| 「ったく、もう終わりかよ…」 ここの図書館員はやる気がないのか何なのか、7時を過ぎたところで退館を命じられてしまった 仕方が無いので数冊の本を借りる為に受付へと行く 態度が悪い 無言で貸し出しカードを差し出してくる従業員 頭に来ながらも乱雑に記入し、本を抱えて図書館を飛び出す 「ったく! 人が折角やる気出してるっつーのによ!」 俺は左手の中指をおっ立てながら図書館を後にした 「あー…あっづぃ…」 外に出ると、もうすぐ日が沈むであろう時間なのだが、物凄く暑い 暑いというかむしむししていた、汗で服が肌にくっ付くくらいだ べとべとする、一刻も早く寮に戻ってシャワーなり風呂なりに入りたい気分だ だからと言って走るのは自殺行為だ、暑い、汗かく、やばい 連鎖反応が素晴らしい、不快指数を一気に高めてくれる 「…あー、リンゴジュース一個ね」 プロンテラの大通りに露店を出していた商人からリンゴジュースを一個買う 運んで来たばかりなのか、それともしっかり保存してあるのか解らないが、キンキンに冷えてて美味しかった 暑いけどこんな暑さならいいな、と思った 「……失礼…そこのあなた…」 「ん?」 リンゴジュースの最後の一滴まで飲み干した所で、ローブを纏いフードを深く被った奴に声を掛けられた 声からするに中年くらいの男であろうか…物凄く怪しかった 見るからに怪しい、このくそ暑いなかでローブを着てるし 「…法王殿を知っておられますね?」 ローブの男から微かながら冷ややかな冷気みたいなものが流れてくる 「は? 法王…?」 何とも言えない感覚が俺に纏わりついてくる 「オペラ仮面に…シルクハットのプリースト……存じ上げませんか…?」 男の発する言葉の一言一言も突き刺さるようだ 「あぁ、男爵の事ね…法王って名前だったのか、知ってるけど?」 突然襲い来るドロドロとした殺気 「ならば…死んで頂きます!! 出でよP.T.1!」 男はローブを翻し呪文を詠唱する こいつは…ウィザードだ 赤く染められたウィザードの正装、手にしているのは骸骨の杖か…禍々しい光を放っていた 浮かび上がる魔法陣、紫色の光を上げ魔法文字が浮かび上がる そして、魔法陣から現れたのは… ファントムマスクをつけた紫色の長い髪を持った女モンクだった 光が止み、女モンクが完全に姿を現した 「…我が最高傑作…P.T.1だ……お気に召したかな?」 ウィザードはフードを完全に脱ぎ口元を歪ませた 女モンクと同じようにファントムマスクを付けたその顔からは表情が読み取れない 「いきなり何だよお前は…」 俺は後ずさりしながらウィザードに向かって咆えるように叫んだ 「……セラフィックゲートに関わる者は……全て殺す……」 なるほど、『これから大変になる』ってのはこの事だったのか 変な事に足突っ込んじゃったかな だけど後悔しても遅い、こいつは俺の事を殺そうとしている事実からは逃れられないのだから 腰にかけてあるメイスに手を伸ばし戦闘体勢に入ろうとする 「ちっ!」 それよりも速くモンクの拳が俺を狙う 手にしていたリンゴジュースの空き瓶を投げつけ、ひるんだ所で少し距離を置く 何か最近絶体絶命みたいな状況が多いな、俺 俺は正義のヒーローかっつーの! 「くっ!!」 そんな馬鹿な事を考えていようが敵さんはお構いなしに攻撃を仕掛けてくる 飛び上がり、空中から拳を突き出す女モンク 俺はそれを転がりながら避ける、直したばかりの石畳が粉々になった 「笑えないっつーの!」 素早く起き上がり走り出す だが行く手をファイヤーウォールで遮られてしまう 足を止め、振り返るとそこにはすでに女モンクの姿があった 女モンクは俺の反応を僅かに超えた回し蹴りを放つ 「がっ!」 ファイヤーウォールを突き抜け、吹き飛ぶ だが俺は地面に激突する事は無かった 「男爵……」 俺は男爵に抱えられ、ゆっくりと下に降ろされる 「なかなか戻らないからどうしたかと思いましたよ」 いつもの口調で男爵は俺にヒールを唱えた 情けない事だがヒールを受けても俺の体は動かなかった 女モンクの一撃が相当効いたらしい 「ふむ…少しばかり帰るのが遅くなりますが…よろしいかな?」 男爵はそう言ってシルクハットを深く被り直した 戦うつもりらしい、感情の篭っていない言葉を発する男爵だが 体から発せられる威圧感から、戦闘の意思ははっきりと感じ取れた 〜男爵バトル〜 |