翌日
つまり俺が昨日家族にはめられた日の次の日
俺は朝も早くから家を追い出されてしまった
この分だとプロンテラに到着する時間がかなり早くなってしまう
別段やる事がないので少し困りものだ

「お、カイゼルじゃないか? 何やってんだこんな朝早くから」

イズルートの大橋で顔見知りの漁師と出くわした
漁の帰りなのか、手には魚の入った小さめの籠を持っていた
どうにもいいタイミングで面倒な人間に会うもんだなぁ

「……まぁ…色々ありまして」

本当の事を言ったら何言われるか解ったもんじゃない
今でこそ馬鹿な事をやっていないが、少し前は人様の迷惑になるような事を多々俺は行っていた
正直に『親の策略によって家を追い出されました』なんて言ったらそれこそいい笑いものだ
イズルートの街はそれほど広くはない
変な噂が立てば一気に街中に広がってしまう

「家でも追い出されたか? はっはっは」

「…うっ…」

何で人間ってのは何気ない一言で放った事が的中するんだろう
言葉に詰まっている俺の横を豪快に笑いながら漁師の男は歩いていった
……お、俺は挫けないぞっ


第2話 プロンテラと交渉術と


「ったく、ありえねぇっての…」

イズルートから北西に少し歩けばプロンテラが見えてくる
流石は大陸一の都市だ、イズルートとは比べ物にならないくらいデカイ
プロンテラの南門までまだまだ距離はあるのだが、門の巨大さといったらなかった
モンスターの進入を許さないという決意の現われか、もしくは国家としての威厳があるのか
どちらにしてもプロンテラの街を外から見てもいつだって驚かされる

「プロンテラ…プロンテラねぇ……」

南門を目指しゆっくりとプロンテラを目指す
空は青く広がっており、絶好のピクニック日和というところか
…俺の心ん中は変色してるけどな…
以前から親のぶっ飛んだ性格には泣かされてきたが、今回が一番辛かった
何の相談もなしに荷物を送るし、しかも明日から実家を引き払うときたもんだ
色々思い出だって詰まってるっていうのに…そんな事はお構いなしか

「…いい事ばっかりでも…無かったか…」

…いや、思い出したくない思い出もそこにはあった
忘れたくても忘れられないその記憶、雨の酷い日などには夢に出るくらいだ
もう何年も経っているのに未だにその状況を鮮明に覚えていた

「う……」

今でも思い出すと吐き気がする
いきなり朝からテンション下降気味だ

気を取り直して途中数匹のポリンやファブルを相手にしながらプロンテラを目指す
凶暴なモンスターが徘徊していないので街の外だといっても結構平和だ
そのまま暫く歩いていると木陰や岩陰で露店を出している商人が目に入ってくるようになる
プロンテラ南門の付近は通称『臨公広場』と呼ばれており冒険者で溢れている
そんな冒険者を相手に商売をする商人がぽつぽつと見えてきたならプロンテラまではあと少しだ
相変わらずプロンテラの南門は威風堂々と目の前の聳え立っているがまだ歩くのか

「ありゃ? カイゼルじゃない?」

「は?」

人ごみを掻き分けながら南門を通過しようとした時だ
どうにも聞きなれた声に呼び止められる
…どうにも天敵の声にも似た…姉であるアリエルの声にも似た…似た…

「本物だし!?」

振り返るとそこには光り輝く十字の斧を腰に携えたブラックスミスが仁王立ちよろしく立っていた
仁王立ちよろしくってどんな言葉だ…かなり焦ってるな俺
こんな事を考えてる分じゃ結構冷静かもしれないけど
ってか今日からゲフェンの鍛冶師の所で修行に入るんじゃなかったのか
なのに何でプロンテラにいますかよ

「まだゲフェンに行かなくても大丈夫なん?」

「ん? まぁ転送代稼いでるっていうか…ゲフェンにゃ昼までに着けばいいし…」

まがりなりにもアリエルはブラックスミスだ
転送代を稼ごうと思えば簡単に集まる筈
以前過剰な精錬を繰り返し散財をした時も一週間程で資金を調達したくらいだ
というか昨日、ウィスパーカード出ちゃったよあはは、とか言ってたような気が…

「…あのーオネイサマ? どうして一晩で無一文になったんですか?」

少し前から頭の中を縦横無尽に駆け回る疑問はほぼ確信に変わっていた
アリエルは何て言うか、そう、無類のギャンブル好きなのだ
青箱紫箱カード帖…過剰精錬に製造、何でもござれのギャンブル好き
両親にまで箱はやめるように言われてるくらいだ
ただ一度と箱をやめた事はなかったが

「んー…まぁ色々とあってな」

で、その色々であなたは一体いくら使いましたよ
その色々に使った金は一体何時間で消し飛んだよ

「あれほど箱はやめろって言われてたのに…」

「まぁまぁ過ぎた事を悔やんでいては大きくなれないぞ、少年よ」

「姉さんはちったぁ悔やんでくれ…」

「悔やんださ、だが失敗を恐れていては前には進めないぞ、少年よ」

「姉さんはちったぁ失敗を恐れれ…」

「ブラックスミスは恐怖に足が竦んで前に進めなくなる事があってはいけないのだ!」

随分と勇ましい鍛冶師ですよね、ブラックスミス
騎士道精神を持ち合わせたブラックスミスなんてのは初めて聞いたよ
や、多分勇猛果敢な奴だっているかもしれないが…こう何て言うか

「…あれほど箱買うなって言われてたのに…
今度ばれたらどうなると思っているんだか…」

普段は温厚で通っている母親だが堪忍袋の緒が切れると手に負えなくなる
アリエルはすでに『この次はないからね、うふふ』と言われていた
そう、ようやく何て言うのかが解った。懲りない奴、だ
流石に母親の事を聞くと表情が少し暗いものになった
そして暫し思考したあと、アリエルは3枚のカードを俺に投げる

「っとぁ、何これ」

「アンドレカード」

「アンドレぇ?」

「なぁ少年よ…君が黙っていれば万事解決するのだよ、何もかも
それをそうだな…今持っているメイスになんぞ挿してみて箱の話は忘れるってのはどうかな?」

それはつまり買収ってやつですか
俺は手渡されたカードを見つめながら悩んだ
が、悩んだのは一瞬だけ、結論なんてとっくに出ていた

「ベントイン!」

俺はギリギリまで精錬された手持ちのメイスに次々とアンドレカードを挿していった
つまり答えはOK
簡単な事だ、人間は欲には弱いって事、そして我が身が一番可愛いということ
交渉成立だ
そして手元にはトリプルハリケーンメイスが残った

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル