―――ピピピッ

朝食も終わり、登校の時間まで談話室でテレビを見ていたその時

俺のICカードが甲高い電子音を響かせ、振動した

テーブルの上に置いてあった自分のICカードを手に取り、開く

液晶部分に表示されているWISの送り主の名に覚えがあった

「うーっすカイル、どうかしたか? こんな朝早くから」

WISの送り主はカイルだった

しかもこんな時間にWISか来るなんて珍しい

俺はカイルの言葉を待ちつつコーヒーを啜った

『今から出られるか?』

今ですか?

まだ8時前の今からの事ですか?

「まぁいいけど、どこにいんだよ?」

『学校』

ホームルーム開始ギリギリの登校してくる男の発言とは思えない言葉だった

3日に1回は遅刻しそうになるくらい遅く登校してくるカイルが?

日々コンマ時間で新記録――遅刻の記録を作ってるカイルが…

カイルにとって失礼極まりない思考が頭を巡ったがそれは声に出さないでおこう

それがいい、きっと

「で、学校に行くのが早いという事は絶対になく、日々遅くなっていくカイルが何で学校なんかにいるんだ?」

声に出たがとりあえず疑問をぶつけた

『言い方が気に食わないけど…いやな…昨日の事で、さ…』

昨日の事

なるほどそうか…

「何かあったのか?」

『いや…大声で言えないんだけどな、んー、やっぱ来てからにするわ、色々問題ありそうだし』

と、カイルは肝心な事を話さない

話さないのか話せないのか

頭の中に変な違和感と疑問が浮かび上がったが仕方のない事かもしれない

夜の学校に忍び込むわ、魔物は出るわ、窓ガラスを大量にブチ割るわ

挙句の果てには死に掛けた

もしかしたらかなーーり大変な事をやってしまったのかもしれない

しかも…かなりの厄介事になっているのかもしれない

そう考えるとあまり大声で話せないというカイルの意見は正しいと思う

「そっか、じゃあすぐ出るから…あー…10分後、どこに行ったらいいよ?」

『…保健室…』

「はぁ…?」

『保健室に来てくれ、っていうか…お呼び出し…』

お呼び出し

つまりは呼び出し

学校の教師が校内放送を使って生徒を自身の下へと召集する事

または家に電話をして…WISを送って等等

しかも保健室って事は…

「……ま、まあ…とにかく行く…めっちゃ不安だけど…」

『出来れば早目にな、この空気…耐えられん』

WISの向こう側はどういう状況なのか解らなかったが

カイルは相当辛い状況らしい

そんなカイルの事を考えると、そのまま放置しておきたい気分だ

だけどそれはあんまりだし、何より昨日の事なら行くしかない

俺は自分の部屋に戻り学校へ行く準備をすると寮を出た



「あ、お茶のおかわりとかどうですか?」

「はぁ…いえ、大丈夫です…」

「ケーキとか食べます?」

「いえ…お気になさらずに…」

―――ガラガラガラ

俺は保健室前で数分、中に入ろうか入るまいか考えていた

が、考えてもしょうがないという結論に達し、意を決して扉を開ける

「……何やってんだ…?」

中に入るとサルバとカイルがティーセットなんぞ広げてくつろいでいた

保健室の中にお茶の香りが広がり、気分が段々とリラックスして

くるわけが無かった

「お前は…人を朝も早くから呼び出しておいて優雅にティーテイムですか?」

「まぁ待て、ちょっとこっちに来てくれって!」

カイルは椅子から立ち上がると俺の腕を掴み、サルバから少し離れた場所にまで移動する

「…いやな…あの『のほほ〜ん』とした雰囲気に流されたって言うか何て言うか…」

それで断るにも断れずにティータイム突入ですか

耐えられないってのはあんな感じの雰囲気なのか

俺はチラっと横目でサルバを見る

こちらの事なんて気にもせずにテーブルに並べられたケーキをゆっくりと食べていた

解る

解るぞカイル

あの手の雰囲気は苦手だってのは解る

どちらかと言えば俺達は物静かで物腰柔らかな性格の人間は少し苦手だからな

「で、何でお前はここにいるんだ? ティータイムする為に来たんじゃないだろ?」

「あぁ…その事なんだけど…えっと、一応サルバ先生も…アレだ…」

「…アレ?」

カイルは顔を手で覆うと溜息をひとつついた

数秒の沈黙の後、カイルを口を開く

「まぁ何だ…サルバ先生から話が…あるんだってさ…」

って事は

ティータイムが終わるまで待ってろって事か…


〜保健室でティータイムはOKなのか!?〜