとかないとな、材料なんだし」

赤く燃え盛る炎の熱は俺に向けられている
燃え盛る炎にも負けないウィザードの赤い殺意も俺に向けられていた
ウィザードの放つ殺気に飲み込まれそうになりながらも俺はメイスを構え、すぐさま行動を起こせるように身構えた

…来る!
ウィザードが作り出した炎が尾を引いて弧を描く
炎の殺意は俺に向けられ、そしてウィザードは念じた
俺を焼き尽くせ、と


第60話 冷気の渦と援軍と


「くっそっ!」

迫り来る火の玉を走り回って避ける
ひとつは顔のすぐ横を通り抜け、もうひとつは飛んで避ける
何とか反撃に移ろうにもウィザードの高速詠唱についていけなかった
一度に作り出す火の玉の数をおさえ連続で魔法を放つ戦法に切り替えたようだ
俺はどちらかと言うと相手の攻撃を避けながら戦うタイプだ
相手の攻撃を避け、そこで出来た隙を突いて攻撃する。それが俺の戦法だ
しかし隙が出来ない奴にはかなり梃子摺る
今のウィザードがそれだ、短時間詠唱に加え俺の体力をすり減らそうとしている

「それだけの力を持っていながら…冒険者としての大罪を犯すのはどういう事だっ!」

大罪…
どんな理由であれ他の冒険者を襲う事は禁止されている
『襲う』の定義は難しい所だが、このウィザードの行ってる事は普通に見て犯罪行為だ
簡単に人を殺そうとする精神が解らない

「人間は欲深い生き物だ、それを押さえ込めるか押さえ込めないかの違いだけ…
私か? 私は自分に正直なのだよ!」

「救えねぇ悪人だな!」

次々と放たれる火の玉を避けながらウィザードの周りを回るように走る
男爵が踏んだファイヤーピラーの事もあってどうにも近付く事が出来なかった
メイスを握り締めただ相手の攻撃を避けるだけ、今の俺にはそれしか出来ない
頼みの綱はこの騒ぎを聞きつけて来てくれる人くらいか…
だが俺達が戦い始めてから結構な時間が経つのに野次馬さえ現れようとしなかった

「助けを期待してる? そんな心配は無用…」

「ふん、今に騎士団が騒ぎを聞きつけてやってくるさ」

表立った活躍といえばモンスターの討伐が主な仕事の騎士団
だが、プロンテラに脅威をもたらす者が現れた時も騎士団は出動する
以前起きたモンスターの襲撃事件も現れたモンスターの大半は騎士団が処理したらしい
強敵ばかりを素早く、静かに処理したとの事だ
騎士団という名前だがハンターもいればアサシンもいる
様々な人材、個々の能力をうまく使いこなし、迅速な処理をしている
そんな達人クラスの者達が来ればこの場の状況などすぐに打破出来る。俺はそう考えていた
だがあまりにも遅過ぎる…手際が良い事で有名な騎士団がこうも遅れるとは…

「まぁいい、早々に決める…そうすれば余計な心配と期待は必要ないからな」

「くっ…」

ウィザードを手を俺に向けて高速詠唱を始める
さっきまでとは違い、膨大な魔力がウィザードの体から生み出されるのが見て解るほどだ
青白いオーラがウィザードの体から立ち上り、周囲の空気が冷え始めた

「ストーム……」

周囲の空気は冷気となり、俺達の頭上に集まり出していく
最強最悪、絶対零度の魔法――ストームガストだ
その魔力に触れた生物は全て凍りついてしまうという凄まじい魔法だ
俺みたいな魔法に耐性の無い奴が喰らったら一瞬で凍り付いて崩れ落ちてしまうだろう
魔法の発動より早くこの場から離れる為に、俺は勢いよくその場から離れようとした

「っ! しまった!」

急激に冷やされた空気中の水分が凝固し始める
生成された氷に、俺の足と地面が固定されてしまった
それから逃れようと力いっぱい足を引き抜こうとするがビクともしない
そうやって俺が手間取っている内にもウィザードの詠唱は完了しつつあった
頭上に集まった冷気は雲の中で発光する雷のようにジグザグの線を描きながら魔力を迸らせていた

「ガス…ながぁ!?」

魔法の発動が中断され、溜まっていた魔力が霧散した
目の前で魔法を詠唱していたウィザードの腕から鮮血が飛び散った
腕を押さえながら数歩後ろにウィザードは下がる

「間一髪ってところだの」

俺の目の前には切り落としたウィザードの左腕を持った人間型のマヨが立っていた
マヨはウィザードの左腕を放り投げると、腰に下げてあった赤い短剣を引き抜いた
その短剣から炎に似た魔力が発せられる
ブラックスミスだけが作る事が出来ると言われている属性短剣だ
どうやらこの短剣は炎の力を得ているらしい

「何でお前が…」

足に絡み付いていた氷をマヨに溶かしてもらい立ち上がる
マヨは「さぁどうしてだろうね」という顔をしていた
とりあえず意味が解らない

「私が呼んだんですよ。騎士団も積極的に動く気配なんて見せないですから…
それにすいません。カイゼルさんを囮に使うような真似をして…」

「男爵!? 生きてる!?」

俺の視線の先には男爵がいた
どうやら俺とウィザードが戦っている間に男爵がマヨに連絡をしたらしい
男爵の手には開かれたIDカードが握られていた
結果的には俺を囮に使った形になったようだ…が、助かったから問題は無いだろう
それどころか形勢逆転ってな勢いだ

「さて、激しく4対1…まだやる? 私が切り取った左腕でもくっ付けてもう一回やる?」

4対1?
いや、普通にこっち側は3人しかいないような気がするんですけど…
まだ誰か援軍に来たのか?
辺りを見回してみるけど誰もいない、見当たらない、気配すら感じさせない

「くっ! …迷まで出てきたかっ! 少々分が悪いな、今回は引かせてもらおう!!」

ウィザードは手にした蝶の羽を握り潰しその場から姿を消した
その場に残された俺達はアイコンタクトでその場から離れる事に決定
いらん尋問やら騒ぎに巻き込まれない為にだ

「んー…しかし…消し炭にするって言ってた割にはストームガスト使うってねぇ」

犬、その時に来てたんだったらさっさと助けんか
もし途中で黒焦げにされてたらどうするつもりだ
…生きててよかった…

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