| 「アラタナルチカラヲエルニハ……」 またあの声が聞こえる ひどく無機質で、ひどく感情的で、ひどく曖昧で、ひどく明確なあの声が聞こえる 自分一人が暗い、とても暗い空間に放り出されているいつもの光景 その暗闇は徐々に晴れていき、自分が今、どこにいるのかを気付かされる 自分の部屋だ 「ジャマシタカラニハ…」 その声は頭に直接響いてくるような、空間を響かせているようなそんな声。ぐわんぐわんという反響がする 声の主は金色の光を放つ金色の石 茨のような触手を自身の体から伸ばし、何かを取り囲んでいるようだ 「コロス」 一本の触手が猛スピードで俺に接近してきたかと思うと それは胸を貫いた 痛みは無い だって これは夢だから 自分でもはっきりと分かる―――夢だから 第4話 同居生活開始 「うぐっ！？」 胸の辺りに強烈な痛みが走る その痛みで俺は目が覚めた 起床、意識朦朧、徐々に覚醒を経て目が覚めるというプロセスを一気に飛ばして俺は目覚める 誰だ、人の素晴らしくも有意義な昼寝タイムを邪魔する奴は 「げふ！？ おい！ ぐえ！？ ちょっと！ ごふ！？ ま…」 どっかの漫画で見た事のあるような光景 寝てる人の腹に連続で蹴りを入れるとかそんな感じだ いや、俺は今寝てるから踏みつけられているのか 「待てって言ってんだろがぁ！」 もうそろそろ1UPされそうなところでそいつの足を掴んで引っ張る 「きゃあ！」 「…きゃあ？」 足を引っ張って倒れたところでそいつの上に乗り、マウントを取る形になった そこで幾つかの疑問と疑問と疑問が浮かび上がってきた まずひとつ 何で俺の部屋に見ず知らずの女がいるのか そしてふたつ 何でそいつが俺に踏み付けの連打を喰らわせていたのか そして最後に この体勢は色々とやばいんじゃないかと… 「へ…」 「へ…？」 「変態！ 馬鹿！ 最悪野郎！」 女とは思えないような言葉を発しながら… 握り締めた右拳が… 俺に向かって迫ってきた… 避ける事なんて出来る筈もなく、それを思いっ切り受ける さっき見た夢の再現のようだ その拳、光の如し… 「まぁ何だ…程ほどにしとけよ」 「何がっすか、いてててて」 俺の手当てをしている剣士の名前はディルという 応急手当の資格を持っているらしく、俺なんかよりも相当手際が良かった それよりもディルの言った一言が気になる 「そりゃお前…まだ学生だからな」 「…んな事しませんって！？」 どうやら明らかに誤解されているようだ 俺がさっきの女にマウントをかましている状態を見られているからだ 部屋の前を通った時に短い悲鳴を聞いて扉を開けたらしい それが普通に女の部屋だったとしたら一体どうなんだ、と聞きたいところだが――― とりあえずそんな感じで誤解されたようだ 一応その後応急手当を受けながら誤解を解いたわけだが 「それが事故だ事故だないなんて正直どうでもいい。男と女だ、そんな事もあるだろう だけどなんだ、どうしてまたあんな事になったんだ？ 聞けば二人とも自分の部屋だと言い張るし」 「それについては説明しようではないですか」 「きつねさんじゃないですか、何か知ってるんですか？」 ディルは応急手当の道具一式を片付けながら言った 寮母のきつねはと言うと腕を組みながら俺達の目の前で仁王立ちをしている 「一応ね」 一応、とは言っているが何て言うか、きつねの表情は少し違って見えた 含み笑いをしているような、ちょっとやっちゃったかな〜みたいな表情を浮かべているような 間違いない、元凶は全てきつねだと確信した 「で、一体何を知ってるんですか…」 聞きたくもない訳だが聞いておかなければいけない事だろう 俺はあの部屋を割り当てられたわけだ そしてあの女もあの部屋を割り当てられたと言われている そんな話をしてる時に寮母の登場といえば… 元凶はきつねだけになるだろう 「そんなに大事じゃないんだけどねぇ」 そう言ってきつねは談話室のソファーに腰を下ろした 「もったいぶらないで教えてくださいよ」 「あの部屋ね、実を言うと二人部屋なのよ」 「はぁ…広いですしね」 「で、部屋割りは私が決めてるんだけどね ちょっとした手違いでカイゼルとエルリラが相部屋になっちゃってね」 あぁなるほど、だから二人とも自分の部屋だと主張したわけか これで納得出来る 「って、納得できねぇ！」 |