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お泊り
それは学生における最大のイベント…
お泊り
それは男にとっての永遠の夢…
お泊り
それは10代の中でも限られた人間しか出来ない事…
と、カイルは言う
そんなわけで今、カイルが俺達の部屋へと泊まりに来ていた
明日の俺の1日に密着するらしい
つまりはアレ
俺は晒し者というか見世物になるって事だ
エルリラにいいように着せ替えさせられるであろうこの俺を
「…覚えておけカイル、この恨み………」
「ん? 何か言ったか?」
「いや…」
怨怨とカイルに負の念を飛ばしているが本人は気づいてはいない
念を飛ばしてると言っても、本当に飛ばしている訳じゃないんで当たり前なのだが…
しかし何だ…
別にカイルが泊まりにくることは別にいい
エルリラと一緒になってくつろいでるのも別にいい
人の部屋のPCで何やらやってりうのも別に構わない
んが…
何であなたは大爆笑してますか
俺は気になってPCの前で大爆笑しているカイルの後ろから画面を覗いた
「…う゛…」
それを見た俺は声にならない声を上げる
画面に映し出されていたそれはプロンテアスクエアだった
しかも最新号
どうやら…最萌えなんたらってやつの途中経過が発表されているらしい
「あっはっはっはっは、お前ダントツで1位だってよー!」
最悪じゃい
うれしくない
「いいよそんなん…嬉しくないし…嬉しくなんかないやいっっ!」
―――ピピピピッ
何だかんだで騒いでる俺とカイルの耳に甲高い電子音が届いた
音程こそ違うがICカードにWISか届いた音だった
「もしもし? あー、うん、うん、解った今から行くよ」
どうやらそれはエルリラのICカードの音だったようだ
手短に話を終えるとエルリラはICカードをポケットにしまった
「ちょっと出てくるけど…………漁らないでよ」
「漁るかっ!」
エルリラはそれだけ言うと部屋を出て行く
もう夜の9時を過ぎた頃だ
今から何処に行くっていうのかが気になった
が
「お、お前! あっははははは! これ読んでみろよ、すげーすげーー」
一発でそんな気分を吹き飛ばすカイルの馬鹿笑い
正直殴りたい
震える手を握りこぶしにするが…
「あ〜でも俺はこっちの2位の子がいいなぁ…こういうのが俺は好きかも…」
何かどうでもよくなってきた
どうやらカイルは向こうの世界に旅立ってしまっているらしい
夢の世界にいるカイルを無理矢理現実世界に連れ戻すのも何ていうか…
むしろいい顔しているから、このまま夢を見続けさせよう
そうしよう、うん
「…俺もちっと出てくるな」
未だ画面と睨めっこをしているカイルを放っておいて俺は部屋を出る
そして階段を降り、談話室へと向かう
が、その途中で奇妙な人溜りがあった
「わー可愛い」
だとか
「ふわふわしてるー」
とか聞こえてくる
俺は興味に駆られ…っていうか野次馬根性剥き出しでその人溜りへと足を進めた
その中心にいたもの
「あ、こら、くすぐったいってば」
およそ体長は40cm程、背は軽い銀の毛をしており、腹にかけての部分は白い毛をしている
ソレは自らの舌で寮生の女子の顔を舐めていた
「名前はなんて言うんだろうねー」
ぶっちゃけ犬がそこにいた
ただひとつ、その犬の行動が少しおかしかった
「おい、こっちこーい」
とディルが両手を出して犬を呼び寄せる、が
その犬はディルに見向きもせずにディルの後ろに立っていた女生徒へと飛びつく
「…犬がっっっ!!」
ディルは無視された事に腹を立てたのか、犬に向かって中指を突きたてた
すいません、めっちゃ大人気ないっすね…
「何で犬なんているんすか?」
未だに中指をおっ立ててるディルに近づく
「ん? カイゼルか…何でもきつねさんが連れてきたみたいなんだよな」
「へぇ、何でまた」
「さあ? またいつもの気紛れなんじゃないの?」
「ふ〜ん…」
俺はそのまま視線を犬へと移す
と、その犬は今までじゃれていた女生徒から離れ、俺に向かって走ってくる
そしてそのままジャンプ
俺は犬を胸の辺りで抱きかかえるような状態になる
「ほぅ、これは中々…」
と、俺の胸に顔を埋めていた犬から声が聞こえたような気がした
「…何が中々だ…」
声が聞こえたのは気のせいだと思いながらも、ついつい問いかけてしまう
その犬は顔を上げ、俺の目をじっと見つめてきた
「…むむ、まさか私の言葉が解るのか?」
え…
喋った
犬が喋った
ゲフェンタワーの最上階には喋る犬がいると聞いたことがあったが
流石にこれは予想外
「喋った!?」
俺は犬を壁へと投げるように手を離した
「いたたたた、何するんね」
むくりと起き上がったその犬、明らかに喋っている
いやまて、今までの展開からいくと…
もしかしたら犬が喋るのは当たり前なのかもしれない、ここでは
だって回りの奴等は何も驚いていないし…
「オーケィオーケィ落ち着け俺…犬は喋るものだ、犬は喋る動物…犬は喋る…」
「何言ってんの?」
…あー…なんだそうか
「ちょっと、放り投げるなんてどういうつもり?」
つまりなんだ…アレか…
「酷いですねー、カイゼル君は酷い女ですねー」
女言うな!
じゃなくて…
混乱している俺に向かってその犬は近づいて来る
そして俺の足元へと来ると、俺を見上げた
「ま、そうと解ればイロイロ聞きたいことがあるけんな」
と言った
言った…言った…言った
つまり喋った
「……つまり何だ…また何か起こるってんだな…多分厄介事が…」
どうやら俺の神様ってのは無慈悲な奴らしい
っていうかネタ好きなのかサディスティックなのか…
「大丈夫だ、まず落ち着け」
「…俺…人生で初めて犬になだめられたよ…」
〜銀毛に白毛〜
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