自慰ロイ子
>336氏

国家錬金術師投入による完全殲滅、その命が下されたのはほんの2日前だ。
夕刻からの一斉攻撃は、それこそ一瞬で終了した。
あたりに溢れた夥しい血の池とそこに転がる人間だったものは、太陽の去った今、細い月明かりの下ではただの真っ黒な輪郭を浮かびあがらせていた。
まだこめかみのあたりに残る褐色の肌の人々――敵だ――の叫びがこびりついていた。
円陣の描かれた手袋をはめて指を打つ。現れた炎に巻かれて死んでいった人々の断末魔。
味方のものとも敵のものかもわからない銃声に、あたりは硝煙の臭いに溢れ、あちこちから爆撃が上がり、血飛沫と、腕や脚やら、取り立てて重そうな丸いものが、どこか遠くへと飛び跳ねていた。
今となっては、それはもう遠い昔のようだ、とロイ子は思う。
ロイ子は司令官クラスの軍人にのみ与えられる個人用の簡易テントのなかで、例の一斉攻撃の報告を書類にまとめていた。寝台に寝転がり、腹の上に書類を置いて書いていた。
いつ襲撃があってもよいように軍服を身に着けてはいるが、見る人間にはだらしなく見えるだろう、襟元を緩め、内着すら肌蹴けさせ、非常にだらしない格好をしている。
もちろん簡易机の類が備え付けられてはいたが、今のロイ子には、その上にきちんとお座りする気など到底なれなかった。
「…っくそ!」
グシャ。ペンが紙に引っかかり、跳ねる。ロイ子は思わず口に出して毒吐くと、書き損じの書類を丸めて投げ捨てた。
カサっとテントの片隅で音が聞こえ、ロイ子は苛立ちそうに前髪を掻いた。
ロイ子は記憶力がよい。記憶の思い返すときなんて、まるで映画のワンシーンのように映像を流すことが出来るほどだった。鮮明な映像の描写は、その瞬間の臭いまでもを思い出させる。
このロイ子の能力は、戦場の詳細報告をするには打ってつけだった。上官からの信頼も厚い。
しかも初めての錬金術師投入による作戦だ。今日の作戦の戦場報告は、自分の功績の上でも重要なものになるだろう。だから、ロイ子の報告書の制作の筆は進みがよい…はずだった。
なのに、どうだ。
一向にはかどらないそれに、ロイ子はついに報告書を投げ捨てる。
「頭の中にある光景なんて、誰にでも書けるものではないのか、全く!」
半ば八つ当たりのようにロイ子はそう吐き捨てた。
だが、まあいい。ロイ子は本格的にごろりと横たわり、天井を見上げて思う。
明日まで出来上がっていればよいのだから、まだまだ時間は充分にある。
苛立ち、昂ぶった気持ちを鎮めようと、ロイ子はゆるく瞼を下ろした。
――なあなあロイちゃんよ、見てくれよ、これ!
と、ふいに浮かんだのは昼間の光景だった。それにロイ子はちっと、口のなかで舌を打つ。
ロイ子を苛立たせ、気分を害しているのは、他ならないこの昼間の出来事だったのだ。
国家錬金術師を集めての作戦会議が終わった直後のことだった。見てくれよ、と自慢げに、親友のヒューズがロイ子に手紙を差し出したのだ。
その宛名はもちろん目の前の親友。そして差出人は、ある女性の名前だった。
その名前が、以前から親友が熱を上げていた女性であると、ロイ子はよく知っていた。
異性ながら、仕官学校時代からの親友が、ある日ふいに語ってきた恋愛話。
お前、好きなやついるか?
一瞬自分の胸内を悟られたのかとドキリとしたのを、ロイ子はよく覚えている。
いいや、と平静を装うロイ子に、残念そうな表情をした親友。その表情にロイ子はにわかに湧いた期待を堪えて親友に聞き返した。誰か好きな子でも出来たのか? と。
はあっと重い息を吐いた親友は、ああ、と絶望的な声音で呟いた。一目惚れなんだ、と。
――でもどうやってアプローチしていいのか分からなくてよ。
変なことやって嫌われたくねえし、かと言ってむこうは俺のことなんて知らないだろうし…。
こんぼうか何かで、頭の後ろを思いっきり殴られたような衝撃だった。
途端に、目の前から色彩という色彩が消え失せた。モノトーンの世界になったのだ。
目を見開くロイ子に、色味を失った親友は、気づかないでベラベラと語り続けた。
お前も女だろ? なあ、どんなふうにアタックされれば嬉しいんだ? 頼むぜロイちゃん。
親友だろ? 俺を助けると思ってさあ…――頭を下げて両手を合わせて懇願していた親友。
その彼にどんなことを言ったのか、ロイ子はよく覚えていない。
その気持ちを率直に伝えたらどうだ。お前はそういう性格なんだから、変に取り澄ましても、
後々ボロが出るだけだ。そんな顔するな、素直な言葉ほど心に効くものはない…違うか?
そんなことを口にしていたと思う。ひどく遠くに聞こえたが、あれは明らかに自分の声だったから。
そうか、と呟いて、それから親友は笑った。とびきりの笑顔なのに、やはり色がなかった。
そうだよな、うん、わかった。ありがとう! 言い終わるや否や駆け出した親友の背を見送り、ロイ子は思っていた。この親友の恋愛が上手くいかなければいいと。
そう思って自分の醜さに苛立ち、そしてロイ子は口唇を噛んだのだった。
そんなロイ子の気持ちなど当然知らず、親友はその女性のもとに通い詰め、そして今回の戦争に向かう前、プロポーズしたとロイ子に言った。
戦場から帰ってきたら返事を聞かせてくれと、そう言って出てきたらしい。
手紙は、言うまでもなくその返事だった。
『I do』――誓います。それは、結婚式で男女が神の前に立ち誓う、それの文句だった。
――やったぜコンチキショー! お前のおかげだぜ。いやあ持つべきものは友だな。
ほんと、カンシャしてるよ、お前さんにはよ!
