始業式も終わり、クラス分けの発表も確認した

そして帰りたかった

だけどそれは儚い夢なわけで…

「ほらっ、キリキリ歩く」

俺の歩くすぐ後ろにはバスタードソードを俺の背中に突きつけてる女がいる

少しでも歩く速度を下げると背中を剣で突っついてくる

「あの…エルリラサン…ニゲナイカラダイジョウブデスヨ?」

「駄目、このままゆっくり歩く!」

「…はい…」

しばらく歩くとC組が見えてきた

ここはもう覚悟を決めて行くしかないのか、それとも命懸けで…

ちらりと後ろを振り向く

相変わらず剣を構えたままのエルリラがそこにいた

しかも妙にニコニコした顔で…

命懸けでの強行突破は無理だな、一瞬で切り刻まれる

俺は意を決して教室のドアを開ける

中に入ろうとすると頭の上に何か落ちてきた

それはボフッという音と共に白い粉を撒き散らした

足元に落ちたそれを見ると、黒板消しだった

……また幼稚な事をやる奴がいるもんだよな…

まぁ入学早々舐められるのも俺の流儀に反する、ここは一丁…

「ふぅ…これ仕掛けた奴、一歩前出ろコラ」

俺の流儀ってのを教えといてやらないと、喧嘩を売られたら全部買え…ってな

教室内を見回してみても静まり返っていた

俺が視線を向けるとほとんどの生徒は顔を背ける

「ちょっと、いきなり何言ってるの、入学早々問題起こすつもり? いいから席つきなよ」」

後から入ってきたエルリラに止められる

エルリラに対して何かを言おうとした時、後ろの方から笑い声が聞こえた

アイツらか…

一人は男の剣士でもう一人は女のマジシャン、そしてそいつ等のすぐ近くに男のシーフが一人

そいつらは俺を見ながらニヤニヤ笑っていた

絶対に俺とは仲良く出来そうにない奴らだな、見てて俺の方が不愉快になってくる

見た目が!

「よう姉ちゃん、毎日楽しく過ごしたかったら俺らに逆らわん方が身の為だぜ?」

その中の一人、三人の中のリーダー格であろう剣士の男が俺に近づいて来る

姉ちゃん言うな…

「いずれこの学園は俺がシメル、変にぐはっ」

つまりそーいう事か

俗に言うあれですか、不良ってやつで、ここの番長にでもなりたいわけなんだな

だったらいいや、挨拶代わりに俺の拳を貰っときな!

「あ? 何だって? 変に何だ?」

今からコイツは俺の中で不良君に決定だ

その不良君は俺が不意打ち気味に放った右ストレートを思いっきり受けて倒れ込む

不良君は鼻っ柱を押さえて俺を睨みながら立ち上がる

「てんめぇ…そんなに俺とヤりたいのか?」

「あぁ、足腰立たなくなるまで俺が相手してやんよ…」

「いい度胸だぜ…」

「てめぇにゃ無ぇだろ? こんな度胸」

「ぶっ殺す!」

「はーいそこ、ホームルーム始めるから席について」

「ちっ…」

不良君が剣の手をかけたその時、担任であろう教師が教室に入ってきた

そこで喧嘩は中断

俺達は自分の席へと向かった



「と言う訳で、授業は来週からになるからね」

一通りの諸連絡が終わり、担任である女騎士は開いていた名簿を閉じる

「さて、折角時間が余ってるんだし…私達はお互いの事を知るべきだと思うな」

つまり今から自己紹介タイム、って訳ですね

窓際の席に陣取った俺は窓の外を眺めながら『そんなんどーでもいいよ』と心の中で呟いていた

「じゃあ出席番号一番の人からねー」

そんな俺の思いとは裏腹に自己紹介タイムは開始した

教師は再度名簿を開くと順番に生徒達を指名していった



「じゃあ次、カイゼル」

ついに俺の順番

最初は別に自己紹介なんて簡単でいいや、って思ってたけど今は違う

最悪な事に…

中等部時代友人、同級生がこのクラスにいやがった

出来ればこのまま俺の順番なんて無かった事にして欲しい

「カイゼル、カイゼルってのは何処?」

そう何度も名前を連呼せんで下さい

「はい…」

俺は観念し、返事をしながら立ち上がる

「えー…カイゼル・FC・グリディア、職業はアコライトで趣味は読書と映画鑑賞です。

えー…よろしくお願い…しま…す」

しまった…ジュリアンとカイルと目があってしまった…円璽はよかった寝てる

ジュリアンとカイル…何か話してるし、ぜってー俺の事だ

あぁぁぁぁあぁぁ、絶対に『モロク行ってきたのか?』 とか聞かれそう

「以上です」

多分声が上ずっていたかも知れない、自分でも驚く程動揺していたからな

「えーっと、じゃあ次は…」

俺はこの後の事で頭がいっぱいになり、他の生徒の自己紹介なんて聞こえなかった



授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く

今日はロングホームルームだけだったのでこれで終わりだ

「…え? お前何? 何あったの? モロクとか…行っちゃったの?」

授業が終わると同時にマジシャンであるカイルが俺の下に走ってくる

「行ってねぇよ!」

「だって、ほら、あれ、何、え、あれ…?」

カイルは俺の全身を見て明らかにパニックになっている

そりゃそうだ、最後にあったのが中等部の卒業式

それから数えると1ヶ月会っていなかったからな

「1ヶ月もあれば人間変わるもんなんだな…お前にその、何だ…そういう趣味があったって…」

そこに遅れて、寝てる円璽を起こしていたアーチャーのジュリアンが混ざってくる

しかも変な誤解を加えつつ

「違う、青ポと赤ポの両方の効力があるってポーションを飲んだらこうなった」

「だからって…なぁ…」

腕を組みながらジュリアンは一点を見つめていた

「だよなぁ…」

そしてカイルも

「「ミニスカートってのはどうなんだ?」」

二人は同時に痛い所を突いてくる

言うな、俺もそれは自分自身に問いたいくらいなんだから

「あ、それ私の服だからね」

そしてまた一人この会話に混ざってくる者あり

多分一番ここにいて欲しくない人物の一人、エルリラだった

「あ、そうなんだ、えーっと…」

「エルリラ、エルリラ・アークウィル、よろしく」

「あ、俺カイル、カイル・ウェストナイト、んでこっちのでっかい奴が…」

そう言ってカイルがジュリアンの方を向く

「でっかいって言うな、ジュリアン・クィーダ、よろしく」

「で…エルリラちゃんの服って…?」

「エルリラ、でいいよ、まぁ色々訳ありでねぇ」

言うな、言うなよ

俺達が同じ部屋だって絶対言うな

俺がこうなっただけで勘違い、誤解の嵐だ

言ったら絶対…

「確かカイゼルと同じ部屋の人…」

円璽キサマーーーー!

どっから沸いてきたーーーー!

「あ、俺は軌愁 円璽、何か買いたい物があったら言ってね、割引で買えるから」

「えぇい! そんなのはどうでもいい! なぜ俺とエルリラが同部屋だと知っている!」

俺は円璽の肩を掴むと前後に激しく揺らす

揺らして揺らして、そして問い詰める

「だって俺もあそこの寮に入ってるし」

……迂闊っ

あんまり寮生とコミュニケーションを取ってなかったのが原因か、俺

しかし何だ…

とりあえず俺の事を無言で見つめてるカイルとジュリアンの誤解を解かなければ…

〜不良君を応援しています〜