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「何で付いて来るんだよ」
きつねさんが連れてきたというその犬――マヨはさっきからずっと俺の後を付いて来ていた
「気にしなさんな」
「…はぁ…」
マヨはどうやら俺の事が気に入ったらしいのだ
こっちにしてみればいい迷惑っていうか犬に気に入られてもどうしようもないって言うか…
問題さえ起こしてくれなければそれでいいんだが
「今日はお主の部屋に行こうかのう」
微妙だ
「あぁ、食事はお構いなく、ふかふかの毛布があればそれでいい」
しかも随分厚かましい
俺の部屋を寝床にするつもりか!?
フッ、だがいいだろう、今日1日だけならな
カイルと一緒に、俺のベッドとエルリラのベッドの間のスペースで身を寄せ合って寝るのならな
ぶっちゃけイヤガラセだ
いっつも何かしら問題が起こったり災難が起こったりすると俺にとばっちりが来る
ささやかな仕返しって事でいいだろう、うん、それでいこう
カイルを犬臭くしてやる…
「ふかふかかどうかは知らないが…まぁ用意してやるよ仕方ない…」
マジシャンのローブだけどな、しかもカイルの
「よし、そうと決まればお主の部屋に行こうか、っと、お主の名前を聞いていなかったな」
マヨはその短い尻尾をブンブンと振りながら俺の後を付いて歩いた
…喋るって言っても犬の習性はそのまんまなんだな
表情や声では解らないが相当喜んでると見た
何か変なこと考えてなければいいけど…
「おい、聞いているのか?」
「あ、あぁ、カイゼルだ」
どうやら俺は歩きを止めていたらしい
足元でピョンピョン跳ねているマヨに呼びかけられ我に返る
ここ最近、色々起き過ぎた為にどうも思慮深くなっているらしい
考え込む癖が出来てしまったようだ
「悩み事?」
俺を見上げながらマヨが尋ねる
悩み事と言えば悩み事なのかもしれない
もしかしたら何に置いても気にし過ぎになってるだけかもしれないが
「まぁな、喋る犬が突然部屋に泊まりに来る、って事が悩み事かもな」
とりあえず今はそんな心境
「じゃあもっと悩んで貰おうかな、あのさ――」
マヨは尻尾をピンと立て、話し始めた
「カイゼル、ちょっといい?」
だがマヨが続きの言葉を発しようとしたその時、俺は後ろからエルリラに呼び止められる
エルリラの後ろには隠れるようにしてアイラが立っていた
「ん?」
俺は振り向きエルリラとアイラを交互に見た
アイラはエルリラの後ろに隠れながら『もういいよ』という感じでエルリラの袖を引っ張っていた
困ったような照れてるような表情で
だがエルリラはそんなアイラに構わず続けた
「カイゼルってカイルと仲いいんだよね?」
「まあな、結構付き合い長いしなぁ」
と俺は答えた
カイルとはイズルートにいる時からの友人だ
もうかれこれ10年以上の付き合いだ
何をするにも一緒、どこへ行くにも一緒のような気がする
それはジュリアンと円慈にも言える事なのだが
「何でそんな事を聞くんだよ?」
「う〜んとね…」
エルリラは後ろに隠れているアイラを見る
その視線に気付いたアイラは、エルリラの後ろから出していた顔だけをまた引っ込めた
なんだか薄々解ってきたかもしれない
「ふむ、乙女の複雑な恋心かな?」
「…やっぱりそう思うか?」
こっちではマヨが俺の足元からひょこっと顔を出していた
俺はそんなマヨの意見に賛成だ
というかそれくらいしか思い浮かばない
乙女が恥らう表情で男の名前を出す…
こりゃ恋以外の何であろうか
本人から聞いたわけでもないが…多分そう感じる
きっとそうだ、決め付ける
「実は………」
エルリラは俺の耳に顔を近づける
そして内緒話をするかのように小声で話す
「回りくどいのは嫌いだからはっきり言うけど…」
「うん?」
エルリラの吐息が耳にかかる
俺はなんとも言えない感覚に襲われ…
って何を考えてるんだ俺!?
何だってんだ…
「アイラね…カイルの事が好きだって言うから…」
ビンゴ
やっぱりそうか
っつーかそれ以外に何があるんだってくらいだ
まぁ俺も結構そういう話を振られる事が多かったから解るようになってたのか
ジュリアンのやつがアレで結構モテてたからな
いっつも俺が橋渡しをしてたし…そういう予想は当たるようになってしまった
「で、アレだろ、何気なくカイルとアイラをどうにかしてくれって言うんだろ?」
「うん、お願いね」
「だーと思った、ま、その手の話は嫌いじゃないしな、いいよ」
嫌いじゃない
むしろそういう話は好きな方だ
好いた惚れただ浮かれてるだ沈んでるだって話は大好きだ
「じゃあそうだな、早速明日から実行って事にするか」
そうと決まれば話は早い
すでに俺の頭の中では色々と構想が練られていた
「お主も好きものだな、しかも相当」
とマヨが話しかけてくる
好きなんだからしょうがないだろ
という視線をマヨに向けた
俺が見たマヨの顔はどこかしら笑っているようにも見えた
そして思った
こいつも相当の好きものだな、と
「じゃとりあえず部屋戻るな」
俺はエルリラとアイラに別れを告げ部屋に戻る
扉を開けたその向こうでは、カイルがいまだにPCの画面と睨めっこをしていた
「…うーん…この子見た事あるような気がするんだけどなぁ…誰だったか…」
幸せそうでなりよりだ…
どうでもいい事だが…
その日の夜にカイルがうなされていた事を付け加えておこう
「犬臭い…犬……の匂い…」
と寝言で言ってたのは気のせいだろう
それと…
下で寝ているカイルの胸の上にマヨが乗っかって寝ていたのも気のせいだろう
〜第2位の彼女は清楚な感じで家庭的美人、という見出しでした〜
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