手紙を見せびらかし、親友は歓喜していた。
ああよかったな、と上の空で呟いたそのとき、またしてもロイ子の世界は色を失っていた。
――好きで好きで仕方なかったんだ。
――ああ、こんなに誰かを好きになったのは初めてだよ。
――本当に可愛くって可愛くって、嫁さんに来て欲しいって、ずっと思ってたさ。
映像はひどく鮮明なのに、目の前で歓喜する親友の顔に、あのときと同様に色彩は無い。
モノトーンの親友の、見たこともないようなとびっきりの笑顔に、ロイ子は奥歯をきつく噛みしめた。
――お前が親友でよかったぜ。
と、ふとしみじみそう言われたとき、ロイ子は遠くで何かが終わる音を聴いた気がしたのだった。
気がつくと、世界は再び色で埋め尽くされていて、ロイ子は発火布で包まれた指先で、一心不乱に敵の兵士をなぎ倒していた。
――お前が親友でよかったぜ。
悲鳴や怒号、爆音や銃声に溢れた戦場だというのに、その間も耳の中で繰り返される親友の言葉の煩わしさに、ロイ子は始終苦しんだ。
焔の赤、血の赤、そして暮れてゆく夕日の赤が、ひどく鮮やかに目に残っている――…
共に軍内を、戦場を駆けてきた親友。いつの間にかロイ子の心に入り込み、占めていた親友。
恋愛に疎いロイ子の心を、いつの間にかひっそりと奪っていたヒューズ。
いつだって近くにいてよく分かりあった仲なのに、それよりも彼は別の女性のもとに行ってしまったのだ。自分は失恋したのだ。
にわかにそう思うと、きゅっと胸が痛んで思わずロイ子は胸の上に手を当てた。
モノトーンのヒューズの笑顔が甦り、ロイ子は眩しげに目を細める。
喉の奥が干上がって、息が苦しい。
ふいに嫌なわだかまりのようなものが、じんわりと身体の心から滲んだ。
堪らずロイ子はシャツの下に手をすべり込ませ、下着を超えて己の乳房に触れる。
柔らかな乳房の中心にある芯をきゅうと摘まみ、じんと疼き始めたそこを、そのままやんわりと指先で円を描くように刺激していく。
「…あ、はあっ…」
いけない。いくら個人テントとはいえ、狭い陣地内には密着するように簡易兵舎が建っている。見回りの兵も少なくない。大きな声を上げたら気づかれてしまう。
ロイ子は口に指をくわえて、溢れてくる声を押し殺す。
その間もせわしなく動かす自分の指の感触に、ロイ子は白い喉を反らして切ない声をひっそりとあげた。
やがてそこは堅く尖り、ロイ子の身体が火照り始めた。ロイ子は堪らず熱い吐息を洩らす。
これがヒューズの指ならいいのに――そして、そう思って目を瞑った。
閉じた瞼の裏には親友がいた。自慰をするとき、この親友の姿が現れるようになったのは、一体いつのことだっただろうか。それは、ロイ子が自分の気持ちに気づいた瞬間でもあった。
親友に罪悪感を感じながらも、ロイ子は指を止められなかった。
乳房を揉みしだき、芯を堅く尖らせる指。狭い膣口をつぷりと入ってきて中を掻き回す指。
そんな自分の指が親友のものだと思うと、それだけでロイ子は堪らなくなる。
明るくて、面倒見がよくて、よく笑う親友のそのときの表情を思い描いて、ロイ子は自慰をしていた。
普段の彼なら口にしないような、責めたてるような悪魔の言葉で罵られたり、誰にも見せないようなひどく優しい仕草でロイ子を抱いてくれる、何人ものヒューズ。
喘いで、よがって、絶頂を迎えるときにはいつも親友の名前を口にしていたのだ。それなのに。
その人懐っこそうな笑顔が色彩を失った。もちろんあの恋愛話を受けてからだった。
ちくりと胸がまた痛み、ロイ子は嫌な気分を誤魔化そうと、今度はベルトを緩めて下半身に手を忍ばせる。ズボンの上から秘裂にそって指を伝わせた。
「んっ…ふ、ぅうんッ…」
ロイ子の喉から声がもれ始めた。だめだ、指なんかでは到底抑えきれない。
ロイ子はうつ伏せになって、シーツをきつく噛みしめた。
ぐっと手をズボンの奥に差し入れると、その分ベルトが緩まったのか、それがするりと膝まで落ちる。そのときロイ子は初めて、自分が腰を高く突き上げて四つん這いになっていることに気がついた。
羞部を曝け出す、何て恥かしい格好だろう。
そう思うとロイ子のそこは、またじんわりと熱を帯び始めた。
羞恥心に煽られて頬が熱くなり、ロイ子は目を瞑って、今度は下着の上から秘渓に触れた。
そこはすでに滲み出した花蜜でしっとりと濡れていた。
「…ッ。んっ…ふ、んッ…」
ロイ子は丁寧に指を這わせながら、腰をさらに高く突き上げて、声が漏れないようにシーツをきつく噛むしめる。
下着の横から指を差し入れると、くちゅっと音がした。
「ん…ッ!」
指先に感じる、濡れそぼった己の熱い花びらに驚きながらも、ロイ子はさらに指を深く差し入れた。
愛液に促されるように、ロイ子の指はじりじりと奥まで入っていく。その感触に内腿がぞわぞわと粟立って、ますます押し出てくる声を殺そうと、ロイ子はさらにきつくシーツを噛んだ。
口の端から唾液が広がり、じんわりとシーツを濡らしていく。
つと、指が止まった。根元まで挿ってしまったのだ。長さも太さも足りないそれに、物足りなさを、そしてそんな自分の淫猥さに嫌気を覚えながらも、ロイ子は指でそこを掻き回す。
そんなときでも思うのは、親友のことだった。この指が本当にヒューズ自身なら、どこまで自分を満足させてくれるのだろう。
指一本でこれまで喘いでいる自分なのだから、一体どうなってしまうのだろう。
心も身体もどれだけ満たされて、どれだけ気持ちいいのか――
想像もつかないままに、ロイ子は指を激しく動かして、熱い肉壁を擦るように掻き混ぜ、そこから激しく出し挿れを繰り返す。
薄い下着越しにくちゅくちゅと、くぐもった自分の音が、ロイ子の耳まで届いた。
根元まで押し挿れて、そしてぎりぎりまで一気に引き抜く。ずるんと耳打つ音とそれに伴う快感に、ロイ子は何度目かの甘い声を堪えた。
自分のなかに激しい出し挿れを繰り返しながら、ロイ子は残った指で、器用にその上にある
もっとも敏感なところに触れる。すでに堅さを帯びていたそこに溢れ出た愛液を絡めるようにして弄ると、まるで酒にでも酔ったように頭の奥がぼおとしてくる。
「ぁッ…ん、…っ!」
腹の奥から噴き出ようとしている何か熱いものに、ロイ子の背筋がびくりと震える。
目の前が陰り、親友の顔が浮かんだ。モノトーンのその笑顔に、ロイ子は目を凝らすように細める。
その親友が見ているのが自分でないことに、今さらロイ子の目に涙が滲んだ。
どうして自分じゃないのだろう。どうして、どうして!?
