風が吹いた

この風は感じた事がある

この両目で『見た』事があった

銀色の風は俺と少年の間を吹き抜けた

よろよろと立ち上がったカイルの横を通り抜け、風はナイトメア達へと襲い掛かった

その風は少年の剣を弾き返し、ナイトメア達を細切れにした

それは一瞬の出来事であっただろう

風が止むと同時に現れたのは銀色の髪を持ったアサシン

右手には赤い短剣を、左手には青い短剣を持ち俺達の前へと姿を現したのはアサシン

絶体絶命かと思われた俺達の下に現れたのはアサシン

寮を飛び出し、街中を疾走していたアサシン

元マヨ犬のアサシンだった

「何とか間に合ったみたいで」

姿こそ違えど、その一言で銀髪のアサシンはマヨなんだなと感じた

姿形は違えど口調は同じだ

「ほんっっっとうにマヨ犬だよな!?」

俺は問うた

目の前にいるアサシンに問いかけた

「うむ、私の名前はマヨだ、多分カイゼルの知ってるマヨである」

「言葉を話すだけじゃなかったのか……」

と、カイルがマヨの後ろから声をかけた

激しく吹き飛ばされたカイルだったが何とか大丈夫なようだ

だがそれでもダメージ量は多いらしく、足を進める度に苦痛で顔を歪ませていた

「むっ!」

マヨが弾き飛ばした少年の剣がひとりでに動き出す

剣は宙に浮かび、物凄いスピードで少年の下へと飛んでいった

それと同時に駆け出すマヨ

左手の短剣を逆手に持ち替え、前方の構えながら駆けていく

マヨは左手で構えていた短剣を引き戻し、右手の赤い短剣で少年に斬りかかった

しかしそれよりも一瞬早く剣が少年の手の中に収まり、マヨの一撃を受け止める

少年はマヨの短剣を流すように刀身で滑らせ、切り上げるようにマヨの顎を狙って剣を振り上げた

しかし既にマヨに姿は数歩後ろへと移動していた

「闇のエンペリムの影響がここまで来てるとは…」

マヨが少年を睨み付けながら呟いた

ユツキも言っていたが闇のエンペリウムとは何だ…

モンスターの凶暴化や変異、街を襲ってきた事に何か関係があるんだろうか

「ハァ!!」

またもやマヨから仕掛ける

少年も剣を構えマヨを迎え撃つ

マヨと少年の距離が縮み、衝突する寸前の所でマヨが走りの軌道を変えた

少年を中心に置きながら円を描くように背後に移動する

しかし少年もそれを読んでいたのか、馬鹿でかい剣を振り回すように剣を振る

が、既にそこにもマヨの姿は無かった

というか俺も既にマヨの姿を見失っていた

地面を蹴る音が聞こえる

が、すぐ後には別の場所で音が聞こえる

壁を走る音が聞こえる

が、すぐ後には反対側から壁を走る音が聞こえてきた

どうやらマヨはスピードで少年を牽制しているようだ

音が消えると同時に少年の後方から猛スピードで突進してくるマヨ

それに気付き、振り向き様に剣を水平方向へと繰り出す

マヨは地面スレスレにまで上体を低くし少年の剣激を避ける

そして擦れ違い様に少年の眉間と心臓へと両手に持っていた短剣を突き刺そうとする

「うおぁ!」

だが足元から突如として現れたナイトメアによってマヨの短剣が防がれてしまう

間髪入れずに別のナイトメアの背中から人型の何かが現れ、マヨ目掛けて鎌を振り下ろしてくる

マヨはそれを短剣で受け止めナイトメアの胴体の下を滑るようにして潜り抜ける

潜り抜けたその先でもナイトメアの鎌がマヨを襲う

マヨは迫り来る鎌を見上げ、避けようとする

だがいくらマヨでも避けれそうな気配が無かった

「しまった…炭鉱に戻る前に死んでしまうかもしれん」

こんな状況でもマヨの表情は崩れなかった

どこか妙に悟ったような感覚さえする

そしてナイトメアの鎌がマヨの首に到達しようと距離を縮めていく

だがマヨの首直前で鎌の動きが止まる

そしてそのままナイトメアは霧散し、姿を消してしまった

「な、何が…」

俺の目に映ったもの

それはゼピュロス

「久しいな、王よ」

砕かれた壁の向こうから声がする

この声には聞き覚えがあった

「………っ」

既にカイルはめぐるましい状況の変化に言葉を失っていた

俺も今現れた騎士を見つめながら言葉を失っていた

だからといって状況が判断出来てない訳でもない

それどころか謎がひとつ解けたような気がした

俺達の知らない所で闇のエンペリウムを巡る戦いが行われていたのであろう

ユツキの言葉とマヨの言葉

そして両方の戦いの場に現れた謎の仮面騎士

これらを合わせれば少なからず解る事だと思う

きっとマヨも影守も人々の脅威となる闇のエンペリウムというものを破壊する為に戦っているのだ

「やあ騎死、久しぶり」

マヨは立ち上がると地面に突き刺さっているゼピュロスを引き抜き、影守へと投げる

そして何もない場所へと顔を向ける

「それにベルンガも」

何も無い空間に四角く切れ目が入る

そしてその四角の中は別の景色が写っていた

その中から出てきたのはサングラスをかけた茶髪のプリースト

「っつーかベルンガ言うな、ベルガーだっての」

ベルガーという名のプリーストが手にした本を閉じると、四角く切り取られた空間も消えた

「血の匂いがしたと思ったら…まさかドッペルゲンガーが出ていたなんて」

影守がゼピュロスを構える

刀身からは青白い電撃が発せられているのが解る

ベルガーの戦闘能力がどれ程のものかは解らないが、戦況はひっくり返ったと思う

マヨの実力はさっき見て解った

影守も素手でオークロードゾンビを倒すほどだ

それ程にまで力の無い俺とカイルは離れた場所からマヨ達の戦いを見守る事しかなかった


〜もう少し続く〜