闇のエンペリムが怪しく光る

それは金色の光を発している筈なのに、黒いオーラのようなものを感じる

俺はメイスを握り締めエンペリウムへと飛び掛る

「熱くなるな、死ぬだけだ」

俺の真上から声がしたと思うと、俺の下方向へと激しい衝撃が走る

そして地面に引っ張られるような感じで落下していく

その直後に俺の頭の上を何かが通り過ぎたような感覚がした

振り返ると、そこには無数の棘がついたエンペリウムの触手が通り過ぎていた

それを掴み引き千切るベルガー

「がっ!」

肩から地面へと叩きつけられる

時間にしてほんの一瞬程の出来事だろう

「くそっ!」

痛む肩を押さえながらも俺は立ち上がる

「う…ぐぅ…あ…」

俺達がもたついてる間にも、カイルを締め付ける触手の力は益々強くなっていく一方だった

早くなんとかしないといけない、このままではカイルは絞め殺されてしまうだろう

いや、引き千切られるんじゃないかと思うほどだ

どうにかしたいがどうすればいいのか解らない

「さっさと放せ! この触手野郎!!」

メイスを握り、二度目の特攻

今度は触手の動きも解る、速さについていける

これが脳内麻薬とかいうやつの効果か…

丁度俺の額を狙うように迫りくる触手を紙一重で避ける

そして走る、金色に光るそのカラダ目掛けて走る

メイスを強く握り締め、高々と掲げ振り下ろす

「くぅっ!」

だが俺のメイスは甲高い音と共に弾かれてしまう

「ヒンジャクヒンジャクゥ!」

一際大きいエンペリウムの念声が頭の中に響く

その直後に地面を突き破り無数の触手が飛び出てくる

「しまった! これは!」

マヨは俺を抱え屋根の上へと飛んだ

ベルガーは先程見せたあの空間を作り出し、その中に消えていく

影守は自分を乗せているペコペコ――デストロイヤーの頭を撫でる

デストロイヤーは迫りくる触手を避けながら疾走する

地面を蹴り、壁を走り、螺旋を描くように空気を蹴り屋根よりも高くに飛んでいく

「カイル! カイルはどうした!」

触手がエンペリウムを包み込み、カイルの姿を隠した

「…あれは…人の心に乗り移る…」

叫ぶ俺の横でマヨが言う

マヨの目は語っていた、『助からない』と

それよりも気になる事がある

「乗り移るって…」

「闇のエンペリウムは全ての生き物の心に乗り移る事が出来るのだ」

「うむ、厄介な事だゾ」

妙に説明口調な二人

だが二人の言ってる事が正しいとするならば…

「もしかしてカイルは…」

「そういう事になるな…だけど助けようにもアレじゃのぅ…」

眼下では闇のエンペリウムから伸びた触手が蠢いていた

それらはさっきのように俺達へと襲ってくるわけでなく、一点に集中して集まっていた

多分あの部分にカイルがいるのだろう、が…

「どうにか出来ないのか!?」

「不用意に近付いたら…ん?」

マヨはそこまで言って空を見上げる

それにつられて俺も空を見上げる

見上げたその先に見えたのは、とても信じられない光景だった…

簡単に言うとありえないっていうか…

「てやーーー! 超稲妻蹴ーーーー!!」

「ユツキちちょっと待てーーー!」

「もう無茶苦茶だーーー!」

なぜか空から降ってくるユツキ、アリス、サルバの3人

ユツキなんて飛び蹴りの体勢で振ってきている

そのまま超スピードで俺達の上を通り過ぎ、触手の海へとダイブしていく3人

ユツキの蹴りが直撃すると同時に爆発が起こる

爆心地の周囲は放電と小爆発を繰り返している

「…えーっと…」

俺はもう何がなんだか解らない感じだった

っていうか何も解らないし理解出来ない

どうやらあの教師3人は人の想像のはるか彼方を超えるところにいるようだ

「げほげほ、ちぃとやり過ぎたデスかね」

崩れてきた瓦礫を押しのけユツキが這い出してくる

「何でワープポータルが空に出る……」

