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時間が止まったような雰囲気だ…
この場にいる全ての人間が互いに互いを牽制しているかのように思えた
額から汗が滲み出る、眉間を伝い、口元を流れ、顎から落ちていった
だが、マヨやベルガーは涼しい顔をしていた
影守は例の如くスクラッチマスクのせいで表情は読み取れない
このような状況なんて何回も経験してきたかのような余裕さえあった
「では参るっ!」
最初に動き出したのは影守だった
ゼピュロスを握り締め、それを振りかざす
激しい閃光と共に鳴り響く轟音、落下する稲妻、吹き荒れる風
その稲妻は地面を抉り、焦げ痕を残した
だが影守の足は止まらない
影守はそのままの勢いでゼピュロスを一振りする
だがそれは空を斬るだけで、ドッペルゲンガーを捉える事は出来なかった
立ち上る白煙の中からドッペルゲンガーが飛び出してくる
そして大剣を構え影守に飛び掛る
「甘いナ」
ベルガーが本を開くと一枚のページが飛び出した
本のページは影守の足元へと飛来し、輝き出す
そして影守はその光の中へと沈んでいった
直後にドッペルゲンガーの背後へと現れる影守
俺には何が起こったのか解らなかった
超スピードで移動したわけでは無い、まるで瞬間移動のようだった
「滅せよ、忌わしき者…」
影守の言葉と同時に放たれるゼピュロスの一突き
それは正確に心臓の位置を捉えていた
「ゥオォオオゥウウウウォォォオオ!」
怨霊が咽び泣くような声を上げ剣を落とすドッペルゲンガー
背中に突き立てられた影守のゼピュロスがドッペルゲンガーの胸から突き出ていた
咆哮が止みむと、影守は目を瞑りゼピュロスから手を離す
ドッペルゲンガーは糸の切れた操り人形のように腕をだらりと下げ
引力に身を任せるように膝をつき、倒れた
「意外とあっけないものダナ」
本を閉じ、倒れたドッペルゲンガーへと近付くベルガー
が、途中で足を止めドッペルゲンガーを見下ろす
ドッペルゲンガーは淡い光を放ち、大気中に溶けていくように霧散した
そしてその場にはゼピュロスだけが残されていた
しかしベルガーとマヨの表情はまだ何処か険しいものが残っていた
影守はスクラッチマスクのせいで相変わらず表情は読めないが…
「…おかしいな、闇のエンペリウムの影響ではなかったのか? いやしかし…」
マヨは腕を組んでさっきまでドッペルゲンガーがいた場所を見つめる
影守は指笛でペコペコを呼び寄せ、ゼピュロスを鞍へと取り付けた
ベルガーは本を懐にしまい地面に膝をついて自分の周りを調べ始める
その時だった
「なぁぁぁあぁぁっ!?」
カイルの叫び声が聞こえたのは
カイルの方を振り向くと大量の茨に絡めとられていた
その茨は一匹のナイトメアから伸びている
「しまったぁ…まさかそっちに入ってたとは」
マヨは先程収めた短剣を素早く抜き取りナイトメアへと飛び掛る
だがナイトメアの背中から生えてくる茨が行く手を執拗に遮り、近付く事さえ出来ない
「う…ぐぐ…んぐっ!」
カイルを締め付ける茨の力は強さを増していく
ギリギリという締め付ける音がここまで聞こえてくるほどの力で
「チッ、向こうが本体か…しかもこの力、結晶のようダナ」
「ど、どうにかならないのかっ!?」
俺は締め上げられているカイルを見上げながら叫んだ
ドロドロした圧迫感に押し潰されまいと叫んだ
膝は震えてしょうがない、冷や汗も止まらない
「まぁ任せておきナ」
ベルガーは本を取り出し握り締めた
そして次々と迫りくる茨を叩き落す
叩き落された茨は炎を上げ燃え盛った
「弱いもんだゼ!」
茨と茨の間をすり抜け、または叩き落し、徐々にナイトメアへと近付いていく
「来い! デストロイヤー!」
影守はペコペコを呼び寄せると、ペコペコに跨り今度はグングニルを手に取る
そしてペコペコを器用に操り、ナイトメアの側面へと回り込む
マヨはその反対側から
ベルガーは正面から
3人同時にナイトメアへと攻撃を仕掛けた
グングニルが脇腹に突き刺さり、短剣が茨を切り刻む
そしてベルガーの本がナイトメアの顔面を叩き付ける
「なっ!」
しかしまだこれでは終わらなかった
ナイトメアの全体に亀裂が入り、そこから金色の光が漏れてくる
まるで何かの皮を被っていたように、ナイトメアという姿を借りていたものの姿が明らかになる
ナイトメアという外装を破り捨て、卵の殻が剥ける様にパラパラと落ちていく
「こ…これは……」
俺は中から現れたものを見て震えすら止まった
見覚えがあった
コレには見覚えがあった
金色の宝石…
金色の宝石には似合わない緑色の触手、茨…
あの日あの夜
シェラの部屋に現れたのと同じもの…
「テメェは…っ」
「マッタクモッテフユカイダ、セラフィックゲートメ…」
頭に直接響くような声がする
「ジュウリンサレルダケノニンゲンフゼイガ…」
脳内の血管がブチ切れそうだ
「オマエラハコロスゾ?」
殺すのは…
お前を叩き壊すのは…
「俺の方だ!!」
〜次回、最終回(嘘大袈裟紛らわしい〜
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