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一向に男に戻る気配が無い俺の身体
だけど今日は始業式であったりするわけで
「…行きたくない…」
2日前の事を思い出して、俺は布団に潜り込む
学校に行ってからもあんな状態になるかと思うと行きたくなくなる筈だよ
「ほら! さっさと起きて! 朝食は仕方ないから見逃したけど、ちゃんと学校に行かないと!」
エルリラは俺の潜っている布団を引き剥がそうと力を入れる
だが俺はそれに対して目一杯の抵抗をする
「絶対に行かない! あん時の周りの反応見ただろ!? ぜってー嫌だ!」
「そりゃ確かに…あれは酷いと思ったけど…」
「だから行かない! 身体が元に戻ってから行く!」
思い出しただけでも気持ち悪い
帰省先から戻ってきた寮生に言われた言葉が…その言葉が!
何回言われたんだろう…『可愛いカワイイ』って、しかも男共からだ
俺は見逃さなかった、自分が男であると言った時のあいつらの目を
『面白い奴だな』って思ってたその目を
まるっきり信じていなかったその目を
まぁディルとエルリラ以外は信じてなかった、俺の男の姿を知らなかったからな
「だだを……こねるなっ!」
「んごふっ!?」
エルリラは右拳を高々と掲げると気合を込めて、力を込めて俺の左脇腹に振り下ろす
剣こそ持っていないが、剣士の基本技・バッシュだ
「さっさと起きて着替えなさい! いいわね!」
布団の中で脇腹を押さえて悶絶する俺にエルリラはキツイ口調で言い放つ
「は、はぃ…」
未だに拳を構えているエルリラがそこに立っていた
逆らうと命は無いように思え、半分呼吸困難に陥っていたがごそごそと起きだす
そして気がつく
「服……」
俺は馬鹿か、始業式に出る為の服を用意していなかった
あの日から3日も経ってるのに…色々ゴタゴタしてたせいで用意出来ていなかったんだ
何か着る物は無いか? まだ開けてないダンボールの中を探してみる
とりあえず自分の持ってきた衣服を床に並べてみる、が
「…なんも無いんだけど……」
って事はまたあの恥ずかしい格好で始業式に出なきゃならないのか!?
流石にそれは拙い、最悪の方向に転がりそうだ
「なぁ、何か…その…胸がきつくない服って…ある?」
最悪だ、俺
何を言っているんだ、俺
だけど胸回りが…何だ…えぇい!
「それって嫌味…?」
っ!?
しまった、地雷を踏んだのか俺?
「いやいやいや、俺の持ってる服さ、何だ…半乳出しみたいじゃん!? だからさっ」
せめて胸の隠れる服を貸してください…
俺の今の心境を、心情をお察し下さい、エルリラ様…
「っ……うーん…買ったはいいけど着てない服があるんだけど…それでもいい?」
着れるなら何でもいい
この際スカートだって何でもいい
いや、下はズボン履いてくからそれは大丈夫か
ともかく乳が出なきゃそれでいい、頼みます
俺は無言で首を縦に高速に何回も振り続けた
「…ふぅ、んっと…」
エルリラは溜息ひとつつくと、自分のクローゼットを開き、一着の服を取り出した
想像してたような、女の子女の子したような色じゃなかったのが俺には救いだった
本来プリーストで無い者が着るような、それに近い黒い色をした服
俺はそれを受け取ると服を広げる
「…………え…?」
俺の期待は…
色々な意味で打ち砕かれた
学校に着いたらクラス分け発表を見る時間も無く、すぐに始業式が始まった
ギリギリまで布団の中に潜っていた挙句、始業式に向かう準備をしていたから仕方ないのだが
しかし、中等部時代の友人に会わなかったというのは良かったのか悪かったのか…
まぁ考え得る事態を先送りにしただけだから悪かったと思うな
「それではこれで始業式を閉式致します」
この後どうしたもんか?
と考えていたらいつの間にか始業式が終わっていた
「クラス分け、見てこないとね」
前に立っていたエルリラが後ろを振り返ってくる
「あぁ、そうだったな」
俺等以外の生徒は既にクラス分けを見たのか、ほとんどの生徒が校舎の中へと入っていく
俺とエルリラは逆方向へと歩いていくと、『クラス分け発表』と書かれた掲示板があった
A組から順番に見ていくと俺の名前を発見した
「C組、か」
「私もC組…」
どうやら俺とエルリラは同じクラスらしい
って事は…朝も昼も夜もこいつと一緒に過ごすって事か
「ほとんどカイゼルと一緒の時間を過ごすんだ…」
「あっ、あぁ、そうだな」
エルリラも俺と同じ事を考えていたらしい
何か妙に親近感が沸くって言うか…
「いいよもう、学校でもあなたの顔なんて見なくても」
大丈夫、俺もだ
と言いそうになったが口には出さない
また変な事言ってあのキッツイ目になられるのは御免だからな
ほんと、あの目は異様に鋭かったしな
だけど何で急にこれほど話しかけてくるようになったのか未だに解らなかった
「ほら、さっさと行かないと」
「お、おぅ」
そんな事を考えても俺には解らない事だった
それよりも今の俺には問題な事があるんだ…
「…あんまり行きたくない…」
一体教室に入った時の反応がどうなるか…
出来れば中等部時代の友人が同じクラスではありませんように
〜ちなみにカイゼルの服装は次回明らかに…〜
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