あなたを
夜風を入れたリビングで、二人は揃ってソファの上で寛いでいる。 珍しく仕事が早く終わり帰宅した一条の横で機嫌よさげに缶ビールを傾ける雄介。 二人の視線はさっきからずっと、目の前に置いているテレビに注がれている。 「…何か、難しいテーマですよねえ…」 黄色いシャツを着た人々の奮闘するさまを眺めつつ、ぼんやりと雄介がつぶやく。 「…そうか?」 その隣で枝豆を口に運びながら、一条が雄介を見た。 「そうですよぅ。…一条さんが聞かれたら、何て答えます?」 「…聞くか?」 答えをいまさら求められるような間柄ではないつもりなのだが…と首を傾げると、雄介も一緒に首を傾げる。 「…そうゆうつもりで聞いたんじゃないんですよー。でもほら、例えばお母さんの立場はどうなります?」 「…お母さん?」 「一条さんのお母さんだって、一条さんを愛してますよ?」 ねえ?とまた首を傾げるついでに雄介は一条の肩にもたれかかる。 一条はその頭を抱きかかえようとするが汚れた手を気にして宙に浮かせた。 はし、とその手を掴んで雄介は優しく口づける。 「…しょっぱい」 文句を言いながら指を舐める雄介。 色気があるというよりも、本当にただ手についた汚れを舐め取る仕草に笑みがこぼれた。 完全に酔いつぶれてはいないものの、それでもそれなりに酔いが回っているのだろうか。 段々と力が抜けてくる雄介の身体を支えながら、一条はそっと雄介から手を取り戻して彼の肩を抱いた。 テレビはそろそろフィナーレを迎えようとしている。 「…あ」 そこで飛び込んできた文字列に、二人で揃って声を上げる。 「…そうきたか」 思わず感心する一条の横で、雄介はまだ少し首をひねっている。 「…納得いかないか?」 一条が聞くと、雄介はうーん、と小さく唸った。 「だって……一番だなんて決められませんよ」 「…そう、か?」 「俺が一番のつもりでも、他の人も一番だと思っているかもしれないし」 人って、意外と色んな人に愛されてるんですよ? 「…だから、俺は俺に出来る限り精一杯で愛していくだけです」 ね、と小さくつぶやいて雄介は一条の瞳を覗く。 「……まだ、酔ってないな?」 まったく、と苦笑して一条は静かに雄介を抱きしめた。 「…他の人には悪いが」 「?」 「俺にとっては、君が一番なんだがな」 そうして黙ったまま抱きしめていると、腕の中で雄介が盛大に苦笑した。 「……ほんとに、かなわないですよねえ」 笑みを浮かべたまま一瞬くちづけて、また二人はビールを飲み始めた。 fin. |
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