と、そのときだった。
「おい、起きてるか?」
ふいに耳に割って入ってきた声に、まるで水を浴びさせられたようにロイ子はハッと我に返った。
弾けるように身を上げて、声のしたほうを見た。テントの出入り口だった。
「…寝てるのか?」
どこか不安げな声音で、もういち度声をかけられる。幻聴かと思ったそれは、間違いなく本物だ。
ロイ子は自分の胸がドキンドキンと高鳴っていくのを感じた。
カラカラに干あがった喉にぐっと力を入れて、ロイ子は平静を装って声を絞り出す。
「…ヒューズ、か…?」
ああ、と厚いテントの布の向こうでヒューズが応える。
「ちょっと話があるんだけど…もしかして寝ていたのか? だったら…」
「いや、大丈夫だ。起きていた」
身体を起し、ロイ子はすっかりはだけた衣服を急いで整えた。
したたる花蜜を仕方ないがそのままにして、ズボンを上げる。すでに緩くなっていた胸の下着は、シャツのボタンを締めながら器用に外した。
と、ふいに指についている、それでも充分に多いであろうひとり分の体液に、ロイ子の頬が赤くなる。
慌ててシーツに擦りつけるようにしてそれを拭うと、ロイ子は急いで整えて出入り口へと向かった。
「あー、いい、そのままでいいんだ」
出入り口に手が触れようとしたそのとき、ロイ子の足音を聞いたのだろうヒューズが慌ててそう言った。
その言葉にロイ子の手がぴたりと止まる。
「いいって、出てこなくても。そんなに長い話じゃないから。…それに…」
そこまで言うと、ヒューズは小さく笑ったらしかった。いや、いいんだ、と短くそう告げると、ロイ子の兵舎に入り口に、人の形の窪みを作られた。ヒューズが寄りかかったのだ。
浮かび上がったヒューズの形をロイ子は眩しそうに見詰める。思っていた以上に広く逞しい体躯に憧れのようなものを感じたからだった。
足音を立てないように、ロイ子はそっと入り口まで近寄る。
手を伸ばせば、すぐに触れられるくらいそばに親友がいるというのに――
ふいに込み上げてきた切なさに、ロイ子は思わず伸ばした手をきゅっと握りしめて俯いた。
「特別な用事ってわけじゃねえんだ。ただ、昼間、ちょっと無神経なことしちまったって思ってな」
「無神経…?」
思いつくのは、やはり例の結婚話しかなかった。
ロイ子の心を乱したそのことを、ヒューズは知っているとでもいうのだろうか。
そんなロイ子の胸のうちなど知らず、ヒューズは語りつづける。
「その、軍にとってもそうだけど、お前にとっても大事な殲滅戦だったろ?
