あなたからの贈り物 ふわり、とカーテンがふくらんだ。 穏やかな風が差し込んでくる窓辺で、桜子はパソコンの画面をじっと見つめている。 横に積み上げている文献の端が風でめくれていくのを気にしている様子はない。 無言でキーに乗せた指を走らせて、横に置いていたコーヒーカップを手にとる。 少し強い風が吹いて大きくカーテンがはためく。 壁にかけられているお面がカタリと音を立てた。 その音に、ようやく画面から顔を上げる桜子。 揺れる笑顔を遠くに見ながらカップを置き、ちょっと伸びをする。 後ろに広がる空がきれいに晴れているのは今朝既に確認済み。 子供のように首を後ろに仰け反らせてその空を少し眺めてみた。 似ているけれども、ちょっと違う青空のあの日。 「もう、お面はない方がいいのかなあ」 そう雄介が呟いたのは、あの戦いの日々が終わりを迎えようとしている時期だった。 きん、と冷えた冬晴れの空がまぶしかったのを覚えている。 「え、どうして?」 桜子はやはり今日のように見つめていた画面から目を離して彼を見る。 返事が返ってきたことに驚いたのか、少し目を丸くして雄介は彼女を振り返った。 遊びにきていた彼が壁一面のお面とにらめっこをし始めてからかなりの時間が経っている。 「だってさほら、もう飾る場所無くなってきたし」 ね、と指差されて見ると確かにそこには新しいお面をかけるゆとりは少ない。 でも少ないというだけで、まだかけようと思えばかけられるのも確か。 「…ここまで来たら、壁一面に増やしてもらわないと?」 「『ま〜た変なの買ってきてえ…』、じゃないの?」 以前に言った台詞をそのままに真似られて、軽く睨んでみる。 首をすくめる彼を見たまま、桜子はその視線を緩めて笑ってやった。 「だったら、次はあんまり変じゃないのにしてよね?」 「…善処します」 あちゃあ、と苦笑いして彼は近くに飾られていたお面を優しく撫でた。 彼はきっと、違う意味で言ったのだろうと思う。 ただそれを問い詰める気も、その呟きを放っておく気もしなかっただけ。 目の前にはまだ逆さまの空が広がっている。 静かな静かなその風景の中に、息を潜めた誰かの気配が近づいてくるのを桜子は心地よく感じ取っていた。 「……ねえ、五代くん」 小さな物音がぴたりと止まる。 「今回のおみやげは、何?」 fin. これも一昔前に書き上げて眠っていたものです。 友サイト三周年記念に…と書いたはいいもののあげるタイミングを逃してしまいまして。 使い回しのような感じでごめんなさい桜子さん大好きだー! 五代くんが近づいてくるのが分かったときの、桜子さんの嬉しそうな顔が忘れられません。 伝説の二十話あたりの…「ハハァン」みたいなたくらみ系のお顔が。 あと思い切り気づいているのにちゃんと無視してあげるとことか…ああセンチな気分。 |