ただ、傍にいたいんだ。 
たったそれだけのことが、どうしてこんなに難しいの?


only  


「……五代?」 
黙って抱きついてきた雄介に、一条は不思議そうに声を上げた。 
彼がこうして自分に抱きついてくるのはもう常のことになってしまって久しいが、 
いきなり無言で、というのはそうそうあることでは無かった。 
そういえば久しぶりに窓から来られたな、と少々不機嫌なこころで思う。 
一度注意してからはきちんと玄関から来るようになっていたのだが、 
何故か今日は一条が部屋に戻ると暗い部屋の中に彼がいた。 
君という奴はまた窓から、とか何とか文句を言おうと…実際言ったのだが、 
それに返事を返す事無く雄介は一条を抱き締めた。 
背中に回された手の力が強く、スーツがしわになってしまうな、なんてことをぼんやりと考える。 
なりふり構わずに甘えてくる子供のような仕草に、微笑みと不安が生まれた。 
「……どうかしたのか?」 
背中に腕を回して、軽く宥めるように背を叩く。
彼は黙って腕の力を強めた。
「こら、苦し……」
「……一条さん」
ようやくにして雄介が声を出す。
搾り出すようなそれが聞いているほうにも苦しかった。
「……どうした?」
少し息苦しい中で、聞き返す。
すると、一条の耳元で雄介が小さく呟いた。
「………抱いても、いい?」


ただ傍にいたいだけで。
本当にそれだけで。
他に望むものなんてないです、とか言いたいけど。
どうにもこうにも我侭で自己中心的な自分がいる。
本当に、ただずっと一緒にいたいだけなのに。
どうして。
こんなに。


「ん……?」
本当にどうしたのか、と一条は思う。
いつだって、自分がきちんと首肯くまでは何もしてこないのに……答えを聞かずに塞いでくるなんて。
でもいつもと変わりなく優しく触れてくるから、いつものように受け入れてしまう。
ただことばがないのが、常とは違うだけで。
催促されて素直に力を緩めると、あたたかなものが滑り込んでくる。
「ん、」
思わず小さく喉を鳴らすと、どこまでも優しく絡みとられる。
手が静かにスーツを脱がしてきた。
キスはそのままに、ゆっくりとシャツのボタンを数個外される。
喉に触れられて、小さく身体が跳ねた。
少し苦しくなってきたので背中を軽く叩くと、素直に離れていく。
「は……」
息を吐いて見ると、困ったように微笑む彼。
「……どうしたんだ?」
さっきから何度も聞いていることばに、やはり返ることばは無かった。
彼はただ黙ってシャツのボタンを全て外した。


ただ傍にいたいんです。
本当にそれだけなんです。


首筋に軽い痛みを感じる。
驚いて見ると普段では付けないような位置に跡を付けようとしている彼。
「っ五代、どこに……!」
抗議の声を上げると頭が上げられる。
そして瞳。
「駄目、ですか?」
………ああ、君というやつは。
「……ずるいぞ」
そんな瞳で見られて断れるほど悪人ではない。
「そうですか?」
そう言って少し微笑む彼に何だかひどく安堵した。
そういえばようやっとことばを聞いた。


どんな我侭してもいいの?
甘えて甘えて甘えても。
かなり困らせてるんだよ、あなたを?
それでも傍にいたいと言っても怒りませんか?


「…………ッ」
まだ慣れない痛みに、息が止まる。
気遣うようにゆっくりと入ってきてくれるものの、それでもやはり辛い。
「、く……」
「…一条さん」
「っ!」
宥めるように指が搦められる。
その動きがいやに優しくて耐えられなくて首を振る。
「……いや?」
小さな呟きが朦朧としてきた脳裏に突きささった。
「……、だい…?」
きつく閉ざしていた目蓋を開けると、滲んだ視界に彼がぼんやりと映る。
……顔を、見たいのに。
力が入らない腕を叱咤して彼の首に回して引き寄せる。
繋がっている場所に振動が伝わって、小さく呻いた。
「……いいの?」
瞳をこじ開けるとすぐ傍に子犬の瞳。
場にそぐわない苦笑を浮かべて首肯いてやると優しいキスが降ってきた。


甘えて甘えて甘えて。
それでも受け入れてくれるあなたに本当に甘えたくなるけど。
でも、ただ傍にいたいだけだから。
これ以上は望まないようにしないと。
ただ、傍にいたいだけなんだから。


横で寝息を立てている彼を睨んで、ためいきをつく。
乱れた髪を自分で梳き上げると、かなりの汗をかいていたことに気がついた。
いい加減冷え込んできたのに、同じように汗をかいた彼はすでに眠りの深海へと潜り込んでいる。
起こすのも申し訳ないほどの寝顔に、またため息をついた。
そして眉間に見付けた小さなしわに口付けた。






fin.





…………久々に書き上げた小説がこれ…………
…………………………は、黙っていては何も弁解できない。
いやもう弁解のしようがないのは分かっているんですけど……
どうにもこう、能天気な話が書けない周期に来ているようです。
いや書こうと思えば書けるだろうけど(汗)
どうやらシリアスが書きたかったらしいです。はい。
しかし何が書きたかったのか自分でも分かりません……(泣)
とりあえず最中のれんしゅ(げしげしげし)


↑以上までを含めた文章をフロッピー整理のときに発見。
アップしようと思って忘れていたのか…あるいは恥ずかしくてやめたのか(苦笑)
読みなおしたらとりあえず読めたので今回アップしてみました。
珍しくダーク(?)五代くん。でも結局は甘いんですよね、お互いに。





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