仕事が終わって。
 ……と言うよりもいい加減休みを取れ、と半ば強制的に休暇を申請されたときに。
 その電話はかかってきた。


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流れる光

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 「ほら見ろ……彼女、だろう?」
 鬼の首を取ったように笑う杉田に、いませんよ、といつものように一条は答えを返す。
 「いいから……ほら、とっとと帰れ」
 手荷物の全てを渡され、追い出されるような形で本部を後にする。
 仕方がない、と思いながら廊下に出て歩きながら通話に出た。
 「はい、一条です」
 『……一条さん?』
 もはや聞き間違えることのない声が耳朶を擽る。
 「五代」
 どうした?と尋ねると躊躇うような沈黙。
 重ねて声をかけるとようやくにして答えが返ってくる。
 『今お仕事……ですよね』
 「いや、たった今終わったところだが」
 『……え、本当ですか?』
 驚いたような彼の声に苦笑する。
 そんなに自分はいつも仕事をしていると思われているのだろうか……否定はできないが。
 「嘘ついてどうする」
 軽く苦笑しながら言うと、安心したようなため息が聞こえてきた。
 『じゃ、あの……今から会えませんか?』
 控えめに聞いてくる彼に、断る理由なんてなかった。



 そういえばニュースの途中に入る天気予報では今日はこの秋一番の冷込みになるとか言っていた。
 吐く息が白くなってもおかしくなさそうに張り詰めた冷気を肌に感じながら、一条は隣に立つ雄介を見る。
 「………ここに、何しに?」
 周りはもう真っ暗で、ただ小さな街灯が申し訳程度に夜道を照らしていた。
 「いや、ね……久しぶりに見たくなったんです」
 寒そうに身を縮ませながら、申し訳なさそうに雄介は微笑む。
 あ、確かこっちです。と先に立って道を示す彼に確かとは何だ、と軽口を叩きながら、一条は彼の後に続いた。
 東京は東京でも、人里が少ない場所はあるもので。
 途中で拾った雄介がナビして着いた場所は山奥と言っても差し支えのないだろうところだった。
 「……どこまで行くつもりだ?」
 「あと少しですってば」
 途中振り返り、気が短いですね、と笑う雄介。
 「……君に比べればな」
 そんな彼に苦笑しながら一条は言う。
 「……いや、でも俺って思ってたより気が短いらしいですよ?」
 立ち止まり、困ったように笑う雄介の肩に手を置いて、一条は一緒に歩きだした。



 「あ、あそこです」
 しばらく歩くと、ちょうど坂道が大きく曲がって……………
 「……これ、か」
 「はい」
 目の前には一面の。
 「前にバイクでここら辺来たときに」
 嬉しそうに笑って雄介は目を閉じる。
 「この場所に来た瞬間、一面青空で……」
 空に飛び込めそうだったんです。
 「今日ニュースで何か、星が綺麗に見えるって聞いたら………」
 「ここを思い出した?」
 「はい」
 ぱち、と目を再び開けて、微笑んだ。
 都会では見られない多くの輝きと月光が彼らを照らす。
 「……もう星座も秋ですね……」
 「……そうだな」
 言われてみると、昔習った覚えのある形がいくつか見えた。
 秋の星座とか冬の星座だとか……そういう類のものが今輝いている、と思う。
 「カシオペヤ?」
 「そうそう」
 あとあそことあれを結んであそこにあるのが北極星。
 と雄介が言うが、一条にはどこがそれなのかはよく分からなかった。
 「あれですよ」
 「だからどれだ」
 「だからー………」
 そのうちに諦めたように雄介が笑うのを見て、一条も苦笑した。
 「………悪いな、頭が固くて」
 「いーえ…………そうだ、後でみのりの保育園から星座の絵本借りてきますね」
 「いや……」
 そこまではしなくても、と言おうとした一条だったが、雄介の真剣な眼差しに沈黙した。
 「……頼むよ」
 「はぁい」
 あれ分かりやすいですから、と笑う彼に、どうしようもなくて……苦笑しながらまた星に目を移した。
 「………たくさん、だな」
 「はい」
 数えることなどできない多くの輝き。
 「どれも一所懸命光ってますよね」
 「………ああ」
 「……綺麗、ですよね」
 「……五代?」
 小さく呟いた彼を呼んで横を見る。
 「あ、はい?」
 何ですか?といつものように笑う雄介。
 だが一瞬、彼が星ではないものに気を取られたことに一条は気がついた。
 ぐい、と雄介の肩を掴んで視線を動かしてやる。
 きっと直視はしていなかったろうそこを脳裏に刻み込ませるように。
 「………綺麗だろう?」
 「い、一条さん……」
 「………」
 何だか、気恥ずかしい台詞だが。
 これが欠けらも嘘ではないことに自分で苦笑する。
 「……あの光を、守っているんだから」
 だから、俺たちは間違ってはいない。
 そう力強く付け足すと、雄介の揺れる目がようやくにして眼下の星をはっきりと捉えた。
 あまりに多く、儚く輝く地上の天の川。
 「綺麗ですね」
 「ああ」



 そしていい加減冷えてきた外気に、二人は揃って大きなくしゃみをした。




fin.






…………ネガティブ五代くんだ…………(泣)
久しぶりに書いたのがまたこれですか、自分!!
………いや、自分でもパターン化しているのは重々承知です………(汗)
実は気弱な五代くんとしっかりちゃっかり(?)一条さん。
はっきりと口には出さない五代くんの不安をうちのスーパー刑事はことごとく見破ってくれます、はい。
……いや、気付いてくれないと私が悲しくなるので(涙)


星とか空とかのネタが大好きです。
普段いかに足元を見ずに歩いているのか分かっていただけると思います(危)
ぼけぇ……と空を見上げるのが幼い頃から至福の時間です。
ちなみに私はいまだに北極星を見付けられません。
本当は物凄く分かりやすいだろうに……御免なさい一条さん。
あと果たして東京にそういう場所があるのかは不明です(汗)
坂道で、一面の空が見れて、夜景もばっちり……
いや、そういう場所が今住んでいる場所にはあるのですよ。
すみません東京の方……生粋の田舎者の(まあ今住んでいるところは田舎じゃないんですが)
戯言と受け取っていただければ(泣)





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