ささやかでしあわせな一日
あふ、と一つあくびをして起き上がる。
暖かな日差しに誘惑されながらも、大きく伸びをして布団から出た。
今日もささやかでしあわせな一日が始まる。
冷蔵庫を開いてその中身と相談する。
それは残念ながら都合良く牛肉などが入っているような箱ではないので。
それでもグラム百円のお安い豚さんなどにはお目見得できたので、それを取り出した。
確か、今日は休みだと言っていた。
どれだけ休暇を返上していたかが同僚にバレてしまった、らしい。
確かにそういうことに気がつきそうな人がたくさんいるなあと、 知っている限りの人を思い出して苦笑した。
まあ、本当にいつ休んでいるのか分からないほど仕事熱心な人だし。
気付かれるのも当然なのにその本人に自覚がないから困ったものだ、 とは杉田さんの弁。
これまた安かった玉ねぎを一個、みじん切りにして炒めて。
パン粉は無かったけど食パンでその代わりにして。
ナツメグ……はそうそう、確か買っておいたはず。
あとは塩コショウ。これもあったっけ。
おお、卵もある……偉い偉い。
ふい、と後に人の気配。
振り向くとぼうっとした表情で立っている人一人。
おはようございます。
おはよう……
ちょっと待っていてくださいね。もう少しで出来ますから。
出来るって……
朝食ですよ朝食!元気一杯ハンバーグです!
……その肉。
?冷蔵庫に入っていた豚さんですよ?
いつの……
……ええと………うあ!期限切れてる!
…切れてるどころの話じゃないと思うんだが。
えー…と、本当ですね。これはすごい。
いつのだ?
一年半前です。
……あのな。
冗談ですって。そうですね……一週間前。
だろうな。
駄目ですよ、きちんと管理しておかないと……
そうだな。
本当に、変わってないですよね。
ああ……いつから?
実は昨日から尾行してました。
……仕事場から?
はい!
…侵入経路は。
ああ、ありがとうございます窓開けておいてくれて。
……夏だからな。
そですね。
…………五代。
はい?
…お帰り。
……ただいま、一条さん。
今日もささやかでしあわせな一日が始まる。
fin.
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