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演習日当日
俺の借金は5000zを超えていた
まぁそれはそれとして、俺は忘れ物が無いか最終確認をする
回復アイテム持った、装備忘れなし、スピードアップポーション――借金して買った
「っし、準備完了」
「ちゃんとお金返してよね」
出掛けにエルリラのキツイ一言
上がったテンションが一気に降下していくような感覚を覚えた
「尻に敷かれっぱなしか?」
カイルのその一言で俺は階段を踏み外し一気に一階まで転げ落ちる
背中を打ち、尻を打ち、頭を打ち、転がりながら階段を転げ落ちる
「うわぁぁぁぁ」
用意した荷物をブチ撒けながら俺は背中から床へと転がり落ちた
「…何やってるんだか」
「ほら、最終ポータル、早く乗ってー」
アリスが校門の所で大声を上げている
今日の演習の目的地、オークダンジョン前へと続くポータルが光を発しながら展開されている
まわりに他の生徒はいない、どうやら俺たちが最後の到着のようだった
「ったく、ジュリアンと円慈、待ってくれや、しねぇ」
俺は全速力で走りながら不満気に呟く
「まったく、誰のせいでこうなったんでしょーねー!」
と、俺のすぐ横を走りながらエルリラ
多分きっとそれはカイルのせいだと思うんだけどどうだろうか
「カイゼルのせいで余計な時間くっちまったな」
きっと確実にそれはお前、カイルのせいだと思う
断言してもいい
「そんな事より早く行かないとポータルが…」
そう言いながらアイラが俺たちの横を通り過ぎていく
全速力で失踪する俺たちよりも速く
息ひとつ乱さずに、汗ひとつかかずに
「…速っ!!??」
一瞬遅れての反応
その時には既にアイラはポータルへと入っていた
青白い光を発しながらアイラの姿が消える
「っだあーーーー!!」
それに続くように俺もポータルへと飛び込む
間に合った
視界が反転し、淀み、風景がひしゃげる
そしてそれはすぐに収まり、俺は見慣れぬ風景の下へと辿り着く
どうやら無事にオークダンジョン前へと到着したらしい
すでに周りには大勢のクラスメートがいた
「や、遅刻ギリギリ」
聞き慣れた声がした方を振り向くと、そこには円慈とジュリアンがいた
ジュリアンは矢筒の準備を、円慈はこんな場所で商売を行っていた
しかし、どうにもそれが盛況であり意外と賑わっていた
大事な演習前だってのにしっかり準備してきてる奴はいないのか…
真面目に前日から気合入れてた俺は何ですか
よくあたりを見回してみる…
「結構露天が開いてるじゃねぇか…」
「まあね、禁止にはされてないし、これも演習の一環なんじゃ?」
と、ジュリアンは腰に矢筒を二つ付けながら言った
冒険前の支度、ね…
そう言われれば商人の奴らにとっちゃ商売であり演習の一環なのだろう
ただのアコライトの俺には解らない事だけどな、他人が意図してる事なんて
「あーもぅ! 疲れた! 演習前から余計な体力つかっちゃったわ!」
「ごふぁ!?」
エルリラの怒声と共に走る脇腹の激痛
俺の脇腹にはエルリラの左拳が綺麗に入っていた。世界を狙える拳が。
やはりコイツは何を考えているのか解らない
人を着せ替え人形にしてたかと思えば今度はボディーブローだ
「…な、なぜに…」
力なく声を上げる俺
脇腹を押さえて苦悶の表情を浮かべる俺
情けないぞ、俺
エルリラは『フン』といった表情をして視線を俺から外す
御無体な…
そのまま俺は数分間その場でじっとしていた
痛くて動けなかったから…
「よーし、みんな揃ったねー! 早速だけど始めるよー!」
俺達が到着してから少し経ったころ、アリスの声が聞こえた
脇腹を押さえながら顔を上げる
俺達の近くに建っている小屋の前でアリスが両手剣を高々と上げながら声を上げている
「……おい、アレ…」
カイルがアリスの持っている両手剣を指差して言う
ここからでもはっきり解るソレ…
「明らかに妖しいオーラとか放ってないか?」
その剣からは少しでも魔法が使える人間なら察知できる程の強大な負のオーラが発せられていた
周りにいる何人かは気がついているようだ
しかしその剣を持ってる当の本人は楽しげな表情で今日の演習の説明をしていた
…大丈夫なんだろうか、色々…
「ま、こっちには女になっちまった男がいるくらいだ、そっちのが妖しぐべらっ!?」
開いていた露天をたたみ終えた円慈が開口一番何か言っていた
俺には何も聞こえないような気がしてならないなぁ
「お前の右も世界を狙えるよな…」
と、ジュリアン
世界はエルリラに譲るとしよう、俺じゃ多分役不足だ
「今回はシーズーモードだからね、気合入れるように! あと死なないように!」
そんな馬鹿な事をやっている間にも説明は続く
今回の演習ではシーズーモードが適用されるらしい
「…っでぇ、俺そんなんやった事ないぞ」
明らかに不満の声をカイルがあげる
それもそのはず、普通の狩りではシーズーモードなんて適用されないからだ
そもそも冒険者協会の規定で冒険者同士の争いは一部を除いて全地域で禁止になっている
他人を襲うなんてのは犯罪と定められているからだ
それが可能という事はつまり……
「生徒同士の闘いもあり…か?」
ジュリアンは手で口元を押さえながら言った
俺もそう思っていた所だ、ジュリアンの言葉を聞いて俺の表情は自然と固くなる
「…色々、何かあるようだな…」
俺は腰に掛かっているメイスに手をかけた
いざとなったらコイツでクラスメートとやり合わないとならないのか…
そう考えると気が沈む
「今回も収集品の量を色々な参考にさせて貰うからね、それじゃあ……」
アリスは説明を終えると手にして剣の柄を両手で掴む
「開始っ!」
そして思い切り振り下ろす
演習の、開始だ
「ちっ! 大事な部分とかは何も話やしねぇ!」
俺は舌打ちをするとすぐにその場から離れた
〜別にバトルロワイヤルじゃないょ〜
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