スカー子
>643氏

「いやああああっ……。」
その悲鳴は男でも女でもなく硬質な透明感を持っていた。
大人になる前の歳の頃。まだ性にほのかな憧れと漠然とした恐れを抱く年頃で、本来であればこんな状況に陥ることなどありえなかった。
しかし、その体は下卑た数人の男に押さえつけられ今にも服を剥ぎ取られようとしている。
精一杯手足をばたつかせ抵抗を試みたがどうにもならなかった。
「ほら、そんなにあばれると綺麗な顔に傷がつくぜ。」
どうして?なんで?自分が何か悪い事をした?神様、助けて。
兄さま、兄さまはどこ?
見開いた瞳に兄の惨殺死体が視界の端にうつる。うそよ。兄さまが死んだなんて。違う、違う。
こんなやつらに涙は見せたくないがあとからあとからこみ上げてくる。
闇雲に体を動かすが押さえつける力には抵抗できない。
「一生忘れられない思い出にしてやるよ。なあ。」
そう言った男はナイフを取り出すと、恐怖に引きつった顔に十字の傷を刻んだ。
「や、やめて。お願いだから。」
「だったら、素直に足開きな。早くしないと二目と見られない顔になるぜ。」
「えっ、ぐっ……。あっ、あっ……。」
「ようやく諦めたか。痛い思いをしたくないだろう?」
上にのしかかっていた男が襟首に手をかける。にやにやと笑いながら、周囲の男たちを見回した。どうした?はやくやれよ。と、囃し立てられる。
絶対に忘れない。あんたたちの顔は覚えておくと悲壮な決意はしたものの恐怖で目をあける事ができない。
「何をしている!!どこの所属だ?」
ふいに体が軽くなり戒めがとけた。恐る恐る目を開くと、今まで体を押さえつけていた男たちの視線はどこからか現れた人物に注がれている。
「少、少佐。これには訳が……。」
階級章の星の数に男たちはひるんだ。
「わけ?どんな訳だと言うのだ。戦いはもう終わった。こんな年端も行かない子どもに暴行を加えて、おまえたちは恥ずかしくないのか?さあ、所属と名前を言いたまえ。」
威圧的な物言いだった。命令することに慣れているのだろう。助けてくれた人物には違いないが好きになれないタイプだ。
「おい、こいつマスタングだぞ。」
一人が腰の銀鎖に気づいたのだろう。隣に立った男に耳打ちする。
「国家錬金術師のか?」
「そうだ。焔の錬金術師だ。」
「へぇ。」
瞳にずるそうな色が浮かんだ。
「だったらあんたはどうなんだよ。そうやって格好つけられんのか?」
「殲滅戦ではずいぶんご活躍だったって聞きますよ。少佐。このくらい見逃してくれても良いんじゃないですかね?」
ぴりっとロイの顔に嫌悪の表情が浮かんだ。
国家錬金術師?殲滅戦?遠くでそんな声が聞こえた気がした。
「どうやら君たちは消し炭になりたいらしいな?」
錬成陣を見せ付けるように発火布のしわをのばす。
「やばいぜ。」
「行くぞ。」
「あんたがイシュバールでやった事はみんな知ってるんだ。背中には気をつけるんだな。」
捨て台詞を残して男たちは立ち去った。

「大丈夫か?」
さっきとは違うずいぶん穏やかな声だった。膝をつき背に手を差し入れると優しく起こしてくれる。
泥まみれになり乱れた服をそっと調えてくれた。
ロイは濃い青の軍服の上着に手をかける。それを見てとっさに自分は首を横にふった。
「そうか。そうだな。」
自嘲気味な笑みが痛々しかった。本当は抱きついて声をあげて泣き出したい。でも、この男は仇だ。今は見逃してやる。いつか絶対に殺してやる。
「すまなかった。もう少し早くやつらを追い払っていれば顔に傷がつくこともなかった。」
「いい。この傷があるかぎりやつらのした事を忘れない。」
「戦いは終わった。憎しみからは何も生まれない。復讐など考えずに心静かに生きていくことを考えられないか?いつか嫁さんをもらい子どもを育てる。そんな普通の人生も悪くない。いやか?」
その人は困ったように目をそらした。そして、横たわる兄に近づくと見開かれた眼を撫でるように閉じた。
「この者はおまえの知り合いか?」
答えない。
「埋葬してやることはできないが、せめてこれを持って行ってどこかに埋めてやれ。」
首にかかった細い鎖を丁寧に外すと差し出した手にすべり落とす。
「ありがとう。」
たった一つの兄の形見だ。
「はやく家に帰れ。ここは危ないぞ。」
「家はあんたたちに焼かれた。」
「そうだった。」
「あんた、まぬけだな。」
「よく言われる。」









テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル