す、と雄介が一条の髪を梳いた。

 互いに寝転がったままの状態なので、髪は重力に従って一条の顔にかかる。

 それを鬱陶しげに一条が掻き上げると、また雄介が手を伸ばして髪を手に取る。

 「……こら」

 やめないか、と一条が言おうとすると、指先でくるくると髪を回しながら雄介が呟いた。

 「……髪のびましたね、一条さん」



さらさら



 「……そうか?」

 「そうですって」

 雄介はくるくる、と指先で髪をもてあそび続ける。

 「……あまり、気にしていないからな……」

 その手をぱし、と掴んで髪から離しながら一条が言うと、でしょうねぇ、と雄介が笑った。

 「長くても似合ってますし」

 と言うか格好いいし。

 にこ、と嬉しげに目の前で言われて一条はことばを詰まらせた。

 どう言っていいものか困っている一条にもう一度笑いかけ、雄介はまた一条の髪に手をのばした。

 「…………五代…………」

 あんまり人の髪で遊ぶな、と不機嫌そうに一条は自ら組んだ腕に突っ伏す。

 それでも性懲りもなく、雄介は今度は後頭部を撫で付けるように髪を梳きはじめた。

 「だって、一条さんの髪ってすごく触りごこちいいんですよ」

 くしゃくしゃ、と掻き回す。

 「……こら」

 腕から少し頭を起こして睨むと、すみません、とあまり反省の色がない顔で雄介が言う。

 「でも……」

 呟きながら整えるように髪を梳いた。

 「邪魔じゃないですか?」

 「……そういう君はどうなんだ」

 一条がお返しとばかりに腕をのばして雄介の髪を掻き回す。

 「ぅわっ」

 擽ったそうに目を細めて、雄介は声を上げた。

 「俺の髪はくせっ毛ですからそう顔にかからないですけど……」

 一条の頭蓋骨の形をなぞるように髪を梳き上げると、ぱさり、と髪が顔にかかる。

 「ほら」

 「…………」

 さらさらですよねぇ、と笑う雄介の手を振り払って、一条は寝返りをうつ。

 「ああ、ちょっとっ」

 自分でも子供っぽいとは思いながらも、これ以上遊ばれないように布団を頭からかぶった。

 「一条さ〜ん……」

 蓑虫状態になった一条を雄介は抱き締める。

 「出てきて下さいよぅ」

 「………出たら?」

 「また髪の毛触りたいんですけど……ってああ!」

 そのことばを聞いた一条は、更にガードを固めるように布団に包まった。

 「………そんなに嫌だったんですか?髪触られるの?」

 ううう、と哀しげに唸りながら雄介はぱしぱしと布団を叩く。

 その中で一条は軽い息苦しさを感じながらも、出るのをためらっていた。



 ……嫌な訳ではないのだ。
 ただしかし。



 「…………そうじゃ、ない……」

 「じゃ何で?」

 「………」

 布越しに小さくことばが呟かれたのを雄介は聞いた。

 「……………なーんだ」

 に、と目を細めて雄介は笑い……

 「そういう、ことですかっ!」

 ことばと同時に、勢い良く布団をはぎ取った。

 「あ、こらっ!」

 「ああもう一条さんかわいいー!!」

 「五代っ!」

 何を言い出すんだこの馬鹿!と一条は叫ぶが直後には何も言えないように塞がれる。

 じたばたと必死で暴れる一条を器用に抑えこんで、雄介は一条を抱き締めた。

 「ね?やっていいですか?」

 というよりやりたいんですけど、と離れた途端に言い出す雄介に一条は青ざめる。

 「………さっき………」

 やったばかり、ということばを一条は飲み込んだ。

 何のことですか?と不思議そうに首を傾げる雄介が目に入ったからだ。

 雄介は手をのばしてまた一条の髪を梳き始める。

 「髪」

 「……は?」

 「だから、一条さんの髪切りたいなぁって」

 特技の一つですよ?と笑う雄介を一条は無言で張り倒した。





fin.





……一条さんが何を言ったのかは、ご想像にお任せします……
しかし何だろうこの話は(汗)
ただ美容院行ってきて……切られている間に、
やっぱり一条さんの髪は雄介が切っているんだろう、という結論に
自分で落ち着いたのでこんな話を書いてみました。
……「さっき」何をやったのかは聞かないでやってください……(逃走)





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