それなのに俺としたことが、自分のことしか見えてなくってよ。
お前の気持ちを考えずに浮かれちまってさ…ほんと、悪かった」
薄布のテントの向こうで、ヒューズは大げさに頭を下げたらしかった。
そういうことか…自分の気持ちを悟られてはいなかったらしい。
ロイ子はほっと、だが少し淋しさを覚えながら胸を撫でおろす。そして小さく笑った。
「気にするな。それより、頭を上げろ。今さらお前にそこまで気を遣われると、いっそ気味が悪い」
「言ったな」
ヒューズが頭を上げて、小さく笑った。そしてまたテントに寄りかかる。再び形作られた親友のそれに、ロイ子は縋りつきたい気持ちを何とか堪えて語りかけた。
「ああ、言った。そうだろう?」
「違いねえ」
からからと笑うヒューズに、ロイ子も小さく笑った。
いつものような、なんてことのない会話が、とても嬉しかったのだ。
「殲滅戦の最中のお前が変だったって聞いて、心配だったんだ」
ヒューズは小さく笑ったらしかった。
心配されていた、そのことが嬉しくて、ロイ子は自分の胸が熱くなるのを感じた。
「そんなことを…わざわざ言いに来たのか?」
それなのに口をつくのは皮肉めいた悪態ばかりで、こんなときロイ子は自分自身の性格に嫌気が差す。
素直になれない、その性格に。
だがロイ子の悪態なんて気にもしないのか、ヒューズはさらに笑った。
「ああ、心配もするさ。いい友達だろ?」
そう明るく言う親友に、ロイ子は目を細める。そうだ、こんな男だった。
どこにいてもいつの間にか浮いてしまう自分にさりげなく気を遣ってくれて、励まして、勇気づけてくれる、そんな男だったのだ。だから自分は親友になったのだ。
だから、好きになったのだ。
「…親友だからな、心配にもなるさ」
ふとヒューズはしみじみと言い、ロイ子は胸の前で手を握り締めた。
たった一枚、少し厚めの布の向こうには、穏やかに笑っているだろうヒューズがいる――
縋りつきたい、とロイ子は思った。いっそ飛び出して、抱きついて、口づけて、まだ熱を帯びた秘所に手を導いて――ただいち度だけでいいから抱いて欲しいと、そう乞いたかった。
邪心のない、ひたすら優しい親友に、浅ましい思いをぶつけたかった。
だがそんなことをすれば、ヒューズともう2度と今の関係に戻れなくなるのは、目に見えている。
抱いている野望めいた夢の実現に、彼の存在は必要不可欠だ。今去られても困るのだ。
それに、それ以上に、嫌われたくなかった。
「でも、話せてやっと安心した」
ロイ子ははっと目を見開いた。目の前から親友の形が消えたからだ。
ザッと、踵を返す音が容赦なくロイ子の耳を打った。
「こんな時間に悪かった。それじゃあ、また明日な」
ヒューズが自分のもとから離れていってしまう――そんな感触がにわかに湧いて、ロイ子の胸が轟いた。
閃くように、それまで堪えていた感情が湧きあがる。行くな、行くな、行かないでくれ!――
「ヒューズ!」
気がつくと、ロイ子は勢いよくテントを飛び出していた。
まるで遠ざかっていく足音を繋ぎとめるかのように、親友の名前叫びながら。
ロイ子の声に、10歩ほど遠くにいたヒューズが振り返る。
飛び出してきたロイ子に、ヒューズは驚いたように目を見開く。
「おお、どうした?」
そしていつものように、人懐っこそうに、ただ笑った。
いつもの記憶のなかではモノトーンなのに。ロイ子は思わず立ち止まった。
下弦の月明かりのもとだが、そのヒューズの笑顔には確かに色彩があったからだ。
立ち尽くすロイ子を訝しむ様子もなく、ヒューズは笑って踵を返してこちらのほうへと向かってくる。
今の自分の格好に、ロイ子はハッと目を見開いた。上は薄いシャツしか着ていなかったからだ。
下着は先ほどの自慰のときに取ってしまっている。しかもロイ子の身体はまだ熱を持っているから、胸の先の硬い尖りが、シャツの上からでもぷっくりと膨れているそれが、ありありと見て取れた。
頬がまたかあっと赤くなり、ロイ子は慌てて両手で胸許を掻き寄せた。
しかし、そんなロイ子の様子にヒューズは勘違いしたようだった。ヒューズは上着を脱ぐと、それをロイ子の肩にふわりと羽織らせる。それは、ロイ子の身体よりもふた回りは大きかった。
「おいおい、いくらなんでもそんな格好じゃ風邪ひくだろう」
ヒューズは半ば叱り付けるように笑って言った。冬にはまだ遠いとはいえ、夜は冷える。
ロイ子の薄着とその仕草に、ヒューズは勘違いしたのだろう。まだ自慰の名残を身体が覚えているから、本当は全く寒くなんてなかったが、ロイ子は大人しくヒューズの勘違いに乗ることにした。
すまないな、とだけ短く告げる。と、ヒューズはふいに手を少し上げて言葉を遮った。
「それよりも、そんな格好で飛び出して来るほうが問題なんじゃないのか?」
「え?」
「しかもそんな格好でさ。お前も、その…女なんだしよ」
思わず目を見開くロイ子に、ヒューズは少し慌てたように手を振った。
「いや、その、あれだ。いくら俺たちが親しいってみんなが知っていても、こんな夜中に俺と一緒にいるところ見られちゃ、さすがにお前の出世に関わるだろ? さっきも見回りのヤツにばったり会っちまったしさ、妙な噂が広まったらどうだ?
