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もしそれがラブレターだったとしたらあまりにも滑稽で…
もしそれが請求書だとしたら何を請求してきたのか解らないわけで…
もしそれが不幸の手紙だったら…
っていうか、これは不幸の手紙以上に最悪のものかもしれない
そんな事を昼休みの最中ずっと考えていた
多分カイルも同じ考えだろう
いや、同じ考えの筈だ
表面上、俺とカイルの性格はあまり似ているとは言えない方だ
だが根本的な部分
危険を察知するだとか、物事の好きか嫌いかなどは大体同じ思考をしている
「これは…あれだよな」
と、俺は隣で芋を食っているカイルへと問いかける
「あぁ、あれだよな…」
手紙の内容を再度確認する
『放課後、資料室前に来るがよい』
と、書かれている
しかも女がよく使うような丸文字でだ、丸文字でありながら命令口調でだ
これを書いた奴の気合がヒシヒシと伝わってくるぜ…
ユツキ先生よぅ…
まるでRPGのイベントのようだ
お使いイベントの如くたらい回しにされそうな雰囲気だ
「資料室前だってさ、カイゼルは行くのか?」
「行きたくない、ってのが本音だけど…色々引っかかる事が沢山あるからなぁ」
「だよな……でもよ、昨日暴れた辺り、凄い事になってんぜ?」
凄い事になってる
多分ガラスが散らばってたり、そこかしこが傷だらけになってるとかそんなんだろうか
あの時は周りを気にしてる余裕が無かった
だからどんな状態になってるか解らなかった
それを確認する意味も含めて、呼び出しには応えた方がいいのかもしれない
「や、ご両人、凄い事って何?」
急に背後から声がかかる
声のした方に視線を向けると、そこには弁当の包みを持ったエルリラが立っていた
左手には飲み終わったであろうミルクの空き瓶を持っていた
「っていうかご両人って何だっつーかナメンナっつーか人をおちょくるのも大概にしろ」
「解ったって、そんなに怒んなくてもいいじゃない」
エルリラは窓際最後列後ろに備え付けられているゴミ箱に瓶を捨てながら言った
エルリラにとっては何気ない一言だっただろうが、俺にとっては心に突き刺さるほどの痛みがあった
ほれ、俺って繊細だから?
「それはないから大丈夫よ」
…突っ込みやがった
俺の脳内に突っ込みやがった
こいつはエスパーか!?
「な、なんで俺が考えてる事が解った!?」
「…勘?」
素晴らしい勘だことで…
むしろ俺の思考回路とか行動パターンが読まれてるんじゃないのか?
まぁ1ヶ月近くも一緒に住んでればある程度の事は解るか
俺は全然エルリラの事なんぞ解らないが
そもそも女の気持ちが解らない
「で、凄い事って何?」
と、エルリラは話を戻してくる
もう少しで話が逸らせると思ったんだが
しかもこいつに知られたらどうなるかなんて解ったもんじゃない
俺はカイルとアイコンタクトをし、学校に忍び込んで凄い事やっちゃいました、という話をしないように心がけた
目と目で通じ合う、はっきり言っておくがそういう趣味はない
「ん、いやな…昨日…」
カイル、マジで頼むぜ、変な事を口走らないでくれよ
「そう、昨日の事なんだけど」
エルリラは無言でカイルの言葉に耳を向けている
「カイゼル…がな?」
俺かよ!?
俺が何したんだ!?
「そりゃもう物凄い女の子女の子した服を着てみたいって言うからさ…」
…待て
いや待て、マジで待て、最高に待て、最悪に待て
「…ふーん……」
やめてくれ、そんな目で見るなエルリラよ
本当の俺はそんな趣味などない
今着てる服だって仕方なしに着てるんだ
兄貴がくれた物だし、何よりこういう服じゃないと胸がきつい
察しろ
致し方ないんだ
そう、こうする他に選択肢が無いんだ
だからその『お洒落に目覚めちゃった女の子』という考えはやめてくれ
「まぁ服屋に行ったんだが、怖気づいたのか『俺帰る、やっぱ駄目だ』って暴れてさ」
「ふーん、そうなんだっ」
『だ』の部分を強調し、エルリラはこちらを向いてくる
何ですかその眼差しは
その…悦ってるような眼差しは!?
子供が新しいおもちゃを見つけたような嬉しそうな眼差しは!?
「それならそうと言ってくれればいいのに」
女物の服を着たいとかそういう考えなんてしてない
お洒落したいとか化粧したいとかそんな考えもない
だからお前にそんな相談をする必要がない
しかしエルリラに昨日の事を悟られない為だ、我慢我慢
「あ、明日丁度日曜日じゃない? 一緒に服とか見て回ろうよ」
「…い、いや、いい…大丈夫…」
「遠慮しなくていいし」
「遠慮してないし」
「恥ずかしがらなくていいし」
「恥ずかしがってないし」
「大丈夫、そんなに高い物選ばないし」
「金の心配してるわけじゃないし」
こいつ、こんなキャラだったか?
俺の肩を掴んで思いっきり説得モードだ
カイル…もうちっと違ういい訳とかは無かったのか
っておい、お前何自分の席に戻ってるか!?
「まぁ何? やっぱ可愛い子ってのはお洒落しなきゃ駄目だよね」
それがお前の意見か…
こいつの可愛いもの好きは知っていたが
まさか俺までそのターゲットにされるとは…
入居当初のお前は偽者か
そう問い詰めたくなるほど変わりすぎだ、お前は
「ね? いいよね? ね?」
「い、いだだだだだ、解った、いい、いいから肩から手ぇ離っいたたた」
このまま拒否し続けると俺の肩の骨がバラバラにされそうだ
未来ある俺の身体だ、仕方なくエルリラの申し出をOKする
元通りの人生へと軌道修正が難しくなりそうだ
〜アコローブ+インナーは黒シャツ+黒パンツ(レザー)〜
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