始まりはいつも暗くて長い通路…

次に見えるのは赤く染まった小さな部屋…

宝石から伸びる茨のようなもの…

次に見るのは自分自身だ

あぁ、でもこれはあの時の俺か…

赤く染まった部屋

あれ?

赤く染まってるのは小さな部屋なのか、妹のシェラなのか、それとも…

俺自身なのか

そして最後に見るのは白い天井

そして鎧に身を包んだ人達と

「昨日の事は忘れるんだ」

その一言…

でも

忘れたくても忘れられない…



「…またか…」

俺は目を覚ますと枕元の時計を見る

時間は朝の6時ぴったり

「最近…あの夢…見過ぎだよな…」

誰だったか、俺に忘れろなんて言った奴がいたが

忘れたくても忘れれる筈がないだろ

俺は…

「…ふぁ〜…駄目だな、精神が乱れてる証拠か」

まぁ今は焦ってもしょうがない、確実に実力をつけるんだ

俺は祖母とそう約束した、ゆっくり、地道に、だけど確実に強くなる

焦らずに目標を見定めて日々鍛錬をする、そう約束した、約束したんだ、強くなるって…

『日々の鍛錬に勝る実力は無し』は祖母の口癖でもあった

「っし! んじゃとりあえず…」

俺は着替えて外に出ると寮の庭に生えている大きな木の下に来た

ここに入ってからほぼ毎朝俺はここに来ている

まず目を覚ます為に軽くジョギング

その後軽めのストレッチをし、メイスを持って素振りをする

特に何回と決めていないが、自分が納得するまで振る

そしてある程度したら木の根元で座禅を組む

そうやって俺は常に心と身体を鍛えている

「おぅ、早いな…カイゼル」

素振りをしている最中に、誰かに声をかけられる

「ディルさんこそ早いですね」

振り返るとそこには環頭太刀を持ったディルが立っていた

「ん、まぁ今日から本格的に授業開始だからな」

「意外と真面目なんすね」

「意外と、は余計だな」

そう言ってディルは笑う

後で解った事なのだが、どうにも真面目そうな感じがしないこの先輩

実はかなりの実力者なのらしい

だからと言って、特に特別な修練をしてるわけでも無く、また勉強を一生懸命やってるわけでもないらしい

いわゆる天才って奴だ

「ぁーもう学校とかダルイんだよなぁ…」

「んな事言っていいんすか?」

俺は来月に開かれるある事を含めて言った

ディルもそれを察したようで、少し口元が緩む

「期待されてる、ってのは辛いもんなんだよ、ましてや今度は開催20周年だかなんだかだしな」

「確か…プロンテラ王も見に来るんすよね?」

「あぁ、でも俺はそんなの興味無いんだけどねぇ…」

「そんな事言わんで下さいよ。俺もちょっと期待してるんですから」

俺はこの人がどう戦うのか見てみたかった

それは自分の為でもあったし、今後の為でもあったし

「選ばれなかったらそこで終わりだ」

代表が学園から3人選抜されるっていう事らしいがディルはもう決定だろう

前評判だけで凄まじい事になってるしな

「ま、そん時は俺が出ますから」

俺は素振りを終えると座禅を組む為に木の根元へと移動する

「新米が何言ってるんだか」

俺は目を瞑って精神統一をする

だがディルが剣を振りながら俺の言った事に対して笑っていたのだけは解った



「まだみんなの実力がどれ程のものか解らないからね、今日はみんなで狩りに行きます」

高等部に入って一番最初の授業が始まった

担任である金髪の騎士、アリスが名簿を開きながら言う

「パーティーはみんなで適当に決めてね、この時間内だからね、はいじゃあ行動ー!」

そう言ってアリスは手をパンパンと叩く

「…狩りって何だ?」

まだこのクラスで話してない奴が大勢いたので、とりあえず俺はジュリアンとカイルをパーティーに誘った

この2人も俺と同じらしく、俺の申し出に承諾してくれた

「実力、って言ってたからなぁ…」

カイルは自分のICカードを取り出すと、ステータスの項目を開く

「あ、カイルってLv19なんだ、俺より1高いんだな」

それを覗いていたジュリアンが自分のICを出す

そう言えば最近自分のIC見てなかったな、一体俺のLvはどれくらいかな

俺も自分のICを取り出し確認する

ステータスの項目に行く前に残金が出るのはやめて欲しいもんだ

最近入用で残金を見る度に切なくなるんだから…

「カイゼルって…お金あんまり持ってないのね」

「うあっ!? 勝手に見るんじゃねぇよ!」

後ろからエルリラの声が聞こえる

見られた…

見られてしまった…

残金2519zの俺のICを…

「だけどLvは高いんだね…」

本当だ、俺のLvは26か

確か高等部1年の生徒の平均Lvが20だったと思った

そう考えると俺のLvは少々高いんだな

「で、エルリラはパーティー組んだのかよ?」

「ん、それなんだけど、私達も一緒のパーティーに入れて欲しいな、って」

「別に良いけど、私達って?」

「あ、紹介しなきゃね」

そう言ってエルリラは後ろに隠れていたアコライトを引っ張り出す

って…

昨日のあのアコライトじゃねーか…

別に俺がやましい事をしてる訳でも無いのに、なぜか挙動不審っぽくなってしまう

「あ、えと…アイラ…アイラ・ヘミングって言います…あの…」

うーむ

どうやら対人恐怖症があるのか、それともアガリ症なのか

俯いたまま小声で喋るのでうまく聞き取れない

「ごめんね、人見知り激しい子だから」

そうエルリラが付け加える

一緒に行動していけばそのうち慣れるかな

「はーい、じゃあ時間だからとっとと教室出て校門に集合〜」

そうこうしてる内に狩りに向かう時間へとなったようだ

俺は慌ててICカードでパーティーを作成し、みんなにデータを送る

何とかパーティーも作れたので校門へと向かった

さて、これから何処に行くんだろうかな…

〜ちなみにカイルの残金は800z〜