いくら誤解でも、上層部は意外にオカタイからなあ」
どこか取り繕ったようなその言葉にズキリと胸が軋んだ。
誤解されてもかまわない。いっそ、ふたりでそれを真実にしてみないか。そして私と――
にわかに胸に湧いた醜い感情に、ロイ子はヒューズに悟られないように舌を打った。
目の前にいる親友には、もう将来を誓った女性がいるというのに、なんて未練がましいのだろう。
「それより、何だ? 何か俺に用があるんじゃないのか?」
考え込むようなロイ子の顔を覗き込むようにしてヒューズが訊いてきた。
そういえば思わず呼び止めてしまったのだと思い出し、ロイ子は言葉を濁した。思わず薄暗いあたりに目を泳がす。呼び止めた理由を素直に言えたらどんなにいいだろうと、そう思いながら。
そばにいてくれ。私はお前が好きなんだ。だからほかの女との結婚なんて――
「…おめでとう」
「は?」
「結婚おめでとう、と言ったんだ。まだきちんと言ってなかっただろ?」
ロイ子は笑った。我ながらよくもまあこんな嘘がつけるものだと思いながら。
胸のうちに渦巻く醜い感情を、よく隠して笑えるものだ。
ロイ子の言葉に、ヒューズは半ば呆気に取られたように目を見開いた。
「わざわざ?」
「人のこと言えたことか?」
「こりゃ、一本取られた」
ふん、と得意そうに鼻を鳴らすロイ子に、まいった、とヒューズは頭を掻いて夜空を仰ぐと、照れ臭そうに笑った。と、ふいに笑顔のまま頬を引き締めて、ロイ子をじっと見詰めた。
「ありがとう」
心底嬉しそうなその笑顔に、ロイ子のなかで、またヒューズは色を失う。
胸がまたずきりと軋み、無償に泣きたくなった。泣いたらヒューズは驚くだろうか。
いや、いっそ駄々をこねる子供のようにわあわあと声をあげて、好きだと無様に縋ったら、ヒューズは思い直してくれるのだろうか。そして私の手を取ってくれるのだろうか――
「おい、本当に大丈夫か?」
ヒューズの声に、ロイ子ははっと顔を上げると、ごく鼻先には心配そうにロイ子の顔を覗き込むヒューズの顔があった。ほんの少し顎をあげれば口唇が触れ合うほど近くにヒューズがいる。
それなのに。
「なんでもない。もう行け」
ロイ子の突き放すような、それでもとっくに慣れているであろう物の言い方に、つれねえなあ、とヒューズは苦笑した。
「ああ、そうするさ。じゃあ、お休み」
そう言ってヒューズは再びくるりとロイ子に背を向ける。
慌ててヒューズに上着を返そうとしたロイ子に、ヒューズは肩越しに振り返ると、片手をあげて遮った。
「明日でいいさ。着ておけ」
ヒューズは笑ってそのまま前を向いた。足音が遠ざかっていく。
闇に溶けていく背中に、ロイ子はきゅうっと下口唇を噛みしめた。行くな――喉のあたりまで出かかったその言葉を堪えるように、ロイ子は自分で自分を抱きしめる。ぶかぶかな親友の上着は、まだ彼の温もりも香りも残していて、なぜだかそれがよけいに切なかった。
ヒューズの背中が完全に見えなくなっても、ロイ子はそのままその場に立ち尽くしていた。
どうしてもテントに戻る気になれなかったのだ。もしかしたらヒューズが暗闇からひょっこり顔を出して、やっぱりお前じゃないとだめだ、と照れ臭そうに戻ってきてくれるかもしれないと、そんな都合のいいことばかりが、ロイ子の頭に浮かんでは消えていく。
ばかみたいだ、と呆れたようにひとつ瞬くと、つぅっと、頬に何か熱いものが伝い落ちた。涙だった。
それに気がついた瞬間、ロイ子の喉から嗚咽が溢れ始めた。
声を出してはいけない、誰かに気づかれてしまう。ロイ子はわなわなと震える口を両手で塞いだ。
それでも嗚咽は抑えられずに、あとからあとから喉をついて出てくる。
涙も溢れ、ぱたぱたと大地に染みていく。
と、そのときだった。
「誰だ!?」
カッと、強烈な光がロイ子を照らした。その眩しさにロイ子は目を細め、慌ててそちらを向く。
目を凝らすと、円系の光のなか、懐中電灯を持った男が立っているのに気がついた。
上背のある金の髪の、見慣れた青の軍服に身をまとっている男――見回りの兵だと閃くように思い、そしてそんなすぐそばまで誰かが近づいていたことに気づかなかった自分に、ロイ子は心のすみで舌を打った。よほど心が乱れているのだろう、自分の弱さに嫌気が差す。
だが、刺すような胸の痛みを堪えられないのも、また事実だった。
ちらつく目を堪えて見回りの兵を見据えると、ロイ子の顔に気づいたのだろう、兵士は驚いて電灯を下ろした。
「マっ…マスタング少佐!? 失礼しました!」
兵は慌てて手を上げて敬礼を取ったかと思うと、にわかに両目を見開いた。
ロイ子は彼のその驚きで満ちた視線が自分の頬を伝う涙に注がれていることに気づき、慌てて目を反らす。
「あの…どうかされたんスか?」
「なんでもない。もう行け」
心配そうな口調で尋ねてきた兵に、ロイ子は冷たく言い放つ。と、それが先ほどヒューズに言った言葉だと、ロイ子はふと思った。こちらへと歩み寄ろうとしていた兵は、びくりとその場に止まる。
――ああ、そうするさ。じゃあ、お休み。
そう言って踵を返した親友。その背中がだんだん遠くなり、やがて闇に溶けた。
本当は、行くなと叫びたかった。その背中に縋りつき、好きだと、ずっと見ていたと、抱いて欲しいと、そう言いたかった。それなのに。
そんなロイ子の奇異な様子に見回りの兵は立ち尽くしていたが、やがて困ったよう言った。
「そうスか…それじゃ、自分はこれで失礼します」
くるりと踵を返す気配がして、足音が離れていく。
