ふれあい
「……っ!?」
ついさっきまで普通に会話をしていたのに、気がつくとベッドに押し倒されている。
見上げると頭上では嬉しそうに微笑む彼の姿。
ここ数ヶ月で随分と伸びた髪の毛が、ふわりと彼の顔に落ちた。
「……」
無言で睨み付けてみるものの、それを見て彼はますます笑みを深くする。
「…………五代…………」
「はい」
に、と微笑む。
「何の、真似だ?」
「押し倒し」
一条さん無防備だったんで思わず。
そう言って雄介は照れたように笑った。
「や、了解得ようと思ったんですけど……そうしたらちょっと一条さん躊躇うでしょう?」
「……当たり前だ」
誰が好き好んで押し倒されるものか。
自分でも不機嫌と分かるような、そんな刺々しい声で一条は答えた。
雄介と普段も……事件と一切関係なく……こうして会うようになってから。
一条は彼の癖に辟易していた。
長い冒険生活のためか、あるいは生来の性格か何なのか。
雄介は人とのスキンシップを異常に好む。
とりあえず人目のあるようなところでは何もしないのだが、
いざこうして2人きりで行動するとなるとどうにもすぐにぴとりとへばり付いてくる。
今日に至っては、こうして押し倒される前に……
「……とりあえず離せ」
「えー、まだ何もしてませんよ?」
ぶーぶー、と頬を膨らませて抗議してくる彼に苦笑しながら、一条は言う。
「……さっき」
それを聞いて頭上の雄介が、うう、と詰った。
「……そりゃ…キス、しましたけど……」
極普通の会話をしていたはずなのだ。本当に。
それなのにふと会話の隙間を縫うようにして彼の顔が近づいてきて、いきなり。
またか、とか思いながら一条はまた普通の会話を続けていたのだが……
「……それだけで我慢できなくなっちゃいました」
だからついつい押し倒し。
小さな悪戯が成功したかのように楽しそうに笑って雄介は一条を抱きしめた。
「……!」
「あー、暖かいー……」
無邪気に笑いながら、雄介はまた一条に顔を寄せる。
一条が逃げる暇もなく、音を立てて頬に口付けられた。
そのまま滑るように唇が動いて、耳たぶ、うなじの辺りをちろりと舐め上げる。
最後にかぷ、と頬骨の辺りの薄い肉に噛みついた。
「……」
一条は背筋を這い登る擽ったさに軽く暴れてみるが、器用に押さえ込まれる。
その代わりに雄介を強く睨むと、幾分拗ねたような瞳が返って来た。
「……イヤですかぁ?」
「………………」
何も悪いことはしていない、と訴えてくる瞳が間近にあって、一条は戸惑う。
「イヤなら俺退きますけど……」
そう言いながらも、懲りずに顔が移動して軽くはだけられたシャツの隙間から鎖骨に一噛み。
ひくりと身を震わせながらも、一条はまた雄介を睨んだ。
「……楽しいのか?」
いつものことだが、何が楽しくて自分にへばり付いてくるのかが良く分からない。
女性ならともかく男性として、少し不可解だった。
しかし雄介はその問いに目を瞬かせて、次の瞬間満面の笑みを浮かべる。
「無茶苦茶楽しいですけど」
だって、一条さんですし。
そう言って雄介は一条に口付けた。
ふう、と唇が離れて行くのを見ながら、一条は返された答えに軽く頭を悩ませる。
それににっこりと笑顔を返して、雄介は一条をちょっと強めに抱きしめた。
「……一条さんは、俺にこうされるの嫌いですか?」
反対に問われて一条は更に考え込む。
どうだったか……と今までのことを省みて、一条は口を開いた。
「……寒い日とかはまあ、嬉しいかな」
「…………そ、ですか……………」
それだけですかぁ……?
と軽く拗ねる雄介の髪をわしゃわしゃ撫でる一条。
子供扱いはやめてくださいよう、と言いながらもその感覚が気持ちいいのか、
雄介は黙って髪をいじられていた。
とりあえず事件以外でも会うようになったこの二人の前途は、
まあそれなりに幸せなものであるらしい。
fin.
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