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俺は部屋に戻るとそのままベッドに倒れ込んだ
まだ膝がガクガクしている
「っ…だらしねぇ…」
枕に顔を埋めながら呟く
そんな筈が無いのにな、俺の考え過ぎだっていうのに
あの日みたいな事は起こらない筈なのに
ここは古代呪文で守られてるから安心な筈なのに
「…どうしたの?」
「えぁ…?」
あの騒動の後、帰ってきたエルリラは談話室に直行した
というのも、アコライトの少女が悲鳴をあげた理由が世の女性陣には何とも嫌な理由だったからだ
「どうだった…覗きだったんだって? 何か言われたか?」
俺はその場に居ても立ってもいられなくなり、部屋に戻った
だからどんな話がされてたのかは解らない
「えっと、しっかり戸締りするように、だって」
「そか…」
「あとしっかりカーテンを閉めろ、とも言われた」
極々普通の事か
まぁそれ以外何をしろ、って言われても無理だしな
下手に捕まえようとして相手が相当強かったりしたら危険だし
「さっきの今でいきなり、何て事はないと思うけど、カーテン閉めとこうね」
そう言ってエルリラはこの部屋に一つしかない窓へと向かう
俺も何気なく窓の方を見る、と…
誰かが窓の外から中を覗いているのが見えた
俺は飛び起き、すぐさまエルリラのもとへと駆けつける
「っつーかここ2階だぞ!?」
「え? え?」
外の人物に気がついてないエルリラをよそに、その人物が誰なのか、何者なのかを確認する
「あ゛…」
木に登っていた人物は俺の見慣れた顔だった
黒い髪にアサシンの姿
トレードマークの悪魔のヘアバンド
間違い無い、俺の兄貴…アトラスだ
「一体何なのよ…あ…」
エルリラが兄貴と目が合う
拙い、これは拙い、叫ばれたりしたら…
「きゃあああむぐっ」
俺はエルリラの口を右手で塞ぎ、左手でエルリラの右手を掴む
短く、だが微かに長い悲鳴が漏れてしまった
どうか他の奴等に気付かれませんように…
「うー! むー! むぅー!」
「待てコラ、暴れるな! 俺の話を聞けって!」
「うー! うーっ!?」
「うおぉぉおぉ!?」
激しく暴れるエルリラが足を滑らし床に倒れる
それに巻き込まれ俺もエルリラに覆いかぶさるように倒れてしまう
「何事だ!?」
「何だ何だ?」
「どうかしたの?」
そして最悪の結果
さっきの悲鳴が聞こえたのか…
俺らが床に倒れ込んだ瞬間に、他の寮生達が俺達の部屋に入ってきた
「うー! うー! むー! うーーーー!」
しかも言い逃れも出来ない構図
まさに嫌がるエルリラを俺が押し倒してるような…
っていうか、このシチュエーション2回目かよ!?
「…ま、その何だ…まだこんな時間なのに、そういうのは止めとけ…」
と騎士の男が言う
「違うっつーの!」
俺が反論しても他の奴等には聞こえちゃいない
いや、聞こえてても信用しちゃいない
「いいから出てけーーー! っだーーーー!」
俺はその場から飛び起き、入り口付近にたむろする奴等に飛び掛る
自分でも何言ってるのか訳の解らない言葉を叫びながら
「ったく、入るんなら早く入れよ…」
大勢のギャラリーを追い返した後、エルリラに窓の外の人物が俺の兄貴であると説明した
少し警戒しながらも、兄貴をこの部屋に招き入れる事を了解してくれた
「いや、悪いなカイゼル」
「や、いいよ…っていうかこの姿には突っ込み無しか…」
とりあえずこの事を言っておく
今まで会う奴会う奴に突っ込まれてたから先に行っておく
「そうなんだよ、その事について少し情報があってな」
「情報?」
「これなんだが…」
そう言って兄貴は数枚の写真を差し出す
それを受け取り眺め…
「ぬぁ!? こ、これは…」
「なになになに?」
驚き固まっている俺の後ろからエルリラが顔を覗かせる
こ、これは見せる訳にはっ!
「これって…カイゼルじゃない?」
少し遅かったか…
見られてしまったからにはしょうがない
「あぁ、しかも明らかに隠し撮りだな…って、何で兄貴が持ってるんだよ!?」
「どうやらな……」
「どうやら…?」
兄貴は真面目な顔になり、目を細めた
何かやばい事にでも首突っ込んじまったのか!? 俺!
「今プロンテラで最も熱い萌え少女にノミネートされたらしいのだ、お前が」
「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「えっーーーーー!?」
俺がか!?
っていうか何だそれは!?
萌え少女って…俺が萌え少女って…
「まぁ詳しくはプロンテアスクエアのVol3を読んでみろ」
「あ、ああ…」
プロンテアスクエア…確かPC限定のメール雑誌だったよな
名前だけなら聞いた事あるし、暇があったら読んでみるか
「で…」
「ん? 何だ?」
「どうしてこの写真が俺だ、って解ったんだ?」
ふとした疑問をぶつけてみる
今の俺と男の時の俺とじゃ見た目がぜんっぜん違うから…
「プロスクにしっかり名前まで載ってたからな、お前が有名になって兄ちゃんうれしいぞ」
「うっさいバカ兄貴が!」
「あっはっは、んじゃ俺はそろそろ戻るとするな」
ようやく帰るかバカ兄貴…
もう当分顔見せなくていいからな、とっとと帰れ
「と、そうだ忘れるところだった」
「あん? 何これ?」
兄貴は帰り際に俺に少し大きめな箱を手渡した
綺麗に包装された箱を
「俺からの入学祝いとでも思ってくれ、んじゃな」
「あぁ、サンキュな」
兄貴は入ってきた窓から外に出ると、壁際に張り付き姿を消した
アサシンのスキル、クローキングだ
それだけ見てると覗き魔や変質者と何ら変わらないだろう
ってかアコライトの少女の部屋を覗いてたのは兄貴か…?
むぅ…だとしたら大問題、なのか?
「ね、ね、その箱、何が入ってるのかな?」
「ん? あぁ」
俺はエルリラに急かされるままに箱を空ける
こ、これは…
あんのバカ兄貴が…
「わぁ、可愛いじゃない」
「っつってもなぁ…今の俺にゃ助かるけどさぁ…」
中に入っていた物、それは女物の服数点だった
全部の服を取り出すと、一番下に手紙のような物が入っていた
それを開き、読んでみる
『これ着てお洒落でもしろ、絶対1位取るようにな』
「じゃねぇよ! うがー!」
俺は手紙を握り潰し、ゴミ箱へと投かんする
そういえばそろそろ夕食の時間だったな
さっきの事、聞かれませんように…
〜プロンテアスクエア、春季特集は最も熱い萌え少女特集〜
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