翔べない天使
>110氏

大総統、キング・ブラットレイより命令がきたのは昨夜のことだった。
内容はこうである。
「イーストシティ内に、人体練成をした姉弟がいる。姉の方はかなりの錬金術の使い手らしいが、
 人体練成のショックでその力を発揮できないで精神的に悩んでいる。ロイ・マスタング大佐、
 その子を自分の管轄内に入れて面倒をみるように。」
というものであった。
大総統直々の命令など、イシュヴァ−ルの戦争以来である。だから相当大事なことなのだろう。
しかし、その少女の力がそれほどまでに強力なのだろうか?とは頭を悩ませるが、
大総統の命なので、行ってみるしかなかった。

「でも、なんで大佐なんスかね?俺らじゃダメなんですかね?」
「それもそうですね。少女なら、私の方が・・・・・・。」
ロイを心配したホークアイ中尉とハボック少尉が声をかける。
確かに、東方司令部の司令官であるロイ直々に行くことはないハズである。もっと下級の者に命じるのが、
ふつうだと考えられる。それに女性だ。男ではない。色々と大変だとは思うのだが・・・・・・。
「・・・・・何かを試す、とは思えない。だが命令だから仕方ないだろう。」
「やれやれ、やっかい事だと思いますけどねー。」
ハボックが両手をひらひらさせながら、首を振った。もちろんロイ自身もやっかい事だとは思う。
「・・・・少しの間、出かける。後は頼んだ。」
「「ハッ。」」
敬礼をして、ロイに熱い視線を向ける二人。
ロイは、まだ気付いていない。その命令が自分の運命を変えるなど。

自家用の車を、ロイはイーストシティ内を走らせていた。
少し開いた窓から、暖かい風がそよそよと入りこんでロイの前髪を揺らしている。
いつもの青い軍服に、黒いコート。それに、必要な物が入っている鞄をもってロイは出かけていた。
まだ近代文明が発達していない為か、馬車の方が道路を走っているのが多いがロイの車もかなりその馬車達同様、
石造りの道路に合っていた。
数十分走り続けると、広大な庭が見えてきた。
黒く高い柵が辺りを囲み、まるで外敵を拒んでいるようにも思える。柵の隙間から庭が見えるが、
かなりの大富豪であることが伺える。芝生が綺麗に刈り込まれ、花が咲き乱れ、おまけにでっかい噴水。
ロイは、口をポカンと開けたままその庭を見続けた。
「確か・・・・住所じゃ、ここだが・・・・・・・。」
命令書に書いてあった住所は、この豪邸を示していた。一瞬目を疑ったが何回みてもここだったので、
ロイは、入り口の門へ車を近づけた。そこで改めてこの豪邸の屋敷が伺えた。
白と青の屋根で造られているとても大きな屋敷。窓がいくつもあり、煙突は2本。
テラスもどの部屋に備え付けられてあり、かなりの家であることがわかった。
「まさかこんな豪邸が、イーストシティ内にあったとは・・・・・・・。」
車の窓から家を見続けたロイは、ハッとなり車から降りて門の隣に立っていた兵に声をかけた。
兵はロイであることに気付くと、ビシッ!と敬礼をする。
「大総統の命で、この屋敷に住む姉弟に会いに来た。」
「お、お嬢様達にですかあ!?」
「そうだが。」
「マスタング大佐、あの・・・・本気で?」
「大総統の命だといっているだろう。」