にわかに湧いた既視感にロイ子が思わず振り返ると、やはり広い背中が遠ざかっていくところだった。
その背中が、目の奥でヒューズの背中と重なった。ロイ子は目を見開く。
ヒューズの背中が闇に溶けていく。また、自分を置いて行ってしまう――
「行くな…っ!」
喉の奥で上がったそれは、ひどく小さくて掠れていた。その声に兵が振り返る。
月明かりも乏しい薄闇だが、しっかりとその驚いたような表情は見て取れた。
金の髪の、まだ若い男だったと思う。だがすぐにロイ子は男の顔なんて忘れてしまう。
まったく似てないその顔に、ヒューズの面影を重ねてしまっていたからだった。
そうだ、とロイ子は強く思う。彼は、目の前のこの男はヒューズなんだ、とロイ子は焼けるように思った。
そう、この男はヒューズだ。行くなと言ったら立ち止まってくれた、仕官学校時代からの親友、マース=ヒューズなのだ。
ロイ子は身をぶつけるようにして、ヒューズに抱きついた。ごとんと何か重たいものが落ちた音が、足もとから聞こえた。
「マスタング少佐…っ!?」
今さら他人行儀だな。ロイ子は小さく笑った。驚いて何かを叫びかけたヒューズの首に素早く腕を回して顔を引き寄せると、ロイ子は目を閉じてその口唇に自分の口唇を重ねた。
ヒューズはいつもロイ子のことを名前で呼ぶのだから、そうしない口唇なんて塞いでしまえばいい。
こんなふうに。
ロイ子はさらにきつく口唇を押しつける。自分でも驚くくらい深い深い口づけだった。
ふいに口に広まった煙草のにおいに、少しだけ眉をしかめる。おかしい、ヒューズは煙草なんて吸わないのに――ほんの一瞬、頭の後ろが冷水を浴びせられたように冷えかけたが、そんな思いを振り切るように、さらにロイ子は深く口づけた。
何故かはわからないけれど、きっと隠れて吸っていたのだろう。
そんなヒューズの学生じみた姿を思い浮かべて、ロイ子は小さく笑った。そうだ、きっとそうなのだ。
驚いて身を凍らせていたヒューズは、やがて思い出したようにロイ子の背に手を回し、口づけを返し始めた。
ヒューズの口づけは、まるで吐く息までも吸い尽くしてしまうような激しい口づけだった。
「んっ…ふ、ぅん…っ」
食い尽くすかのように口唇が吸いつき、やがてロイ子の口唇を割って、彼の舌が入ってきた。
ざらりとしたそれは器用にロイ子の舌に絡みつき、同時に口唇を深く吸っていく。
ちゅくちゅくと粘着を帯びた音が、どんどん大きくなっていく。
激しい口づけに身体が反れる。ヒューズに徐々に身体を押さる。背中に柔らかい布の感触がして、ロイ子はとうとう自分の宿舎にまで追い詰められたことを悟った。
ロイ子の両脚を割って押しつけられるヒューズの脚のつけ根のあたりは、すでに堅さを帯びていた。
とっくに熱くなっていたロイ子の秘部に、えも言えぬ快感が走る。そうだ、こうされたかったのだ。
口唇と口唇の隙間からロイ子は喘ぎ声を洩らして、自分でもはしたないと思いながらも、彼自身に自ら秘部を押し当て返した。厚めの布越しに、彼のそれがさらに堅くなっていくのがわかった。
嬉しかった。
はあっと大きく息を吐いて口唇が離される。細い月明かりのもとで、口唇同士を繋ぐ銀色の糸がちらりと光った。幸せだった。ただひたすら幸せだった。これが夢にまで見た親友の胸なのだ。
溶けそうな身体を、何とか両脚に力を入れて支えていると、ふいにヒューズがひと際きつくロイ子の身体を抱きしめてきた。思いのほか高い背を屈ませて、ヒューズはロイ子をきつく抱きしめる。
ロイ子の顎が丁度彼の肩に乗る格好になったのだ。
ああ、とうっとりと息を吐きながら、ロイ子はその厚い胸に身も心も委ねる。
細い月にも何故だか泣きたくなるほどに、本当にいい夜だ。
ヒューズに背に腕を回してもらえたのだから、キスに応えてもらえたのだから。
「…あなたが悪いんですよ」
熱い息づかいとともに耳もとでそう呟かれ、ロイ子の意識はにわかに戻る。
ヒューズらしくないその口調に、ロイ子は苛立ちを覚えた。薄く目を開けると、前の前には頬を上気させて肩で荒々しく息をしている、どこか切羽詰ったような知らない男の顔がある。
気分が削がれた。はっきりいって不愉快だった。何に対してかは、よくわからないけれど。
「黙ってくれ…」
夢が覚めるから――ロイ子は目を閉じて再び男の首筋に腕を絡めると、半ば懇願するように耳もとで囁いた。今この身を抱きしめる男がヒューズであって欲しいのだから、違う男の声なんて、聞きたくもない。
ロイ子の言葉に、男はぴりりと身体を引き攣らせる。そうして何分か、何十分か、それともほんの二、三秒だったのかもしれない、そのまま何事か考えているふうだった。
ふと、男はロイ子の両肩を押しやった。顔に強い視線を覚えてロイ子は目を薄く開く。
薄い闇のなかからロイ子を見るその男の顔は、やはりよく見えなかった。それでももうどうでもいい。
今、月を背にして自分と向かい合っている彼の顔は、モノトーンだけれど、紛れもなくヒューズなのだから。
うっとりと眩しそうに微笑むロイ子に、ヒューズはひとつ意を決するように瞬くと、次の瞬間、ロイ子の腕をきつく引っぱった。腕が根元からもげるかと思うほどに、荒々しい仕草だった。
ヒューズはそのままロイ子を彼女の宿舎にずかずかと連れ込んで、やや乱暴に寝台に押し倒した。
丁度羽織ったままのヒューズの上着を、ロイ子身体の下に敷くような形だった。
寝台の横にある小さな電灯の弱い明かりが、ぼんやりと肩にある階級章を浮かびあがらせているのを、ロイ子は視界の端で捕らえる。これから自分を抱こうとしている男の階級章に、ロイ子の胸が自然と高鳴った。ふと目の前が陰り、ロイ子を再び逞しい体が覆う。
