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「ったく! 足速ぇ!」
燃え盛る炎を飛び越え、プロンテラの街並みを疾走していくマヨ
近寄るモンスターは全て薙ぎ倒し、屋根から屋根へと街の中心部へと向かっていた
俺とカイルは見失わないようにしながらマヨを追いかける
だが、少しでも速度を落とすと見失いそうな程だった
「邪魔だ!!」
脅威となるようなモンスターはほとんど退治されたのか、俺達に群がってくるモンスターはポリン等の雑魚ばかりだった
足を止めないようにして擦れ違い様に、追い抜き様に倒していった
向かい来るモンスターの相手をしながら南十字路を街の中心部へと向かって走っていく
途中途中で見た事もないモンスターの骸も発見した
「ほとんど終わったのかもしれないな」
走りながらカイルが言う
それだったらどんなに良い事だろう
だけどきっとこのまま終わる筈がない
どうしてそう思うのか解らないが、そんな言葉が俺の頭に浮かんだ
「ん…?」
俺達に近づいて来る気配がひとつ
その気配は一直線に俺達に向かっていた
突然その気配が消える、どこに消えたのか把握するのに少しばかり時間がかかった
「避けろカイル!!」
俺はカイルを突き飛ばしながら叫んだ
こういうのが言葉よりも先に身体が動いた、というのだろう
視界の端に一瞬だけ映った『何か』がカイルを狙っていた
「うあぁ!?」
俺とカイルは転がりながらも何とか素早く体勢を立て直す
次激に備える為だ
「くそっ!!」
俺はメイスを構えさっきまでカイルが立っていた場所へと視線を移す
そこには俺達の身長よりも高く、人間ではありえない緑色…いや、苔色をした者がいた
細い身体に苔色の体皮、6本の足のうち2本は鎌のように弧を描いていた
多分こいつがさっきの気配の正体だ
「蟷螂野郎かっ!」
俺達の目の前に現れたソイツ
肉食の昆虫で知られている蟷螂のモンスター・マンティスだった
その大きさは見て解る様に昆虫の蟷螂みたいに小さいものではない
まったくもって異様なでかさ、可愛げなんてあったもんじゃない
マンティスは石の街路に突き刺さった鎌を引き抜き、昆虫特有のカクカクした動きでこちらを振り向く
その赤い目玉は光すらも反射せず、どす黒い赤色をしていた
「ちぃとやばい…か…?」
カイルが杖を構え、俺より少し離れた位置へと移動する
俺とカイルの2人での連携が一番とりやすい位置へと
マンティスはそんな俺とカイルを交互に見つめながら両手の鎌と鎌をすり合わせる
キシキシキシ、という何とも形容し難い音を鳴らす
「ちぃ! 流石に速い!!」
鎌と鎌をすり合わせる音が止むと同時にマンティスがカイルに向かって飛び掛ってくる
カイルはロッドを構え、迎撃体勢に入った
「俺が時間を稼ぐ! 詠唱開始しろ!!」
だが俺はカイルとマンティスの間に割り込み、先手必勝とばかりにメイスをマンティスに向かって繰り出す
しかし俺のメイスは両手の鎌に防がれてしまう
「くっそ!」
両手が塞がっていたマンティスだったが、自由な状態の中足を俺の顎目掛けて振り上げてきた
身を捻り、それを何とか避ける
昆虫特有の節足の棘が頬を掠める、軽い痛みと共に頬へと鮮血が伝う
「カイル! まだか!?」
俺はマンティスの腹を蹴飛ばし、マンティスを吹き飛ばす
そしてそれと同時に俺は後方へと飛ぶ
「赤き色に染まりし紅蓮の大気よ! 雷となりて降り注げ!」
どうやら詠唱は完了するようだ
カイルは杖を振り被り杖先をマンティスへと向ける
ロッドの先に空気が集まり、熱を帯び、魔力が高まっていく
「ファイアーボルトっ!!」
カイルの一声により降り注ぐ炎の雷
炎の礫は全てマンティスへと命中した
カイルの放ったファイアーボルトの熱はマンティスの鎌を溶かし、足を焼き切り、胸を焦がし、頭部を抉った
辺り一面にマンティスの焼け焦げた匂いが流れる
「おーまえはちったぁ速く詠唱終わらせろっつーの」
魔法を放ったポーズのまま止まっているカイルへと近付く
これでも一応決めているらしいのか…何か『出来る男』の表情を作ってたりする
「ふ…まあ俺にかかればざっとこんなもんよ…って置いてくなって!」
近付きつつ素通りし、俺は噴水広場へと向かって歩き出した
後ろからカイルの叫ぶ声が聞こえたようだけど無視しておく
とりあえずマヨを見つけない事には寮に帰れない
帰れないというか、色々聞きたい事もあるから絶対に見つけないと…
「って、おい、あそこにいるの…」
俺は追いついてきたカイルに向かって問いかける、俺の指す指は噴水広場を指していた
そこにいたのは…
「…ありゃ? 何やってんだアイツ」
俺達の視線の先には噴水広場のベンチに座り、顔を膝に埋めている剣士の姿があった
剣士の横には見た事もないほどの長さの両手剣が地面へと刺さっていた
何匹かのモンスターを斬ったであろうその剣は血で赤く染まっていた
俺はその剣士に近付くと周囲の気配に気を配りながら剣士へと話しかけた
「おい、大丈夫か?」
俺の声に反応し、その剣士はゆっくりと顔を上げた
今まで泣いていたのか目は赤く充血しており、俺を見ながら鼻を啜っている
「のろいが…」
俺達よりも少々年下であるかのような幼い声
剣士の制服を着ていなければ女に間違われてしまうであろう
「どうした? 呪いがどうかしたのか?」
カイルは出来るだけ優しい声で剣士に話しかけた
街がこんな状態だ、これ以上不安がらせない為であろう
「のろいが……ぼくに…のろいが…」
その剣士は『呪い』という言葉を繰り返していた
もしかしてモンスターに呪いをかけられてしまったのだろうか
幸い少しながら俺は解呪の知識を持っていた
まぁブレッシングを唱えるだけの簡単なものだが…
「呪いを掛けられたのか? それじゃ俺が…」
俺はブレッシングを唱えようとして手を翳す
が、剣士の少年は首を横に振った
「ちがう…のろいが…」
「何が違うんだ?」
カイルは少年の顔を覗き込む
その直後に空間が歪むような感覚に襲われる
俺とカイルはすぐさま反応し、辺りを見渡す
「のろいが…かんせいする…あとふたり…ころせばっ!」
「何っ!」
俺とカイルは少年の方を振り向くが、そこに少年の姿はなかった
そして少年の横にあった大剣も一緒に消えていた
「だから…ぼく……きみたちを…ころすね」
「ぐっ!」
吐き気をもよおすような殺気と共に噴水の真上に現れる剣士の少年
しかしその姿は儚げであった
それもそうだ、向こう側の景色が透けて見えていた
だが少年がそこに『居る』事は確かだった
目つきこそ鋭いが、さっき見た剣士の少年と同じ顔をしていた
手に握られているのはさっき見た大剣だ
「どうするよ…カイル…」
俺はメイスを手に取り構える
そして殺気に押し潰されない様に気を張った
オークロード以上の威圧感に潰されそうになる
「とりあえす…殺されない方向で…」
カイルもロッドを手に取り噴水から吹き出てる水の上に立っている少年を見つめる
また物凄くしんどそうな戦いになりそうだ…
〜続け〜
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