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納得の出来ないまま押し切られたような…
どこか有耶無耶になったような…
そんな状態のままエルリラとの生活が始まった
って、そんな言い方するとアレだな
生活、っても相部屋なだけだし、部屋の真ん中にはカーテンで目隠しがされてるし
勿論このカーテンはエルリラがかけたものだ
何でも
『私はまだあなたを許したわけじゃないわ、いい、こっち側には絶対入ってこないでね!』
らしい
「俺か!? 俺が悪いんか!?」
朝日が眩しいくらいの朝5時の寮の庭
来週から始まる新学期に備えて俺は朝のトレーニングをしている
健全な精神は健全な肉体にこそ宿る
祖母のこの教えを守り、俺は常に自らを鍛えている
鍛えると言ってもボディビルダーみたいになるわけじゃなくて
適度な運動による体重維持と筋力維持を目的としている
「あれ? 見ない顔だね、そっか新入生か」
トレーニングを終え、寮に戻ろうとした所で声をかけられる
振り返ると銀色の髪をなびかせ、花柄のカートを引いているブラックスミスがそこにいた
「あ、おはようございます。えぇ先日からここにお世話になってます」
「そっか、懐かしいなあ…」
「卒業生ですか…」
「うん、5年前のね…ってそうじゃなく、きつねさんいます?」
「多分そこの小屋に…」
そう言ってすぐそこの小屋を指差す
「いなかったんだよね、だから探してるんだけど」
「じゃあ寮の中かも」
俺は玄関を開けると玄関口からきつねさんを呼んでみた
「きつねさーん、お客さんですよー」
………
返事が無い、どこかに出かけてるのだろうか
他にきつねさんがいそうな所なんて俺は知らないし…
「うーん、ちょっと他は解らないですね…よかったら言付けしておきましょうか?」
「あ、でも、うーん…今日の分の寮生の料理の材料だよ?」
って何か
ここできつねさんが来ないと今日1日飯抜きか!?
「あ、あの…きつねさんがいないと駄目…っすか?」
「んーと…お金を貰えればそれでいいんだけど…」
「はぁ、幾らでしょうか?」
そう言って俺はICカードを取り出すと残高を確認した
10000zくらいだったら何とか大丈夫だろう
くっ…したら残金が265z…まぁきつねさんが帰ってくれば大丈夫と思うけど
「70000zだよ? 大丈夫?」
―――バターン!
俺は即座にドアを閉めると鍵をかける
ふぅ、今日もいい汗かいたな…シャワーにするとすっか
「ちょ、ちょっとー何で閉めるのー!? ねー!? こら! バーカー!」
勢いで玄関を閉めてしまったがまた開ける
「いや、70000zとか不可能だから…」
「仕方ないよね…それじゃ今日1日飢えと戦ってね?」
さらりととんでもない事言いますな、この娘さん
金の無い奴には用は無いって事ですか
「じゃ、そゆことで〜」
「だぁ! ちょっと待てよ!」
寮から出て行くそいつを追いかける、が
速い…
すでに数百メートル先にいる…
「……飯、どーするか…」
「諸君、重大な事が起こった」
朝食を食べる為に起きだして来た寮生達が食堂に集まる
といっても帰省している寮生がほとんどなので、この場にいるのはエルリラとディルだけだ
「今我々は大変な食糧難な状態だ」
「つまり、朝食が無いってんだな?」
ご名答、その通りだ
中々鋭い…
「で、どうしようって事で…」
「そりゃお前……どうしよう…」
うーん、と男二人、台所に立って悩む
まぁ悩んでいても仕方ない、そう思い冷蔵庫を開ける
「何だ、結構入ってるんじゃん」
中を覗くと色々な材料が入っていた
これだけあれば1日くらい大丈夫だろう
「…あのー…エルリラさん…?」
「…何よ」
「あの、よろしければお手伝いなんてものを…」
俺の言葉に反応して目付きが一瞬にして鋭いものに変化する
何だよ、俺の言う事は全部気に入らないってか!
こりゃ凄く嫌われたもんだね
溜息ひとつついてから材料を冷蔵庫から取り出す
「もう俺達でやるからさ、座ってて…いいから」
だからそのキツイ目はやめてくれよ
その目以外見た事ないぞ…俺は…
「で、カイゼル、どーすんだよ?」
「どーしよう…ディルさんは料理って出来ます?」
「…お察ししろ、お前は?」
「…がんばります…」
…現在7:45、朝食調理開始
〜次回へと続く〜
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