…そうか、と納得する。

だからこんなに彼も自分に。



経過報告



「……暑い」

「そうですねえ」

一条の部屋のリビングの、床のソファの前。

ソファを背もたれにするようにして、二人は座っている。

「…暑いなら、離れてくれないか?」

「やです」

そして雄介は、一条にこてんと身体を預けていた。

雄介がいつもこうしてスキンシップを求めてくることは知っているし、いい加減それにも慣れてきた時期である。

しかし…

「…暑いんだが」

「ですねえ」

…暑い時期にくっつかれるのは、遠慮しておきたい一条であった。

全く、と手元の資料に目を通す。

すると、雄介は嬉しそうに更に身体を預けてきた。

「……」

…一体この情況をどうしたらいいのか。

一条はずっと、諦める以外の方法を知らなかった。





柔らかくも何ともない自分の身体。

それなのにこうしてひっついてきてどこが楽しいのか…一条はそれが中々腑に落ちなかった。

嫌ではないけど、まだ完璧には慣れない。

それなら完全に慣れるためにはどうしたらいいのか…と考えて、一条は一つの結論を出した。





雄介が一条の部屋に押し掛けて、いつもと同じような情況。

一条が報告書を作成しているその横で、やはり雄介は楽しそうに一条にへばりついていた。

「…五代」

「はい?」

「…すまない、邪魔なんだが」

「あ、すみません」

あっさりと雄介は離れる。

正直に作業の邪魔だと言えば、彼はいつもすぐに離れる。

その代わりのように、邪魔ではないと判断したときには中々離れてはくれないのだが。

「お茶でも持ってきますね」

ひょい、と立ち上がり台所へと向かう。

その後ろ姿を見ながら、一条は報告書を片付ける。

…少し、試してみようと思った。

コップを取り出している雄介に、一条は静かに忍び寄る。

そして、後から黙って抱きついた。

「わ!?」

そのままじたばたと暴れる雄介の反応を見ながら、一条は少し納得する。

「なるほど…」

「な、何がですか…?」

黙って離れ、テーブルに戻った一条を不審に思いながら、雄介はお茶の準備を続けた。

すぐに良く冷えた麦茶が一条の元に届けられる。

「お待たせしました〜」

「…ああ、すまない」

受け取り、一口飲んでからテーブルに置く。

雄介は一条の隣で自分の分のコップを傾けて喉に流し込んでいた。

その茶がこぼれないように、一条は静かに雄介を抱き締めた。

「……!?」

先程のように暴れはしないものの、本当に驚いたように雄介の目が丸く大きく見開かれている。

機械のような動きをしながらコップをテーブルに置き、少し躊躇いながら一条の背に手を回した。

今度は遠慮なく、抱き締める手に力を込める一条。

「あ、あのぅ…」

戸惑いがちに見てくる雄介を、一条は真顔で見返した。

「何だ?」

「……な、何か変なものでも食べました……?」

心底心配そうな顔をしてくる雄介に苦笑する。

「…いや、食べてないが」

「そ、そですか…」

居心地悪そうに身じろいではいるが、雄介は一条から離れようとはしない。

一条から抱き締めてくれるという今まで中々無かった情況に戸惑ってはいるようだが…もちろん、悪い気はしないのだろう。

しかしここまで驚かれるような行動に出てしまったのかと、一条は自分に苦笑する。

ただ、自分から抱き締めてみれば少しは慣れるかと思っただけなのだけれど。

不思議なことに…まだ暑い時期だというのに、こうしているのは不快ではなかった。

「ええと…あっつくないんですか?」

「…気にはならないな」

「……うー……」

「?」

雄介は一条の肩に顔を埋めた。

「…どうした?」

「…何でそんなに楽しそうなんですか…」

俺の楽しみ取りましたね、と…恨めしそうなのか嬉しそうなのか良く分からない声で抗議される。

「……そうだな、楽しいのかもしれない」

よく分からなかったのだが、言われてみたら確かにこれは楽しかった。

「…まあ、公平だろう?」

そう言って笑うと、雄介はちらりと一条を見上げて…ますます悔しそうに顔を埋めた。





これは一条が他のことも公平にしようと考える、そのちょっと前のお話。






fin.










二周年記念小説ということで書き始めていたのですが、どうにも路線がずれたのでずれたまま走ってみたお話です。
私の脳内では、始めはお二人さんゴイチなんです。
それが何時の間にか暴走デカの独壇場に変わって行くのですが…これはその過程上のお話ということで。
……嗚呼、本当に一条さん楽しそう……(涙)





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