|
ダンジョンに潜ってどれくらい経っただろうか
俺達の収集品袋はそろそろ収集品でいっぱいになりそうだった
「何時までって言ってたっけ?」
俺は収集品の袋の口を縛りながらエルリラに聞いた
それを聞いたエルリラは少し困ったような表情で言葉を発した
「え…カイゼル聞いてなかったの?」
「聞いてない、知らないから聞いてるんだ」
「私も…ちょっと…」
エルリラは俺から顔を逸らすとカイルへと視線を向けた
カイルもそれに気づいたようだ
「俺に聞かないでくれ」
どうやらカイルも知らないらしい
カイルはアイラへと視線を移す
「わ、私も…」
アイラも知らない
そしてアイラはジュリアンへと視線を移す
「…言ってなかったんじゃ…無いの?」
どうやら俺達のパーティーで終了時間を聞いてる奴なんて一人もいなかったらしい
ダンジョンに潜ってから結構時間が経ったし、持てるだけの収集品も手に入れた
それに入り口付近で待ってれば他の奴らにも会うだろう
それから戻っても問題ない筈だ
「とりあえず他のパーティーの動きを見ながら、でいいんじゃないですか?」
と、アイラは眼鏡のズレを直しながら言った
だけど今まで狩りをしてて他のパーティーになんて会ったのは不良君のパーティー一組だけだった
オークダンジョンは決して広いとは言えないダンジョンだ
そこにクラス全員40人という決して少なくもない数の人間が今ここにいる
なのに今まで不良君のパーティー以外に会わないのは少し変な気がした
しかしどう考えても『偶然他人と会わなかった』程度の考えしか思い浮かばなかった
しかもこれ以上考えると知恵熱が出てしまうかも知れない
俺はその後は何も考えずにただ来た道を辿って入り口を目指すだけだった
「あれ? こんな所で何やってるデスか、もうそろそろ演習は終わりデスよ」
入り口に向かっていた途中で保険医のユツキに会った
後ろにはアリスとサルバもいる
「終わり!? じゃあ俺達が最後?」
「まだ誰も戻ってきてないですけど…」
と、アリスの後ろからサルバが言う
となると俺達が最初の帰還者になるって事か
しかも聞く所によると未だに誰も戻ってきてないとの事だった
ほとんどの奴らが戻ってるからダンジョン内で誰とも会わない、って事ではないらしい
「カイゼル君達は他の人達に会った?」
「いえ、会ってないですけど」
「え!? うーん…おかしいなぁ…」
腕を組みながら悩むアリス
誰とも会わないのはやっぱりおかしいらしい
「まさか2階とかに行ってるとか?」
エルリラが悩むアリスに言う
しかしそれも違うらしい
「2階前には一応教師を1人置いてあるからね、それは無いと思うけど―――」
そこまで言ってアリスは表情を固くする
よく見ればユツキとサルバも心なしか表情が険しい
「これは…」
「結構やばい状況かもしれないデスね…」
そう言いながらアリスとユツキは同時に武器に手を掛ける
アリスは青白い魔力のようなものを刀身から発する剣を
ユツキは限界まで鍛えられているであろうソードメイスを
そしてサルバは聖書を取り出し、既に支援魔法の詠唱に入っていた
「御出でなさったデスね…」
ユツキが視線を向けたその先に2つの赤い光が動いている
それと同時に発せられる重量級のプレッシャー
そして高鳴る地響き
その地響きは徐々に俺達に近づいてくる
俺は迫り来るプレッシャーで肌の焼けるような感覚と冷や汗が伝わる感覚と胃液が逆流するような感覚を同時に受けた
そして本能がその感覚と思考を追い抜き、飛び越え俺に伝える
『ソレは危険だ』と
死の掌握に心臓が潰れそうだった
カイルもジュリアンもエルリラもアイラも俺とそう大差ない感覚をしていただろう
ほぼ全員が迫り来る恐怖に震えていた、勿論俺も
だが教師達3人は震えるどころか涼しい顔さえしていた
「こんな感覚、いつぶりでしたっけ?」
と、ユツキ
アリスがそれに答える
「結構前にノーグロードに行った時以来かな?」
それに続いてサルバ
「あの時はボコボコにやられちゃいましたけどね」
程なくしてその光の正体が露になる
人間の数倍はあろうかという程の巨大な身体
人間のそれとは違う、緑色の肌
極限まで鍛えられているであろう大人一人以上の太さを持った腕
そしてオーク族の戦士を表す兜
しかしその兜はウォリアーを表す兜とは違い、角の部分がひとつ多かった
三つ角が表すその冠はロード
「なんでこんな所にオークロードがいるんデスかねぇ…」
オークダンジョンの最深部に潜むオーク族の上等位モンスター、オークロード
並の冒険者が何人束になっても敵わないと言われているモンスターが今俺達の目の前にいる
圧倒的なプレッシャーを発しながら、絶対的な恐怖を誇示しながら
ソレの存在は今まで見た何よりも存在が大き過ぎた…
〜次回を待て〜
|