その日からおれは
おやっさん、になった訳で。
彼らの彼ら
何でこんなことになっちまったのかなぁ。
と、彼は一人写真を見上げながら呟いた。
尊敬している……正確にはもう過去形にしなければならない人が、撮った写真。
蒼い空を背景に蒼い山がそびえるその写真は、彼がこの店を開くにあたって記念にその人から貰ったものだった。
ふー、と一息吐いて座っていた椅子から立ち上がり、壁に架けてあるその写真の目の前に行く。
途中で適当な布を手にとって、ケースに収められているその写真の表面を軽く拭いた。
ちょっと変わった人だと記憶には残されている。
自分の先輩であるにも関わらず、自分のことを『おやっさん』と呼んだ人。
どうしてですか、と問えば必ず、
「だって、おやっさんだろう?」
と返されるのでその内諦めた。
「おやっさん!」
「おや先輩」
もういい加減年かねえと思って腰を落ち着かせるために開いた喫茶店に、一番に駆け付けてくれたのはその先輩だった。
忙しくてなかなか会えない人なだけに、ああして訪ねてきてくれたのが嬉しくて。
結婚式以来に会う奥さんと、その足元でちょろちょろしている子供たちも一緒だった。
先輩の『冒険』に何度か付き合っていたせいか、長男の方はもう既に冒険野郎の目をしていたっけ。
久しぶり、元気してた、とか言葉を交わして。
まあ落ち着いてごゆっくり、とコーヒーを淹れている途中で彼が取り出したのがこの写真だった。
「いーんですか、これ」
一目見て気に入ったけれど、貴重なフィルムを費やして撮ったこんな写真を貰うのは気が引ける。
「いーんだよ」
だけれどその人はそう言って膝に座らせた息子と同じように笑った。
「これがあれば、おやっさんだってまた冒険に行きたくなるだろう?」
「……一生先輩を羨ましがれってんですか」
「まさか」
そう言って苦く笑った先輩の顔が印象的だった。
「ちょっと違うな……ただ、腰を落ち着けたとしても、冒険好きの気持ちだけは忘れないで欲しいんだ」
「……あー」
なるほどな、と思った。
冒険好きの気持ちを理解するならば、冒険好きなやつが何を求めるのかも理解できる訳で。
「分かりましたよ。『おやっさん』、になれってんでしょう?」
そう言うと彼は、ご名答と言って満足気に笑った。
何度かそうしておやっさんとして冒険野郎の帰りを待っていた訳だけれども、
そのうち彼は永遠の冒険に出掛けてそれきり帰ってこなくなった訳で。
それでもいつのまにか彼以外からも『おやっさん』と呼ばれて、『おやっさん』となってきた訳だけれども。
仕方がない、おれって一生おやっさん?などと考えるその隙から姪が「おっちゃん」とか呼んでくるから侮れない。
結局その写真を見ては冒険の虫が騒ぎ出して、実際飛び出してしまうことも少なくないけれど。
それでもやっぱり自分は、心底『おやっさん』で、それでいいのだと自分でも思う。
fin.
強いて言うなら、冒険者の帰りを待つ酒場のマスター、という感じの役割が、『おやっさん』。
家族愛、友情、恋愛感情、そういうもの全てを越えたの情の持ち主で、
いつまでも冒険者の無事を祈り、帰りを待ち続けるというある意味一番辛いキャラ。
そういうことを少しでも書きたいと思って書いてみたのですが……玉砕(汗)?
何だかおやっさんを見ているとそんな気がしてならないんですよ……
ちゃっかりおやっさん好きなんですよ、はい!
おやっさん絡みで書きたい話がもう一個あるので、いつの日にかまた書いてみたいと思います。
↑…以上がこれを書いたときに書いた後書きでした。
いつ書いたっけ…思いだせません…(汗)
最終回の後なのは確か…だって本名使おうかどうか迷った記憶がうっすらとあります(笑)
ちなみに「もう一個」、の方はオフラインで発行(かなり予定)の本に入ることになりそうです。
おやっさん好きなのは今でも変わりません。親父ギャグは残念ながら理解できませんでしたが(苦笑)
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