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プロンテラで生活をしていると言っても、街の隅々まで知っている訳ではない
裏通りになんて入ってしまえば迷ってしまうだろう
だが俺達は迷路のようなプロテンテラの裏通りを走っていた
後ろから迫る幾つもの殺気から逃れるように
「あー嫌だ! もー嫌だ!」
入り組んだ道を右に左にと走りながらカイルが愚痴を零す
っていうかそんな事言わなくても解る
俺も出来ればごく普通に、平凡に、平和に過ごしたい
だけど今の状況を見ればそんなのは無茶だと解るだろう
「言うな、死にたくなかったら走れ、いや、死んでも走れ!」
後ろからは家屋や家の壁を壊す音、石畳を踏み砕くような音がする
剣士の少年が召喚したナイトメアだ
「夢魔とはよく言ったものだ、まるで悪夢だ!」
馬の姿から想像出来るように、まったくもって走る速度が速い
しかし幸いな事にその巨体のおかげか狭い所を走るのは少々苦手なようだ
ナイトメアと俺達の距離こそ離れないが、追い付かれるという状態でもなかった
「…やべっ」
前言撤回
ナイトメアの走る音が屋根の上から聞こえてくる
相手も馬鹿じゃないって事か、馬のくせに…
「忍者かこの馬はっ!!」
カイルは屋根の上にいるナイトメアを見上げながら叫んだ
遥か彼方の島国アマツには忍者という奴がいるらしいが、まさか馬がそいつの真似事をするとは思わなかった
ナイトメアが屋根から飛び降り、石畳を砕きながら地面へと着地する
俺達は四散する石の破片を避けるようにしてすぐ側の通路へと逃げ込む
しかし俺達が逃げ込んだ所がまずかった
「…行き止まりかよ!」
左右の家屋の高さにも負けないくらいに伸びた高い塀
辺りを見渡すが逃げ込めそうな所もなかった
「カイル…どれくらい大丈夫だよ?」
「どれくらいって…何が?」
「あとどれくらい無茶出来る?」
「そういうお前はどうなんだ?」
俺はメイスに手をかけ、袋小路になっている石の塀を手で軽く叩く
そしてカイルへと振り向く
カイルは笑っていた、多分俺も笑ってたと思う
なぜって…
「「死ぬまで無茶出来るさ」」
いつも俺達はこんな調子だからな
俺はメイスを握り締める
カイルはゆっくりと近づいて来るナイトメアへと詠唱を開始する
吹き上がる炎の壁
カイルの放ったファイアーウォールに行く手を遮られ、ナイトメアは前足を高々と上げながら吼えていた
「うおおぉおおぉぉぉおお!!」
ナイトメアの咆哮すら掻き消すほどに俺は叫ぶ
両手でメイスを握り、振り上げ、全体重を乗せて壁へと叩きつける
手に強い衝撃が返ってくるが壁に亀裂が入る
壁が脆くなっていたのは幸いというか何と言うか
あと一撃を加えれば人が通れそうなくらいの穴が開くだろう
「カイゼル! 早くしてくれ、こっちがもたない!」
「ったく、手間かけさせんなよな!」
軽く助走をつけ壁へと蹴りを入れる
小さくはあるが、俺とカイルが潜る分には問題無いほどの穴が開く
「カイル! 早く来……来るな!」
壁の穴を潜ろうとして俺はすぐさま穴から飛び退いた
穴の先に見えるもの…
「向こうにもナイトメアが……」
―――ガシャ
屋根の瓦を踏みしめる音も聞こえた
囲まれてる
見事に完全包囲状態だ
絶体絶命四面楚歌状態
どうやってこの場を切り抜けるとしたものか…
「くそっ!!」
ナイトメアによって背後の壁が蹴破られる
だが周囲のナイトメア達が襲ってくるような気配はなかった
一体のナイトメアが後ろに下がる
下がったナイトメアの後ろから先程の剣士の少年が近付いてきた
自然と冷や汗が頬を伝う
見た目こそ俺達より年下なのだが、その威圧感と殺気は下手なモンスターなど相手にならない程だった
「なっ!」
少年の姿が消え、俺のすぐ目の前に現れる
俺は咄嗟にメイスを少年へと振り下ろす
だが少年の剣速の方が速く、メイスを弾かれてしまう
そして少年は剣を振り抜いた反動を使いカイルへと回し蹴りを放った
「うっ…ぐ!」
ロッドを使い蹴りを受け止めるが蹴りの威力を殺すことは出来ずにそのまま吹き飛ばされてしまう
通路の壁に激突するカイル
壁はその衝撃に耐え切れず崩れてしまった
「くっそぉぉぉぉぉ!!」
俺は少年を目掛けて駆け出していた
表情を変えず、こちらを振り向き剣を振り下ろす少年
身を捻り剣を避けると、俺は弾き飛ばされたメイス目掛けて飛んだ
メイスを拾い上げ少年へと向き直る
が、先程と同じように少年は俺の前から姿を消していた
直後に襲ってくるどす黒い殺気
背後を取られていた
俺は振り返り攻撃に備えようとする
「ぐ…っは…」
だが少年の拳が鳩尾に入り、呼吸すら困難な状態へと陥ってしまう
蹲る俺の前で高々と剣を振り上げる少年
そしてその少年は躊躇する事なく剣を振り下ろした
〜まだまだ〜
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