彼という存在2


「……全く、椿のやつ……」

少しイライラしながら病院の廊下を歩いていく一条の背中を、雄介は焦りながら追いかけた。

流石に走ってはいないというものの、競歩並みのスピードでスタスタと歩くのを追いかけるのはそれなりに疲れるのだ。

「ちょ、一条さーん!」

速いですよっ!と声をかけるがそれが聞こえているのかいないのか、そのスピードが弱まることはない。

エントランスの自動ドアを抜けると、そのスピードは更に速まった。

「っ、待ってくださいよっ!」

慌てて全速力で追い上げ、ようやくにして一条に追いつく雄介。

軽く上がった息を押さえながらも、一条はまっすぐ自分の面パトへと向かった。

その横を並んで歩きながら雄介は一条の表情を覗きこむ。

「……何でそんなに怒ってるんですか……?」

「………怒ってなんかいないぞ」

「………はあ」

何だその気のない返事は、とぎろりと睨まれたのを、雄介はまあまあと宥めすかして誤魔化した。

ふう、と軽く溜息をついて、まだ怒りに紅潮した一条の横顔を拝見する。

いつもは冷静沈着な彼がここまで表情を変えるのは珍しいことで、状況にも関わらず雄介は思わず笑ってしまった。

「………何を笑う」

また鋭い視線が自分を貫くのを自覚しながら、雄介はすみません、と謝る。

まさかその珍しい表情に見とれていましただなんて口が裂けても言えない。

「………」

憮然としたまま車に乗り込む一条を見ながら、じゃあまた、と軽く挨拶をして雄介はバイクが置いてある方向に向かおうとした。

「………五代!」

そのときに一条から声がかかる。

「はい?」

何ですか?と一条の方に振りかえった雄介は、またも珍しいものを見ることになった。

「…その……本当に何も聞かなかったんだな………?」

照れている、と一言に言いきるには勿体無くて…………

しかし果たして他にどんな表現があるのかというと思うとすぐには思いつかないような複雑な表情を浮かべた一条が、そこにはいた。

「……あ、はい!大丈夫です!!」

一瞬その表情に見入っていた雄介だったが、すぐに心得たように親指をたててにっこり笑う。

それを見て安心したように一条は表情を緩めた。

「そうか……じゃあ、また科警研で」

「はい!」

そう言って車に乗り込みすぐに発進させて駐車場を出て行くのを見送りながら、雄介はメットをがぼ、と被る。

……誰にだって知られたくない話の一つや二つあっても当然だけど。

まさかあの何一つとっても完璧にしか見えない一条にああまでして隠したい過去というものがあったのかと思うと、

その内容よりもそんなことがあったのかという事実の方に何故か雄介は深い感動を覚えたのだった。

「………まあ気にならないと言ったら嘘になるけどね」

くすくすと笑いながら、彼の後を追って雄介もバイクを走らせた。





fin.






「一条祭り」参加作品第二弾。
ちゃっかり前回の続きだったり。
とりあえずこれは2で終わり………
………一条さんの過去に何があったのかは
書いた本人が一番知りたいことです(逃)





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