夜の校舎を2階へと俺たちは進んでいく

開かずの間と呼ばれる教室は2階の一番奥にあるとの事だった

正確には資料室らしいが…

俺達が入学する前から使用されておらず、今は厳重に施錠がされているらしい

「何も起きないな…」

ジュリアンが資料室の扉の前に立ち、扉につけられている錠前を掴む

そしてそれを上下に揺らすが、鎖と鎖、鎖と錠が当たる音が響くだけだった

「開けてみるか?」

カイルは顔が錠前にくっ付きそうになる程近付いた

それを指で軽く弾くと錠前を開けようとする

が、ガチャガチャと音がなるだけで一向に錠が開く事はなかった

「無茶すんな、開かないんだから最初っからここは開かないもんなんだろ」

開かない錠前とカイルを見ながら俺は呟いた

ここまで厳重に施錠されているんだから簡単に開けられる筈が無いんだろう

消えた女生徒ってのも、たまたまこの部屋の近くで消えたってだけで

実はこことは関係無かったりしてな

「どーする、まだ調べる? それとも帰る?

と一番後ろに位置していた円璽

「どうすっかぁ…」

カイルはまだ名残惜しそうに錠前を見つめている

学校に侵入してから30分も経たずにいわゆる『調査』というものが終わってしまった

もっとも、これは俺らが勝手にやった事だし大声で話を出来る事でも無かったが…

何にせよ何も起こらなかったし、何も無かったんだ今日はもう戻ってもいいだろう

―――カタ…

「帰ろ帰ろ、春なのになんか寒くてしょうがない…」

円璽はそう言いながらカートを引っ張っていく

―――カタン…

「仕方ないけどね」

ジュリアンも扉から離れると元来た廊下を戻る

それに続いてカイルと俺も後をついていく

―――ジャラン!

「っ!!」

資料室の扉から俺達が少し遠ざかったその時

錠前に繋がれていた鎖が激しく音を立てた

よく見ると、扉に掛けられていた錠は外れ、鎖は千切れていた

「…なんか…やばい予感がするんだが…」

カイルは後ろを振り返らずに言う

いや、正確には振り返ることが出来ないでいた

それは俺も一緒、ジュリアンも円璽も一緒だった

黒っぽい何かの波…

―――ギィィィ…

扉が開く音がするのと同時に、言い知れぬ恐怖が俺達を襲った

生ぬるい風とはっきりと解る程の殺意、恐怖、憎悪…

それらが俺達の背中へと突き刺さる

「走れ、走れ…走るんだ…そこを曲がったら全速力だぞ…」

俺は小声で他の3人に指示を出す

指示と言えば聞こえがいいが、ただ単に自分自身へと言っていただけなのかもしれない

どれだけ歩いても後ろの『何か』は離れようとしなかった

一定の距離を保つだけで何をしようという気も無かったのかも知れない

しかし、すでに全身を恐怖で強張らせてる俺達に向こうの考えなんてどうでも良かった

この場から去りたい

ただそれだけを考えていたから…

「は…しれぇぇぇ!」

廊下の突き当たりを曲がり、俺は大声で叫ぶ

この際どうでもいい、誰かに見つかるとか、教師に発見されるとか

あの『何か』から逃げ切れるなら

―――ガシャン! パーン! パリィン!

「うぉおぉおぉぉおぉ!」

全力で走る俺達を追うかのように聞こえてくる音

俺達が通った後の廊下には窓ガラスが割れていた

「くっそぅ!」

俺達4人はほぼ同時に階段を飛び降りる

俺はメイスを構え、ジュリアンは弓を構える

カイルはすぐさま詠唱に入れる体勢を取り、円璽は手にした斧を握り締める

さっき飛び降りた階段の上を見つめる

割れたガラスを踏みしめる音が聞こえた

すぐそこまで迫って来ている、俺達には計り知れない程の力を持った何か、が…

だが、ガラスを踏みしめる音が階段の上であろう所で止んだ

相手も用心深いのか、辺りを気にしてるようにも感じた

これが魔物とかだったらかなり厄介だな…

俺は呼吸を整え、その『何か』が降りてくるのを待った

〜学校の怪談?〜