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演習が始まった
と言ったものの前回やった実技訓練と今のところは大して変わりが無かった
ダンジョン内を歩きつつ敵を散策、敵を発見、交戦、収集品を集めていく
シーズーモード適用というからかなり気合を入れてみた訳だが、何も起こらず
「ラストッ!!」
ただ黙々と迫りくる敵を倒していくだけだった
敵の数はそれ程多いわけでもなく、俺達の実力でも十分通用する程だった
エルリラと俺が前衛に出て敵を押さえつける
その間にカイルが魔法を詠唱、ジュリアンは敵の動きを撹乱させる為に後方からの援護射撃
アイラは俺とエルリラへのヒールやカイルとジュリアンに対してのブレス
と、言わずとも役割が分担されていた
「シーズーモードって言うから緊張しちゃったけど…」
エルリラは襲い掛かってきたファミリアを切り伏せながら言った
「好き好んで誰かと争おうなんて人はいないと思いますよ」
それに近くで座っていたアイラが答えた
確かに、例え対人戦がOKだとしても生徒同士で戦おうなんて考える奴はいないのかも知れない
そういうのを好まない連中も世の中には沢山いる
勿論そういう思想――他人と戦うなんて事を良しとしない奴は学園にだっている筈だ
そういう奴らから非難・バッシングを受けてまで戦おうとは思わないだろう
少なくとも俺はそうだ、ただそれが理由ってわけでなく
ただ単にどうでもいいから、だったりもする
信仰心のない聖職者だから、俺
「しかしシーズーモードにする理由ってのはあるのか?」
敵の攻撃も中休みなのだろう、辺りに気配を感じなくなったので俺はミルクを飲みながら座った
他の奴らも俺に続くように腰を下ろす
「んー…そういう職業に就く人もいるから、とかかなぁ」
ジュリアンは弓の弦の張り具合を確かめながら言う
そういう職業、いわゆる暗殺業の事だろう
暗殺業と言うと聞こえが悪いがれっきとした職業だ
しかもプロンテラ公認の暗殺者というのは、いわゆる掃除屋みたいなものだった
禁忌に触れて堕ちてしまった者、何らかの影響で人ならざる者へと変わってしまった者
そのような者達を『狩る』為の職業、それが暗殺者だ
「だとしても…公認の暗殺者になるのはかなり大変な事なんだろ?」
と、カイル
いつもの事だが芋を食べている
「一年に一人認定されるかされないか、だったと思う、志願者なんてその何百倍だしね」
公認の暗殺者に必要とされるものは沢山あった
ただアサシンという職業に就いているだけではいけない
むしろ志望者はアサシンでなくてもいい訳だし
技術、体力、精神のどれをとっても優れてなければいけない
そして『人』を斬るのに躊躇しない事
これが一番大事だった
ほとんどの人間は他人と武器を持って争うのを良しとしない連中だ
大抵最後の条件で躓く、それほどにまで『人』を斬るというのは最重要視される
「だからと言ってクラスの全員が志望するって訳じゃないし…」
エルリラは不安そうな声で呟く
「ま、仮に誰かが襲ってきたとしても、だ、どうにかなるさ」
俺はそう言いながらエルリラの頭に手を置く
いつものように少し冗談っぽい含みを含ませながら
「そうならない事を願うけどね」
「まぁな…」
やっぱり解らない…
時折見せるエルリラの表情や仕草の変化
大声を上げて人にボディーブローをかます人間とは思えない、少し違う行動
どこか俺はそのギャップに戸惑ってしまう
「―――誰だっ!?」
だがそんな戸惑いもすぐに心の奥にしまいこんだ
何者かの気配が3つ、少し先でしたからだ
「今日はツイてるよな…いきなりこんなチャンスが舞い込んでくるなんて」
声が近付いて来る
俺達は立ち上がり自然と声の主を迎撃するかのような体勢になる
「あん時の借りが返せるぜ」
声が更に近付き、その人物の顔が明らかになる
「お前は…」
その顔には見覚えがあった
確か入学初日に俺が殴り飛ばした…
「あん時は結構痛かったなぁ…油断したぜ女だと思って」
「だって男だしげふ!?」
そう言って俺を指差すカイルを殴り飛ばす
しまった、今まで女扱いされてたせいもあって間違って殴ってしまった
…まぁいいか
「で、一体何の用だ?」
俺は一歩前に出て不良君の前に立つ
「折角のシーズーモードだ、大いに利用しなきゃ勿体無いだろ、しかも収集品も頂けるらしいからな」
つまりは俺達を襲って収集品を奪おうって訳か
「お前に借りを返しておくがふっ!?」
とりあえずよく喋るヤローだ
俺は武器を使わずに右の拳で不良君を殴りつける
「テメェげふ!?」
そこに追撃を加えるように不良君の顎へと下から突き上げる様な拳撃を加える
不良君はよろめきながらも何とか持ち堪え、腰につけていた剣に手を掛ける
が、俺はそれさえも許さないかのように剣に掛けた手をめがけて腰につけたメイスを投げつける
「くっ!」
そして不良君がひるんだ隙に自身へと速度上昇を唱え、一気に間合いを詰める
「喰らえカイルの恨み!!」
そしてそのまま全体重を乗せた右の拳を不良君の顔面へと叩き込む
「ぐ…がはっ!」
殴られた衝撃で2回転ほど錐揉み回転をしながら不良君は吹っ飛んだ
そしてそのまま立ち上がらなかった
「やるか…?」
地に落ちたメイスを手に取り、不良君の取り巻きであろう後ろの二人に向かい直す
その二人は何も言わずにただ首を横に振るだけ振って、不良君を抱えながらダンジョンの奥へと消えていった
それを見送った俺はメイスを腰へと掛ける
「まったく、迷惑なヤローだ」
「…俺の恨みってなんだ俺の恨みって…」
と、俺に殴り飛ばされて倒れていたカイルが起き上がる
「お前の仇はとった」
「これはお前が殴った傷だろがーーー!」
〜嗚呼不良君〜
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