「はあ、良いですが・・・・その・・・・・。」
兵が困っていると、屋敷の中から鎧の人物がこちらに向かってきた。
ロイが、この屋敷に着く前の数分前。この屋敷の正当な主の一人である、アルフォンス・エルリックは屋敷内の、
廊下を走っていた。走るたびに振動でガッチャンガッチャンと音がする。
それもそのはず。かれは鎧だった。中身は無い。何故なら人体練成の代償としてもっていかれたから。
かけがえの無い母親をよみがえらせる為にやったことだった。けれど失敗してこのザマ。
しかも愛する姉を悲しませてしまった。姉の名は、エドワード・エルリック。とても明るく屋敷の太陽だった。
けれど彼女も人体練成をして、左足を失った。その際にどうにか体をもって行かれた弟を助けようとして、
右腕も失った。結局弟は魂だけ帰ってきて鎧に身を収めていた。しかも母親は怪物のような状態。
これだけの代償を払ってこれだけ罪を犯した。その思いがエドの心を支配して彼女を奪っていった。
次第に彼女は笑わなくなり、人間でありながら人間嫌いとなった。唯一心を開くのは弟のアルフォンスだけだった。
「姉さん。」
アルは、エドワードの部屋のドアを開けると静かに入った。
部屋の中では、天蓋のベットで横たわったエドがアルを待っていた。
「ア・・・・ルゥ?」
「そうだよ。姉さん。」
エドはゆっくりと身を起すと、近くに来たアルの鎧の手にオートメイルにした手を絡めさせた。
「一人にしないで・・・・・。」
「大丈夫だよ、姉さん。僕はここに居るよ。」
薄い黒のドレスがエドの魅力を惹きたてている。暗い大きな部屋ではあまりドレスを見れないが。
「姉さん、外に出てみない?花が綺麗だよ?」
「アルも一緒にくる・・・・・・・?」
「うん。もちろんだよ。」
自分を信頼してくれてる愛しい存在。この人を守り続けよう絶対に。アルはいつもそう思っていた。だから姉を悲しませるすべての物を、排除するつもりである。
エドは歩こうとしない。
だから、アルが車椅子で押してあげていた。いつものようにエドを車椅子に乗せたとき、車の止まる音がした。
「なにぃ・・・・?」
エドを窓へ連れて行き、締め切ったカーテンを少しあけると軍の紋章が入った車が止めてある。
それを見て、、エドは不安げな表情をすると呟いた。
「軍人は・・・・・・・・・・嫌い。」
「・・・・・・・・・わかったよ、姉さん。待っててね。」
エドの言葉を理解して、軍人に帰ってもらう為にアルは部屋を後にして、屋敷の外へと行った。
姉の嫌いな物を「排除」する為に・・・・・・・・・。
「ア・・・アルフォンス様・・・・・・・。」
兵士が驚いた表情で、こちらに来るアルフォンスを見た。
ロイもアルをジッと見つめてあれが、弟の方かと確信し見つめる目を細めた。
「兵士さん、お客さんですか?軍人が?」
「はい。東方司令部司令官の、ロイ・マスタング大佐です。どうやら大総統の命で来たみたいで。」
「大総統?」
ピクッ、とアルが反応する。軍属の偉い人だ。何度か面会したことがある。
それゆえにただの訪問でないことは、アルにも充分わかった。
「・・・・とりあえず、車を柵の隣に止めてきてください。すべてはソレからです。」
「・・・・・・・・・わかった。」

