演習日前日、俺は明日の準備をする為にダンボールを片っ端から空けていた

恥ずかしい事に未だに空けていないダンボールが沢山ある

それをひとつひとつ空けていき中を確かめるがお目当ての物が見つからない

「どこ入れたっけなぁ…」

そう言いながら3つ目の箱に取り掛かる

「カイゼル、夕食の支度出来たって」

その時、部屋にエルリラが入ってきた

箱漁りに夢中になりすぎていたのだろう、既に夕飯の時間になってしまっていた

時計を見ると7時を指していた

帰って来たのが4時半だったから2時間半もの間ずっとダンボールを漁ってたのか

その割には全然進んでないのは何でですか!?

「解った…すぐ行く」

考えても仕方がない、腹も減ってた事だし作業は中断

俺は夕食を食べる為に一階の食堂へと降りていった

「カイゼルは今日は何にすんの?」

「そうだなぁ…最近米食べてないから米がいいかな」

「あー米もいいなぁ、俺はどうしようかな…」

「お前は芋でも食ってろ…ってなぜお前がいるー!?」

普通に話し込んでしまった俺は何なんだ

ナチュラルに食堂に陣取ってるしこいつは…

しかも周りの奴等、何も言いやしねぇ

確かに出入り自由ではあるけどさ

「いやぁ、明日演習で早いじゃん? ついでだしもう一泊…」

「二日連続でお泊りかよ!?」

さらりと言いやがった

「で、カイゼルは何にするの?」

と、後ろからエルリラに声を掛けられる

そう言えばまだ注文していなかった

「エルリラと一緒でいいや」

「はいはい、解ったわ」

エルリラはトレイを2つ持って食堂の料理人

寮生の食事を一手に引き受ける食堂の支配者――愚者の下へと向かった

「んじゃ俺も行ってくる」

その後に続くようにカイルが席を立つ

その場に残される俺一人

エルリラに頼む必要もなかったんじゃ無いかとか思いながらテーブルに置かれているコップに水を注ぐ

そして、それを飲む訳でも無く眺める

ゆらゆらと揺れるコップの中の水を見ては思う

あの金色の石の事を

どこかで見た事があるようなないような

あの黒い波動を

どこかで感じた事があるようなないような

「お待たせ」

そんな俺の思考を遮るかのように目の前へとトレイが運ばれてくる

「あぁ、ありが…何コレ…?」

「納豆キムチチャーハン」

トレイの上に置かれているそれは今まで見た事のないような物だった

大きめの白い皿に盛られている焼き飯

てっぺんには赤く染まった白菜やらのキムチ

そしてその焼き飯を取り囲むようにして盛られている納豆

インパクトは最大級

匂いも最大級

俺のテンション下降気味

「どうしたの? 私と一緒で良かったんだよね」

あぁ、確かにそう言った、確かに言ったさ

だけどこれは想像出来ないだろ

「……これは何だ、嫌がらせか?」

納豆キムチチャーハンと睨めっこをしていた視線をエルリラに移す

「ん、おいしー♪」

…全力で旨そうに食べてます

何か負けた気がするので何も言わずに俺は納豆キムチチャーハンに挑む事にした

「か、辛い……」

キムチと焼き飯を一緒に口へと運ぶ

キムチの酸味と辛味が口いっぱいに広がり、なんとも言えず切なくなる

はっきり言えば俺には合わない

次に納豆と焼き飯を一緒に口へ

「…ま、まずっ」

焼き飯についている味と納豆の味がまさにバラバラ

口の中でエルダーウィローにファイアーボールを放つカイルが踊っているような感覚さえ受ける

そんなチグハグな味

「…カイゼルはいったい何を食ってるんだ…」

そこに食事を持って戻ってきたカイルが俺に尋ねる

むしろ俺は何を食ってるんだ

逆に聞きたいくらいだ

「多分料理」

きっとしっかりと調理をされたであろう料理

二口ですでに食べる気力を失っていた

だけど残すのも悪い感じがしたので食べ続けることを決意

今度は納豆とキムチと焼き飯を同時に食べる

「こ、これはっ!?」

口の中に広がるキムチの味

キムチの味の中でさえもしっかりと自己主張をするかのような納豆の味

外はパリっと、それでいて中はふっくらした食感の米

3つが同時に主張を繰り広げる

はっきり言ってさっき以上に不味い

「ごめん…俺はもう駄目かも…」



「……よ、よくあんなもんが食えるな…」

俺とエルリラとカイルは夕食後部屋へと戻った

そこからは明日の準備をする為の時間

俺は夕食前まで取り掛かっていた作業へと戻る

「何やってんだ?」

近くでマヨと戯れていたカイルが俺の上から箱の中身を覗いてきた

「んー? スピポ」

寮に来る前にスピードアップを何個か買って置いといたはずだ

確かどこかのダンボールの中に入れておいた筈なのだが見つからない

「そんだけ探してないんだったら、もうないんじゃね?」

「うーん、そうかなぁ…」

ほとんどのダンボールは開けて中を探した

物によってはひっくり返してまで探した

だがそれでもポーションは見つからなかった

「買うしかないんじゃないの?」

と、準備を終えたエルリラも俺へと近づいてくる

時計を見ると20時半を少し回ったところだった

今から露天なり店なり行けばまだ間に合うかもしれない

朝一で開いてる露天を探すのもまた大変だ

「……よし」

俺は強い意志を持ってして立ち上がる

そして膝をつき、手のひらを床へとつける

「エルリラ様、お金を少しばかり貸してくださいませ」

そして土下座

ただいまの残金400z以下

スピードアップポーション一個すら買えない状況

「このアフォライトっ!」

「アフォライト言わないでっっっっっ!」

今ならプライドさえも捨てられると思う

え? 何でカイルに借りないかって?

…金持ってないから…


〜ちなみにカイルの残金291z〜