「こんな街中で…始めるつもりですかい…」

「元よりそのつもりですよ」

メラメラ、メラメラと炎が燃え上がっている

そのせいか炎より先はどうなっているのか解らない状態だ

男爵とファイヤーウォールの距離、凡そ5mといったところか…あのモンクなら一瞬で詰めれる間合いだ

「朝から不穏な空気が流れてましたからね、つけられていましたよ」

そうだったのか…俺は全然気がつかなかった

「さて、少し離れていてください」

「あ、あぁ…」

俺は這いずりながら男爵から距離を置いた

その直後、ファイヤーウォールを飛び越して女モンクが男爵に飛び掛ってきた

男爵は身構え、魔法の詠唱に入った

男爵の詠唱が少しだけ早かったようだ、繰り出された女モンクの拳は緑色に輝く障壁によって弾かれた

「キリエエレイソン……何て分厚いんだ…」

俺は男爵の唱えた魔法・キリエエレイソンの障壁を見て驚いた

その障壁の厚さが普通とは違ったからだ

何て言うか…普通のプリーストが放つキリエエレイソンの障壁を盾とするならば

男爵のキリエエレイソンは城壁、そう言っても過言ではなかった

「…シィ!」

障壁に拳を防がれながらも女モンクは攻撃を続けた

「破!」

左の一撃、だが障壁に防がれてしまう

「勢!」

続いて右の一撃、これも防がれてしまう

「む…」

だが少しの変化が起きた

二撃目を受けたところで障壁に微かなヒビが入った

「奮!!」

女モンクは駄目押しとばかりに最後の一撃を放つ

障壁は女モンクの攻撃を受け、ガラスが割れるように粉々になってしまった

だが女モンクの攻撃はまだまだ止まらない

先程放ったモンクの得意技である三連撃に続いて、そこから派生する技連打掌を繰り出す

目にも留まらぬ程の素早さで女モンクの拳が男爵に叩き込まれる

「男爵っ!」

男爵は投げ捨てられた人形のように宙を舞った

そのまま受け身を取ることなく地面に叩き付けられる男爵

「ふん…フフ…それで終わりな筈がないであろう? 法王殿」

いつの間にかさっきのウィザードがモンクのすぐ後ろへと立っていた

何が可笑しいのか、ウィザードの口元は笑っていた

「ふむ…素晴らしいですな、素早い動き、一撃一撃の重さ、何よりバランスがいい」

男爵は何事もなかったように立ち上がり、シルクハットに付いた埃を払い落とした

「そうであろう、そうだろう、此れは私の最高傑作のひとつだからなぁ」

最高傑作…?

さっきもそんな事を言っていたような気がする

アルケミストにしか作り上げる事が出来ない人造人間・ホムンクルスというものがあるが

もしかしてその類か?

だがこいつはウィザードだ、ホムンクルスの製造方法はジュノーの錬金術師ギルドに保管されていると聞いた

アルケミストにならなければ見る事すら出来ない代物だ、こいつが製造方法を知っているとも思えない

だとしたら…何だ?

この女モンク、見た限りじゃ普通の人間にしか見えない

モンクとしての最高傑作、とでも言うのだろうか

「ふむ、以前に全て叩き壊したと思っていたのですが、また性懲りもなく作り上げたようで」

「此れは私の生き甲斐故……そしてお前らセラフィックゲートの者達を殺すのが我が悲願」

「しかし、カイゼルさんは無関係な筈、どういう事ですかな?」

「少しでもお前達と接触したならば…無関係とは言えぬ、だから殺す」

二人の話を聞いていてはっきりした事がある

どういう関係か知らないが、この二人は知り合いだという事だ

しかもこのウィザードは男爵の所属するギルドかパーティーか、セラフィックゲートとやらを憎んでいる

だがどういう経緯でこうなったのかは良く解らなかった

叩き壊すという発言から、何かしらの因縁みたいなものがあるように思える

「そうですか…ならば排除するしか…ないようですね」

男爵は腰にかけてあったソードメイスを握り威圧的なオーラを発する

「我が悲願、今日こそ実現させる」

ウィザードは杖を構え呪文を詠唱する

それと同時に駆け出す女モンク

その手にはフィンガーと呼ばれる武器を装備していた

モンクの拳が男爵に襲い掛かる

だが男爵は避けようともせずにそれを真っ向から受ける

響く金属音のような甲高い音

男爵は装備しているオペラ仮面でモンクの爪を受けていた

それを見たウィザードが詠唱を止め、叫ぶ

「いかん! 避けるんだ! レイン!!」

レイン…? それがこのモンクの名前か

レイン…? 頭の中に何故か『イズルートのレイン』がフラッシュバックする

「遅いです」

男爵のソードメイスが振り上がる

女モンク――レインの腹部を捉えた男爵の一撃は女モンクとの距離を段々と縮めていった

世界がスローモーション状態になる

男爵のソードメイスはレインの腹部に到達し、刃が肉にめり込んだ

スローモーション状態が解除される、ソードメイスを振り抜く男爵

飛び散る鮮血、宙を舞うファントムマスク

口から血を零す見た事のある少女…

一致した

記憶と目の前の少女の姿が一致した

「レ…イン…?」

俺の口から昔に出会った少女の名前が零れた


〜次回へ続く〜