ちらりと目に入ってきた見覚えのない階級章――星の数は少なく、白いラインも知っている数ではない――からロイ子は目を反らし、腕を伸ばして電灯の明かりを消し去った。
見えなくなっても全く構わない。愛しい彼の階級章は、瞼にきつく焼きついているのだから。
息を吐く間もなく再び口唇を重ね、ヒューズはロイ子の身体の上に圧しかかる。
荒い息づかいがロイ子の耳朶をくすぐった。
ヒューズはロイ子の口唇を貪ったまま、身にまとっていた衣服を脱ぎ捨てた。
薄闇のなかにぼんやりと浮かびあがるヒューズの身体は軍人のそれにふさわしく、よく引き締まって逞しい。衣服の上からでは想像もつかないほどに、厚くてがっしりとしていた。
せわしなさそうに、ヒューズはロイ子の衣服に手を掛け始めた。色気のないシャツをめくりあげると、ふるりと震えるたわわな双丘が姿を現した。ロイ子が下着を着けていないことに少し驚いたのだろう、ヒューズの手がかすかに引き攣るのが薄闇のなかでもはっきりと見て取れた。
だが、その眩しいばかりに白い乳房に、ヒューズは息を呑んだらしかった。
戦場といえども、軍人といえども、男の集団のなかで女が薄着でいることは許されなかった。
だから豊かな胸はもちろん、常に厚い衣服で被われていたロイ子の肌は陽に焼けたことなどないから、どこもかしこも抜けるように白いのだ。
それに、まるで食い入るように見詰められていると、普段は大きすぎて邪魔に感じる胸が、少しだけ誇りのように思えてくるから、不思議だ。
ヒューズはそのまましばらくロイ子のふくらみを眺めていたかと思うと、にわかにそれを、まるで掴むような荒々しい仕草で触れた。節くれた無骨な指が、充分な弾力と張りを持つロイ子の胸に食い込むように埋もれる。その厳つい指の隙間から、ぷっくりと勃った薄紅の突起が覗いた。
「ぁん…ん…ッ!」
その尖りについと口唇を寄せられて、ロイ子は思わず喘いで喉を反らせた。
ちゅうっとひと際強く吸われる。ときに甘く噛まれ、じんと疼く胸のしこりは、ヒューズの口のなかでより硬さを帯びていった。
もっときつく吸って欲しくて、ロイ子は胸の上のヒューズの頭を抱えるように抱きしめた。
白い肌はヒューズの愛撫にすでにうっすらと汗ばみ、桜色に火照り始めていた。
呼吸が乱れ、ロイ子は肩で息をする。乱れた呼吸にあわせて、桜色の丸い双丘が切なげにふるふると揺れた。
ヒューズはそのままロイ子の肌を強く吸いながら、腰のほうへと頭をずらしていく。
ぴんと張ったロイ子の肌の上に、いくつもの痕を残される。闇のなかではっきりとわかるほどに強く残されたその痕に、ロイ子は嬉しくなって眩しげに目を細めた。
片手で器用にロイ子のベルトを外されて、下半身の軍服を剥ぎ取られる。
薄闇のなかに、すっきりと伸びた白い2本の脚が露になった。
間髪を入れずに、秘所をわずかな覆う白の薄布の下にヒューズの手が滑り込む。
「んッ!」
花弁に触れる無骨な指先にロイ子は甘く喘ぐ。と同時に、そのヒューズの手がびくりと引き攣った。
ロイ子の秘部がすっかり濡れていることに驚いたのだろう、ヒューズが驚いたような気配をありありと感じた。
淫乱と思われているのだろうか。ロイ子の頬が、今さらながらかあっと熱を持つ。だが――
ロイ子は手を伸ばすと、秘部に触れるヒューズの指先を下着の上からそっと押しつけた。
くちゅ、と布越しに淫らな水音がして、んっ、とロイ子の喉の奥から甲高い甘い悲鳴が漏れる。
驚いたようにこちらを見ているヒューズに、ロイ子は堪らず目を反らした。
「もっと、触って…くれ…」
そして吐息の下からそう、熱っぽくそう呟いた。
その言葉に促されるかのように、ヒューズは慌ててそこから手を引き抜いて、ロイ子の下着に手を掛けた。
するりとロイ子の下着が下ろされる。そこはすでに恥毛すら濡らすほど、溢れ出た愛液でぬらぬらと光っているのが、薄闇のなかでもはっきりとわかった。
ヒューズはロイ子の片脚をぐいっと持ち上げた。ロイ子は大きく脚を開き、ヒューズに羞部を晒す格好になったのだった。
ヒューズはそのままロイ子の片足を肩に乗せ、熱く濡れそぼった花弁をじいっと見入ったかと思うと、手を伸ばしてそこに触れた。くちゅっと粘着質に富んだ音がして、ロイ子は喉の奥で甘い声をあげる。
「やっ…ぁん! あぁ…ッ!」
くちゅ、くちゅっ、ちゅ――指先で弄ばれるそのたび、ロイ子の秘所が淫らな声をあげた。
ヒューズは指に絡まるその透明な花蜜を擦りつけるようにして、ロイ子の最も敏感な突起に触れる。
ぬるぬるとしたその感触に脳髄が痺れ、掻き毟りたくなるような快感が背筋に走り抜け、堪らずロイ子は白い喉を反らした。
そのままヒューズに花芽を擦りつけられ、つねられ、ときに甘く弾かれるたび、ロイ子の両脚がぴくんぴくんと反応して跳ねあがる。
快感にひくひくと引き攣るロイ子の口唇からは、自慰では出ないような切ない淫らな声が溢れた。
「あ…ぁッん、はっ…あ、マ、マース…っ」
熱い吐息も下にひっそりと、ロイ子は彼の名前を呼んだ。
あまり口にしたことのない親友のファーストネームを、彼の耳にも届かないくらいか細く呼ぶ。
何故だかそれが、あまりに貴いもののように思えたからだ。誰にも聞かせたくない、まるで宝物のように思えたからだった。
そのロイ子の言葉に、つとヒューズの手がぴりりとはねた。まるで弾けるように、ロイ子の秘所からその指が離れる。初めて名を呼んだから驚いたのだろうか。
