テリトリーと体温 ぺた。 「……なあ」 「はい?」 べたべた。 「……だから」 「なんでしょう?」 ぎゅー。 「……苦しい」 「あ、すいません」 きゅ。 「……………」 「お、また眉が仲良しに」 二人きりの時間をなし崩しに持つようになってから一ヶ月。 なし崩し、と言えば聞こえは悪いが本人たちは全くそれを気にしていない。 気がついたら雄介が一条の部屋をこまめに訪れるようになっているだけの話。 ただそれに。 まだ慣れていない刑事がいるだけの話。 仕事が終わったあたりを狙って訪れた雄介によって食事が作られて、和やかな食後タイム。 思い思いに寛ぐはずの二人は何故か、ひた、と寄り添う形になっている。 正確には雄介が一条に寄りかかって腕を回して抱きしめている。 「…常々不思議に思うんだが」 「はい?」 ただ手を置くように抱きしめ返しながら一条が聞く。 「…楽しいか?」 「もちろん」 笑みを浮かべて雄介は即答する。 「一条さんは?」 「………」 確かめるように彼の背中に回した手をぽんぽんと弾ませる。 猫のように軽く目を細め胸に顔を埋める雄介を見ながら返答する。 「……嫌な訳ではないな」 「なら、いーじゃないですか」 ごろごろと音が聞こえてきそうなぐらいに懐かれて、一条は天井を見上げた。 嫌な訳では無いのだが…何とは無くに落ち着かない。 それを素直に口にしたら、雄介はまじめに答えてくれた。 「人間って、誰しも他の人に入られたくない領域というのがあるんですよね」 ベンチとかで無意識に人と距離を取って座るじゃないですか。 「その距離をちゃんと保ってあげた方が、緊張しないでコミュニケートできます」 だから一条さんが落ち着かないのも当然です。 うんうん、と頷きながらそれでも彼は離れようとはしない。 「…君は」 「はい?」 「君は平気なのか?」 「あ、俺は子供ですから」 「…?」 怪訝そうな顔をした一条に、雄介は笑って答える。 「ほら、小さい子ってすぐにぎゅうっと抱きついてくるでしょう?」 「…ああ」 まだそういう経験は無いが、知識としては知っている。 もちろん自分の小さい頃の記憶はしっかり忘れている。 「俺はほら、みのりんとこ行ってますから…人よりは耐性が出来ているかと」 子供たちが群がっている様を思い出して、一条は笑みをこぼした。 「確かにあれなら…領域とか言っている暇は無いな」 「でしょう?」 逃げたらその分すごいですからね、と苦笑する。 そうしてまたぎゅ…と一条にしがみつく。 「だから、こうしているうちにきっと一条さんにも耐性が付きます」 「…試験期間か」 「どっちかって言うと、仕込み?」 「…あまり聞こえが良くないな」 「…ですねえ」 顔を見合わせて苦笑した。 ふう、と息を吐いて少し体勢をずらす。 肩にあごを乗せるようにして抱きついて、ぽつりと呟いた。 「…いつ頃から、抱きつけなくなっちゃうんでしょうね」 「…そうだな」 ぽん、とさっきよりも強く彼の背を叩いた。 fin. |
本放送六月くらいのお話です。
…とはいえあんまり時期関係ないお話ですが。 ぺたぺた五代に慣れない一条さん、という話が私は大好きなようです。 これ前にも書いたなあと思いながら、 でもちょとまた違うことが書きたかったもので書いてしまいました。 久々に書いたのですが…ちょっとは離れてくださいませ、ご両人(汗) 以上、書き上げたときのコメントです。 えーと…約一年半前でございました… 四万記念に何か、と思ったのですが在庫処分ですみません。 こんなんですがサイトに来てくださっている方々に感謝を込めて。 |