ざくり、と落葉を踏む。 その感覚に頬を弛ませて、もう一度ざくり。 「………」 しばらくそのまま黙っていたソラだったが、またすぐにざくざくと積み上げられた落葉を踏み始めた。 雲がとても高い位置に見えるようになると、森の木々は葉の色を変える。 そして風に煽られその葉を地面に降らすということは、ソラも知っていたことだった。 だが… 「あー!ソラ何してるのー!!」 「駄目だよせっかく集めたのにー!」 子供たちがソラの行動に気が付き、一斉に咎めに集まる。 「…駄目、だったのか?」 きょと、と目を丸くしてソラが首を傾げると、子供たちは揃って首肯いた。 森に降り積もった落葉を集める。 森に落ちた木の実を集める。 集落の多くの人々がこの時期にはこの仕事を果たす。 ソラも大勢の人とともに集落から程近い森に来ていた。 始めは言われるままに葉を集めていたのだが… 次々に集められ山となる落葉を前にして、どうしてもやってみたい気持ちに彼は魘われてしまったのだった。 「そうするとほら、また集めないといけないでしょ」 「…そうだな、すまない」 素直に自分の否を認めると、ソラは自らが踏み荒らした葉を集めなおした。 落葉を集めている場所から離れ、今度は木の実を集めている人たちの方へと向かう。 人々は地面に落ちた木の実を拾ったり…木を揺らして更に落とす人もいる。 ばらばらと上から降ってくる木の実に興味を引かれながらも、ソラは子供たちに囲まれているミコトへと近付いた。 「ミコト」 「ああ、ソラ」 何をしているのかと覗き込むと、どうやら木の実の見分け方を教えているらしい。 一緒になって聞いていると、後から服が引っ張られた。 振り向くと、にこにこと笑みを湛えた少女と目が合う。 「ウエナ」 「こっちに来い、ソラ」 ぐいぐいと引かれるままにソラは彼女に付いていった。 引かれて行った先には木の実がいっぱいに詰まった袋の山。 そして方々から、次々に木の実を持った人がやってきていた。 「詰めるのを手伝え」 「あ、ああ…」 人々が持ってくる篭から袋へと木の実を移し替える。 ウエナが袋の口を持ち、ソラがその中へと木の実を入れた。 ざらざらと木の実が流れ、手に持った篭が次第に軽くなる。 「……」 空になった篭を人に渡すと、その人はまた木の実を集めに行った。 ソラはウエナと一緒に木の実がたくさん入った袋を覗き込む。 「たくさん…」 「そうだな、たくさんだ」 目をぱちぱちとさせているソラを見てウエナは苦笑する。 思わずソラが袋の中に手を入れてみると、ざくりとした感覚が伝わってきた。 「………」 じゃか、と掻き混ぜる。 ちらりとウエナを見ると、にこにこと笑っていた。 「…いいか?」 「程々になら」 全く、と微笑むウエナに笑みを返して、ソラは中身を掻き混ぜて遊びはじめた。 「…楽しいか?」 「ああ」 両手で持ち上げて、下に落とす。 ざあっと下に落ちていく感触も音も光景も、本当に面白かった。 次第に持ち上げていく高さが上がり、手に掬う量も増えていく。 しばらく黙って見ていたウエナだったが、彼が両手に山盛りにして持ち上げたときにはさすがに狼狽えた。 「ま、待てソラ…!」 「?」 声を上げたウエナを不思議そうに見た瞬間、その手にあった木の実がばらばらと地面に落ちていく。 「あ…」 落としたら、またさっきの葉のように集め直さなくてはならない。 …しかし、このまま落としたらどうなるのか試したい誘惑にソラは勝てなかった。 急いで彼の手の下に袋の口を持っていこうとしたウエナだったが、既にそのときには遅い。 一瞬の躊躇いの後、ソラは勢い良く地面に木の実をぶちまけた。 じゃあっ、という音に近くにいた人々も何事かと彼らの方を見る。 そして盛大に地面に散らばっている木の実とその前で本当に楽しそうに袋を逆さまにしようとするソラとそれを阻止しようとしているウエナを目にした。 周囲から次々とそれを止めようとしているのか加わろうとしているのか分からない子供たちが走り寄っていく。 「駄目でしょー!」 「ずるいよソラばっかー!」 青く澄み切った空に、高い笑い声が響き渡った。 クウメイ novels top 独り言 |