その光景を、エドがカーテンの隙間からみていた。
宝石のような輝く金色の目が悲しげに揺れていた。

「さすがですな。とても豪華な家で。」
「ありがとうございます。」
車を駐車して、改めてエルリック邸に入ったロイ。玄関の入り口でお世辞ではない本当に思った事を口にする。
シャンデリアは輝き、床は赤い絨毯で埋め尽くされ、とても大きな像や絵が飾られている。
それに周りには綺麗に並んでいるメイド達。外見だけではないその豪華さにぐるぐると辺りを見回した。
「そういえば、エドワード嬢は?」
弟のアルフォンスは居るのに、姉のエドワードが居ないことに疑問を持ち問い掛ける。
その言葉にアルはピクッと反応するが、すぐにその答えを言う。
「姉さんは、軍人が嫌いなんです。」
「・・・・・・・・そうか。」
軍人が嫌いな人間は、イーストシティには居ない。けれどイシュヴァールの内乱のせいで親を失ったりした人が
結構多い。だから嫌いという人も少なくなかった。
「父親は?」
「・・・・・賢者の石と触媒の研究すると言って出て行きました。」
「・・・・・・。」
その発言からこの姉弟がどれだけ苦労して生きてきたかわかる。人体練成を行った意思も多分強いのだろう。
玄関のホールから近い応接室にロイは案内された。西ヨーロッパ風にできたこの部屋は、
落ちついたデザインでできており、ロイが座っているソファーの横で暖炉の火が轟々と燃え上がっていた。
メイドが、カモミールティーとクリームタップリのスコーンとチョコを運んできた。
ロイはメイドに「ありがとう。」と言うと、メイドは「いいえ。」とニッコリ笑った。
そこで改めてアルにはお茶が渡されないことに気付く。そうだ。この子は肉体がないのだと。だから食べたり飲んだりすることは、
できないのだと確信して、悪いと思いながらも、カモミールティーを一口飲んだ。
「とてもおいしいですな。」
「屋敷が誇るお茶の葉なんですよ。そう言ってもらえるとありがたいです。」
笑っているのか、怒っているのかわからない表情でアルは言う。
「それで・・・・・本格的な用件を言ってもらえますか。」
「そうですな。」
大事なことだと悟ったなのだろう、控えていたメイド数人がお辞儀をして出ていった。
出ていくのを確認すると、アルは鎧の大きな頭を下げて言い始める。
「姉さんの、錬金術のことについてなんですね?」
「頭の回転が速いですな。」
「軍人が来る理由といえば必ずそれなんです。この間はセントラルのグラン准将という方が来ました。」
「それで?」
「もちろん・・・・・・追い出しました。姉が嫌だと言ったので。」
「エドワード嬢が?」
「はい。」
姉のいう事で軍人を追い出すのか。さすがだな。と思って目を細める。
多分下手をすれば自分も追い出されるだろう。
「だが、よくできたのもだ。軍人を追い出すなど。」
「屋敷には、国家錬金術師に匹敵する錬金術師を数名雇っています。それで・・・・。」
「あのメイド達の中にも?」
「はい。」
「・・・・・・・・・・・・。」
あのグラン准将を追い出したのだ。相当強い術師なのだということがわかる。
だから自分も気をつけなくてはならないと、ロイは発火手袋をギュッと握り締めた。
「・・・・・わたしの用件も断るのか?」
「姉は軍人が嫌いと言っていました。なんのことだかわかりますね?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
それはつまり、自分に帰れと言っているのだ。抵抗したらどうなるかはわかる。
「・・・・・わかった。失礼するよ。」
「すみません。」
ロイが黒のコートを着て、応接室から出ようとしたときだった。
「アルフォンス様っ!お嬢様が!!」
ドアを勢い良く開けて、メイドが入ってきた。驚いた表情でアルを見て叫ぶ。
「姉さんがどうかしたんですか!?」
「それがっ!!」
メイドがそれだけ言うと後を見る。何事かとアルとロイも見た。
キィ−キィ−と音がする。ソレが何を意味すのかが、アルにはわかった。

「アルゥ・・・・・・。」
「姉さん!?」

あの自分から動こうとしないエドが自分で、車イスに乗ってここまできたのだ。
アルはすぐさまエドの元へ行き、その体を抱きしめた。
エドは、足がオートメイルだから歩こうとしないのではない。別にめんどくさいからでもない。
拒絶しているのだ。自分の足で進むことを。
怖いのだ。多くのことを知ることを。
そして嫌いだった。すべてを奪った軍人が。イシュヴァ−ルの内乱が無ければ何もなかった。
母親だって死ぬことはなかった。
エドはすべてを悲しんですべてを嫌った。そして拒絶して、優しくていつも側に居る弟のアルにしか、
心を開かなくなっていた。
アルは優しかった。車イスで移動する自分をけして嫌ったりはしない。いつも押してくれて、自分に笑いかけてくれる。
花が大好きな自分の元へ、いつも花をもってきてくれた。
悲しいとき、いつも自分を抱きしめてくれた。
軍人が来たとときも自分も守ってくれた。
今日もいつものように、軍人が来た。嫌いだから嫌いといったらアルは「わかった」と言って、
自分が嫌いな軍をやっつけに行ってくれた。
けれどアルと屋敷に来た、背が大きくて黒い髪の人。
なんだか懐かしいような気がした。なんだだろう?と思った。
ようやく見てわかった。あの人は自分と同じ『目』をしていた。
会いたいと思った。だから自分で拒絶していることをやろうと、車イスを押して応接室に向かった。
大きな扉を開けると、あの人が居た。
「アルゥ・・・・・・・・・。」
「姉さんっ!!」
悲しげな表情で、車イスに座ってそこに居る姉のエドワード。
アルは驚いてすぐさま愛しい姉の元へと駆けつける。エドワードは両手を差し伸べて、
こちらに来たアルに抱きしめられながら、自分もアルを抱きしめた。
「すごいよ姉さん・・・・一人でここまで?」
「あっ・・・・は、花・・・花を見に行くって言ったから・・・・。」
「そうだったね。」
本当は、ロイを見たかったなどと言えるワケがなかった。
アルはエドを愛しく撫でると、姉を持ち上げた。エドは持ち上げられると、すぐそこにいたロイと目があう。
「おや。」
「あっ・・・・・・・。」
目が合うと、エドは小さな声をあげて顔をすくめた。
「・・・・・・・・・・・。」
それをなんとも言えないような思いで、ロイは見ていた。









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