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少女は溜息をつきながら窓の外に広がる景色を眺めていた
窓の外に広がる景色は限りない水平線を描いている
「ふぅ…」
もう一度少女は溜息をついた
狭い病室に閉じ込められ、外出もままならないこの状況なら仕方がないだろう
楽しみがあるとすれば、今、この場所から見える青い海を見る事と…
「よーっすレイン、調子はどうだ〜」
偶然この病院の中で知り合った少年達だけだった
「ちゃんと安静にしてた?」
「うん」
レインは溜息をついていた先程とは打って変わって、満面の笑みを見せた
レインの笑顔を見て、カイゼルとジュリアンもまた笑顔になる
「悪いっ、遅くなった」
と、そこに大声を上げながらカイルが入ってくる
どうしてだか、手にはしっかりと芋が握られていた
「これ、見舞い品」
カイルは手に持っていた芋をレインへと差し出す
レインはそれを受け取るとまた笑顔を見せる
それに釣られてカイルも笑う
が
「ごふっ」
カイルの右脇腹にモンクの放つ突きのような鋭い右ボディーブローが命中する
「それは俺達がお前にやったもんだろ…っつーか食中りの奴になんで芋なんて持ってきたんだろ…俺ら…」
そう小声で言いながらカイゼルは拳を引っ込める
勿論レインに気付かれないようにベッドの影で突いていた
「あ、カイル君どうしたの? 大丈夫?」
右脇腹の痛みに顔を歪ませているカイル
それに気がついたレインは心配そうな顔をした
「大丈夫…大丈夫…」
だがカイルは脇腹を押さえながらそう言い、平気な事を主張した
相当辛そうな顔をしながら…
「そいえば明日だったよね、イズルートの祭りって」
他愛もない会話で盛り上がってる最中に、ジュリアンが思い出したかのように言った
イズルートの大量祈願祭は毎年夏に行われている祭りの事だ
街中が様々な飾り物に身を包み、昼夜を通して様々な催し物が行われる
規模こそプロンテラの豊穣祭には敵わないものの、それなりに有名だった
中でも一番の見物は『海蝋流し』だ
100本を越える蝋燭を船体に取り付け、イズルートの沖へと進む祈願のひとつだった
「そういやそうだっけな、やっぱ一番の見物は海蝋流しだよな」
カイルは窓の外の海を見ながら言った
その表情は新しい玩具を手にした時の子供のように無邪気な顔だった
だがそれとは逆にレインは浮かない表情だ
それどころか今にも泣きそうな表情だった
「いいなぁ…お祭り、私も見てみたい…」
「まだ外出出来ないのか?」
「……」
カイゼルの問い掛けにもレインは何も答えなかった
本当に残念そうなレインの表情を見てカイゼルはそれ以上なにも聞こうとしなかった
流れる沈黙の時間
少し経った頃だろうか、一番最初に口を開いたのはレインだった
「あのね、私…」
それだけ言ってまた黙ってしまう
だが3人ともレインの次の言葉を待ち、誰も口を開こうとはしなかった
「私…明日にはフェイヨンに行くの…」
「なっ!」
「えぇー!?」
「どうしてさ!」
レインの言葉に一斉に声を上げる3人
だが突然そんな事を言われれば無理もないだろう
偶然とはいえ友達になれたのに、1週間もしないうちに別れてしまう事になるのだから
「療養の為にね…空気の綺麗なフェイヨンに行く事になって…それで……だから…もう…」
「でも、でもさ! 何でそんな事を今言うのさ!」
ジュリアンはレインの方を向かずに叫んだ
「…言えなかった……初めて出来た友達だもん…離れるなんて……いや…だったから」
嗚咽まじりの声でレインは精一杯の言葉を紡いだ
そしてそれを言い切った後、レインは何も言わずに布団を頭まで被り、ずっと泣いていた
3人は何も言えずにただ黙っている事しか出来なかった
〜続く〜
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