これってやっぱり変なのかなって思うけど。
俺としてはとっても楽しいんですよね。 …うう、そんなに怒らないでくださいよぅ。
でこぼこ
ぺた、と背中にくっつかれ、一条はそれを乱暴に払った。
一瞬の沈黙の後、今度は腕をしっかりと回して振り払えないようにしがみ付かれる。
「……暑い」
「じゃ、俺は寒いってことで」
「じゃ…って」
全く、とため息を吐く。
一体何がどうして、そろそろ初夏を迎えようかというこの季節に人にくっつきたがるのか…いや、冬だからいいという訳でもないけれど。
「五代…離してくれないか?」
「うーん……もうちょっと、ね?」
一条は腰に回された手をぺしぺしと叩きながら訴えてみたが、それはあっさりと断られた。
もうちょっと、と言いながら朝まで粘られたこともある。
まるで動物が甘えるように背中に擦り寄られ、一条は苦笑した。
何がどうしてこうなったのか、二人で寝ることが珍しくなくなってきた最近。
雄介はひたすら一条にくっつき、慣れない一条はその度に首を捻らせていた。
…特に嫌、という訳ではない。
寒いときには暖をとれるし…人肌に嫌悪感を感じるということだってない。
…ただ、どうしても慣れないものは慣れなかった。
今だってこうして、さあ寝ようかと二人で布団に入り込んでいる訳なのだが…
…気が付くと、わさわさと雄介の手が動き、一条の身体を辿っている。
「……こら」
「痛」
思わずその手の甲を抓ると、楽しそうな声が聞えてきた。
「…寒いだけなら、動かなくてもいいだろう?」
「いえいえ、動いた方が暖かくなりますって」
悪怯れもせず再び手が動きだす。
その間も背中では背骨に沿って服越しに軟らかい何か…おそらくは唇、が落とされていく。
擽ったい感じはするが、どうやらそれ以上のことをしようとする意図は感じられない。
仕事で疲れきっている身体には、ちょうど良かった。
「ね、あったかくなってきたでしょ?」
「……いや、だから暑いんだが……」
「あれ、そですか?」
じゃ、と雄介は離れ、布団を跳ね上げる。
「?」
「よいしょ、と」
そうして一条の身体をごろん、と仰向けにする。
「五代?」
「じゃ、こうしたらちょうどいいってことで」
嬉しそうに真上で微笑まれて、一条は達観してため息を吐いた。
そのため息を了承と受け取ったのか、雄介はもぞもぞと一条の顔の横に顔を寄せる。
好き放題に跳ねた彼の髪が顔や首にあたって、擽ったかった。
「あ、感じてます?」
ほんの少し身体が動いたのに気が付いたのか、雄介は顔を上げて一条の顔を覗き込む。
「違う」
速答すると、ちぇー、と残念そうに笑いながら作業を開始した。
一条の髪を掻き分けて、顕になった首筋をちろりと舐め上げる。
「ーっ!」
「ほら、感じてる〜」
くすくす笑いながら言う雄介を本気で投げ飛ばそうかと一瞬考えたが、大人げないのでやめた。
ただじろりと睨むのだけは、忘れなかったが。
「うう…そんなに怒らないでくださいよぅ」
しゅん、としながらも鎖骨に唇を寄せる辺り、懲りていないなと一条は苦笑する。
浮き出た骨をちょっと撫でて、窪んだところに音を立てて口付ける。
手は服の隙間からちゃっかりと侵入し、腹筋の合間のちょっとした窪みや胸の中央を指先で撫でていた。
やはり、それ以上のことはする気配が感じられない。
「…楽しい、か?」
不思議に思って聞くと、鎖骨に口を寄せたまま嬉しそうに雄介は笑った。
「そりゃもう…すっごく楽しいです」
「……そうか」
何だかな、と思いながら一条は目を閉じる。
優しい接触はその後も続き…気が付くと、一条はうとうとと眠りを誘われていた。
「………?」
ふわ、と空気が動き…薄目を開けるとすぐちかくに雄介の顔がある。
苦笑してまた目を閉じると、すぐに柔らかく唇が合わせられる。
息苦しくならない程度に触れては離れ……それが繰り返されるのを感じながら今度こそ一条は眠りについていた。
慣れないながらも、それはとりあえず心地よいのが何となく悔しかった。
「…あ、寝ちゃいましたね」
一条が眠ったのに気が付き、雄介は微笑んで寄せていた布団を引っ張り上げる。
はみ出ないようにきちんとかけて…くす、と雄介は笑みをこぼした。
「本当、何ででしょうね?」
こんなに楽しくて、嬉しくなれるのは。
不思議だなあ、と苦笑しながら一条にくっつく。
そうして彼もすぐに、眠りについた。
それは一条が彼の接触に完全に慣れてしまうまで、そう遠くないとある夜のこと。
fin.
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