その下からはアリス

「しかも射出装置みたいに勢いついて出てくるなんて……」

そして最後にサルバが這い出してくる

「は!? 闇のエンペリウムは!?」

思い出したかのようにユツキが辺りを見回す

見回す見回す

と、それは少し離れた所の壁にめり込んでいた

一緒にカイルもめり込んでいた

「……うぅ……一体何が……」

生きてるらしい

闇のエンペリウムの方は上から下までひびが走っていた

しかもエンペリウム特有の金色は失われており、今はただ真っ白な石灰のような状態だった

「…あー…一件落着デス!」



「と、まぁ…こんな状態でして…」

「そうか…」

今まで黙って俺達の話を聞いていたヘルマンが口を開く

右手は腰に帯刀してあるクレイモアへと置かれていた

その手がクレイモアから離れ、近くの史書台に置かれていたペンへと伸びる

「わざわざご足労感謝する、大体の事は解った」

そう言いながらヘルマンは紙に何かを書いている

ペンを置き、その紙を俺へと手渡す

「せめてものお礼だ」

よく見るとそれは小切手だった

えーっと…いち、じゅう、ひゃく、せん…

「そうならないとは思うのだが…」

「はい?」

小切手に書かれていた金額を確認している途中でヘルマンに話し掛けられる

俺は視線を小切手からヘルマンへと戻す

「もし何か大変な事になったらいつでも俺の所に来いよ?」

「…どういう意味ですか?」

「そういう意味だ」



ヘルマンの話も終わり、俺達は帰宅する事を許された

連れてこられた時とは打って変わって、帰る時の待遇は全然違うものだった

だが俺達はそれを断り、徒歩で帰る事を申し出た

「…やっぱり全部は話さなかったんだな」

噴水広場を通り過ぎた所でカイルが唐突に切り出す

話さなかった、というのは俺とカイルが古代呪文を使えるようになってしまった事だった

どうやら闇のエンペリウムに魔力を送り込まれると古代呪文が使えるようになるらしい

っていうか平然と『使えるようになったよ』とか言われて驚いたんだが…

そしていくつか解った事があった

アノ夜、シェラの部屋に現れたのが闇のエンペリウムという事

これはまぁ自分で気がついた

次にベルガーというプリースト

以前俺と会った事があるらしい、しかも闇のエンペリム絡みで…

その時はフェネックというウィザードと一緒にいたようだが…もしかして夢に出てきたあのフェネックか…

詳しい事は言わないので何とも言えない

「だってよ、セラフィックゲートだっけ? そこの奴等がそれだけは言うなって言ってただろ?」

「いや、そうなんだけど…重要な事は何も聞かされてない気がするんだが…」

「多分それはそうだな…あの騎士団長だって言ってないだろ?」

「まぁ、な…」

それからはお互いが無言になる

襲撃からたった1日しか経っていないというのに噴水広場は露店商人であふれ返っている

プロンテラ市民はタフというか逞しいというか

尊敬に値する

「あ、そういえば小切手貰ったんだっけ?」

一軒の露店を見ながらカイルが言う

そういえばそうだった、あの時は金額が確認出来なかったが…

俺は小切手をポケットから取り出して金額を確認する

「いくらって書いてあるよ?」

と、カイルが俺の後ろから覗いてくる

俺は小切手に書かれている金額を目で追った

そして固まった

「じゅ、じゅ、じゅ、じゅ…じゅうまんぜにー!?!?」

「な、なにーーーー!?」

「お、おいおい! 芋何個分だよ!」

「好きなだけ食えるぞ!」

「マヂかよ!」

「は、は、はやく銀行行こうぜ銀行!」

俺達はすぐさま銀行に向かって走り出した

多分その時既に、古代呪文の事も襲撃の事も頭になかったと思う

〜終わり〜

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