あめあめ
ぼうっと雄介は窓の外を見ていた。
外は久しぶりの雨。
「………」
雨は別に嫌いじゃない。
むしろその中で水に打たれている感覚はかなり好きで、
たまに傘も持たずに飛び出したくなる衝動に駆られることだってある。
まあ自分の足はバイクなので遠出したかったときなどは少々困るが、
それでも不可能というわけでは無い。
第一あのときも雨が降っていた。
長野へと向かう国道をひた走るときも。
そのときは雨に加えて雷なんかも鳴っていたし。
それに比べたら、今降っている雨はかわいいものだろう。
それでも小雨とは言えない、しっかりとした降りだったが。
雫が勢い良く屋根から滴り落ちていく。
そう、嫌いじゃないのだ。
だがしかし。
「……………」
小さくため息をついて雄介は振り返り、視線を部屋の中に戻した。
ソファに腰をおろした一条がコーヒー片手に新聞に目を通している。
「一条さん」
「ん?」
雄介が声をかけると一条は視線を上げて雄介の方を見た。
「…雨、止みそうにないですよ?」
あーあ、と肩をすくめる雄介を見て、窓を見て……一条も小さくため息をついた。
「……そうだな」
空は暗く、雲に厚く覆われている。
ことん、と持っていたカップをテーブルに置いて、一条は新聞を畳んだ。
「……どうする?」
「どうしましょうかね」
雄介は窓辺から移動して一条の横に腰かける。
「……困ったな」
「困りましたね」
ことばとは裏腹に、雄介は笑顔を浮かべている。
それを一条は見咎めた。
「…困っていないじゃないか、君は」
「ええ?困ってますよ」
心外だなぁ、と口を尖らせるが、どうにも嬉しそうな表情は隠せない。
「……絶対に、困っていないだろう」
「困ってますって」
重ねて一条が問うても、彼の笑みは変わらなかった。
その態度に一条は少し機嫌を損ねた。
何しろ、今日は珍しく……本当に珍しいことに一条が休みで。
それなら二人でどこかに出掛けようかなどと話をしていて、きちんと出掛け先まで決めていたのに。
あいにくの雨では………
「……行きたくなかったのか……?」
一条は小さく呟いた。
どうにも、外出が流れて嬉しそうにしている雄介を見るかぎりだとそう思えてならない。
自分一人が楽しみにしていたのかと思うと何だかかなり居心地が悪かった。
いつも雄介の方をこどもこどもだと評していても、これでは彼と何も変わらないではないか。
いや、むしろ自分の方がこどもなのか……と軽く落ち込みかけていた。
「いや、そんなっ」
違いますって!と言うと雄介はそんな一条を抱き締める。
「……離してくれないか?」
「嫌です」
何か勘違いしてますし。
「……勘違い?」
雄介が言ったことばを反復する一条。
「はい。…俺が困っているのは」
ぎゅ、と腕に力を込める。
「例え出掛けられなくても、こうして一条さんと二人でいられることが嬉しすぎて困っていたんです」
もうどうしようもないですよねぇ、俺。
そう言って笑う雄介を見て、一条もああそうか、と首肯いた。
「そういう訳か」
「そういう訳でした」
くすくす、と一条の肩口で雄介は笑う。
一条はそれを引き剥がすと、深く息を吐いた。
「……そういう訳だったら」
「だったら?」
「……確かに困りものだな、この雨は」
一条が苦笑してそう言うと、雄介もそうですよね、と笑った。
外は勢い良い雨が降り続けている。
ある意味外界から隔絶された空間で二人。
とりあえずまた新しいコーヒーを淹れる。
FIN.
あー………
何だか久しぶりに書きたいもの書けたような気がします……
こういうお話物凄く楽です………書いていて楽しいし。
……前のお話とかぶっているかもしれないですけどね(汗)
しかもほとんど内容無いし(泣)
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