レインはベッドに横たわりながら天井を見つめていた

頭に浮かぶのはカイゼル、カイル、ジュリアンの3人の顔だった

そして今だけはこんな自分の体を恨めしく思った

もっと体が強ければあの3人と別れる事なんて無かったのに

フェイヨンになんか行かなくても良かったのに

頭を過ぎるのはそんな考えばかり

だが逆に、今、この場にいなければあの3人に出会わなかったのも事実

レインにとってどちらが良かったのか、自分自身でも解らなかった

だからずっと同じ事を考えているばかり

―――コンコン

「…？」

と、急にレインの部屋の窓を叩くような音が響く

だが暫くしてその音も聞こえなくなった

窓のすぐ側には庭内に聳え立つ大木がある

その枝が風か何かで揺れて窓を叩いているのだろう

レインはそう思い、また天井へと視線を戻した

―――コンコン

「…っ！？」

今度は先程より少しばかり大きな音がする

レインはベッドから降りると恐る恐るカーテンに手を掛けた

そしてゆっくりとカーテンを開く

「あっ！？」

窓の外には見慣れた3人の顔があった

レインは驚いた表情のまま固まる

そんなレインを見ながらもカイゼルは窓の鍵の所を指差す

それを見たレインは慌てて鍵をを開け、窓を開いた

「な、何でそんな所にいるの！？」

レインの部屋は3階に位置している

そんな所に3人がいるのだ、驚くのも無理は無いだろう

「えっと…登ってきた」

そう言ってカイルは自分の足元を指差した

レインの部屋の窓に届く程の太く、長い枝

病院内の庭に植えられている大木から伸びた枝だ

「あ、危ないよ！　落ちたりでもしたら！」

「大丈夫大丈夫、それよりもさ、見て貰いたいものがあるんだ」

そう言ってジュリアンは海の方を指差す

レインは3人を気にしながらも視線を窓から見える水平線の方へと移した

「あ…あれ…は…？」

レインの視線の先にあるもの

それは300本もの蝋燭を船体に取り付けられた大型の船だった

蝋燭に灯された炎は淡い橙色を発し、ゆっくりと移動していた

それは闇に染まった海を照らし出し、何とも言えず幻想的だ

勿論それはカイゼル達が無断で拝借した船なのだが

「海蝋流し、イズルートの大漁祈願祭の目玉さ」

「で、でも…だって、お祭りは明日なんじゃ……」

「あ、いや…レインの事を言ったらさ…」

まさか自分たちが船を拝借して流してる、なんて言える筈も無く…

カイゼルは焦るようにして海蝋流しが行われたかを説明した

「そうそう、海の男ってさ、海みたいに広い心の持ち主でさ」

カイルも後に続く

「レインの為なら、ってね、神様も許してくれるだろうって」

ジュリアンも2人のフォローに入る

レインはただ3人を見つめ、また船の方へと視線を移した

「綺麗…だね…」

「あぁ…」

暫くの間、4人はゆらゆらゆらゆらと揺れる炎の光をただ見つめていた

「と、まぁ…こんな話さ…」

俺は話終えると用意されていた紅茶に口をつける

誇張したり脚色したりなんて一切してない

その証拠にカイルとジュリアンも頷いていた

アイラとエルリラは食い入るように聞いている

マヨ犬は……寝てるし

「で、その後どうなったの？」

と、エルリラが聞いてくる

まぁ他愛もない事なんだが…

「ん…まぁ…」

「あの後、船は暗礁に乗り上げて沈んじゃって…」

話の続きはジュリアンが話始めた

ここまで俺が長々と話したんだ、ここからはジュリアンに任せよう

「…レインの見送りには行けなかったんだよね

その日の内に俺達の仕業だってバレちゃって、次の日から停泊所の掃除さ」

船に蝋燭をつけて、レインの部屋から一番船が見える位置へと船を移動させて…

蝋燭に火を灯し、そして海に飛び込んでイズルートまで俺達は戻った

それがいけなかったというか…

びしょ濡れのまま家に戻ったら丸太のような腕をした海の男共に思いっ切り見つかったわけで

船を弁償させるなんて事が出来る筈もなく、次の日から掃除当番としてのお勤めを開始したわけで

「ふーん……いい思い出なのね」

エルリラは柔らかい表情を浮かべながらそう言った

確かにいい思い出だろう

バカやった感じもするけど若気の至りって事で…

っていうか話し終わって気がついたんだが

「…もうこんな時間じゃねぇか…」

時計を見ると既に夜の8時だ

丸っきり勉強が進んでないじゃないか…

「………続きは食事の後って事で」

言ってカイルが立ち上がる

テスト勉強初日からこんなんでいいのだろうか

とは言ったものの確かに腹は減ったし、既に夕食の時間になっている

俺はノートもそのままに、とりあえず夕食事をする為に食堂へと向かった

先行き不安な状態なんだが…

〜テスト勉強頑張ろう〜