そちらに目をやると、汗ばんだ自分の両脚の間で目を見開いているヒューズと目が合った。
眉間に皺を刻んだ、何が言いたげな不思議な表情だった。気がそがれたのだろうか。だが、今さらやめられても困る。
ロイ子は熱くなった身体をゆっくりと動かして、うつ伏せになった。
そして自ら誘うように腰を高く上げると、つぅっと、秘所から溢れ出た熱い花蜜が太腿を伝い、膝まで伝い落ちていった。人の身体をこんなふうにしておいて今さらやめるだなんて。
悪態をついてもいつもは優しいのに、ヒューズはひどく意地が悪い。
「ふっ…ぁん…っ」
内腿を伝う花蜜のその感触に、ロイ子は思わず声を洩らす。それは自分でも驚くほどに、艶っぽく、震えていた。
自慰をしていたときと同じ体勢だ。ぼおっとなった頭のすみでそんなことを思いながら、ロイ子は腕を脚の間に差し入れて、濡れそぼった秘唇に指を当てがった。
そこはまるで陸にあげられた魚が、酸素を求めて口をぱくつかせるように、物欲しげにひくついている。
そこを、ヒューズに見せつけるようにして自ら広げた。
くっと力を入れると指先がぬらぬらとした肉唇に食い込み、そのねっとりと絡みつくような感触に、ロイ子ははあっと大きく喘いだ。波打つように背筋が震え、それに促されるように花壷からまた甘い蜜がじわりと滲み出て、さらにロイ子の指を汚す。
膝の下まで滴り落ちるそれにすら、ロイ子の身体はひくひくと反応する。
一秒でも早く穿って欲しくてたまらないと、言葉もなしに語っていた。
「ッぁん!」
ふいに尻に手の平を当てられて、ロイ子は思わず小さく喘ぐ。自ら曝け出した羞部に厚い視線を感じたかと思うと、次の瞬間、ぐっと両脇に押し広げられた。
肉唇がさらに割れて、肉びらがひたひたと垂れるのがわかった。
ちゅう。ぱっくりと開ききっているであろうそこに、ヒューズは口唇を寄せたらしかった。
そのままちゅるっと音を立てて、溢れるロイ子の花蜜を吸っていく。
熱い泉の源にも、肉びらの陰にも、当てがわれたままのロイ子の指にも、深く、念入りに、ヒューズは口唇を這わせていく。秘裂の隅々を丁寧になぞって甘蜜を吸い尽くし、ときより、
まるでロイ子の花蜜を全て搾り出そうとするかのように、肉びらを咥えて強く引っぱった。
「あ! んっ…ぁ、あぁん!」
そうやってヒューズに愛液を吸われ、口唇で弄ばれるたび、その快感にロイ子は自分の身体から力が抜けていくのを感じた。
くたりと身体は萎えても、ロイ子は腰を落とさなかった。両膝と腕に力をいれて、なんとか今の体勢を保つ。
ヒューズがくれる秘所へのキスは、とても気持ちよかったからだ。
だが、内腿がぞくりと粟立ち、やがて身体が心から沸騰するような快感にぶるぶると全身が波立つと、ついにロイ子は秘所に当てがっていた指をぱたりとシーツの上に落としてしまう。
それを待っていたかのように、ヒューズはロイ子のなかへと、自らの舌を差し入れてきた。
「ぁんッ!」
ロイ子の背がピクリと、あたかも海老のように反れて跳ねあがる。ざらりとした舌が、ぴちゃぴちゃと淫猥な音を立ててロイ子の膣壁を内側から舐めあげた。
普段自分では攻めもしない、思いも寄らぬ個所ばかりだ。ロイ子は喘ぎながら上半身をのたうたせる。
短い黒髪が、皺だらけのシーツの上に散り乱れた。
「ふ、んっ…あ、や、ぁあッ!」
もっと奥まで差し入れて欲しくて、ロイ子はさらに尻を高く突き出す。
上半身が浮きあがり、たわわな双丘がふるりと揺れた。
硬く尖った紅色の突起の先がシーツに擦れ、それにもロイ子は大きく喘ぐ。
触れるところがどこかしこも熱くて堪らなかった。
「んっ…あ、やっ、やあっ…!」
にわかに身体が波打ち始め、ロイ子は腹の底から熱いわだかまりが込みあげてくるのを感じた。
ひくひくと体が小刻みに引き攣り、頭の奥が白く霞みがかる。果てが近いのだ。
口の端からだらしなく垂れる唾液を拭おうともせずに、ロイ子はより熱さを帯びていく秘所に神経を集中させる。
もっと、もっと、とうわ言めいた声がロイ子の口唇を突いた。
「っん! …あぁ、ッぁあん!」
ぶるっとロイ子の身体が震えた。まるで魂を引き抜かれるような感覚。ぴくんぴくんと小刻みに、ロイ子の全身が跳ねあがる。軽い絶頂を迎えたのだ。
ぶるぶると背筋が震えて、熱い花壷が、より濃い蜜をじんわりと滲み出させるのを感じた。
くたりと身体を萎えさせるロイ子の秘所から、ヒューズは口唇を離す。
そして、絶頂の余韻でひくつくロイ子のそこに、硬いものを押し当てた。
それは、濡れそぼったロイ子の裂け目を丁寧になぞった。
ぬちゅぬちゅと粘着質に富んだ音と、はあはあと荒々しい吐息が後ろから聞こえる。
何度も何度も敏感な場所を撫でるその動きは、まるでロイ子を焦らしているようだった。
欲しいのなら乞え、とでも言うのか。
自分だって我慢できないくせに、とロイ子は思う。硬く張りつめたヒューズの陰茎が、今にも弾けそうなことを物語っていた。本当に、今夜の親友はいつになく意地が悪い。
それでも堪えきれなくて、ロイ子は素直にその意地悪に乗ってしまう。自分から求めるように、ゆっくりと腰を動かす。
ずちゅ、ずちゅりと淫らな音がして、ロイ子も、自らを押し当てる親友も、喉の奥で小さく喘いだ。
「きて…、ヒューズ、はや、く…ッ」
喘ぎながらロイ子は声をあげた。とうに果てを迎えてはいても、身体も心もまだ満たされていないのだ。
早くそれで埋めて、とロイ子はひくつく膣口を、固く昂ぶった彼自身へとさらに押し当てた。
ぬちゅりとさらにいやらしい音がして、ロイ子は再三身体を震わせた。
くっと、喉の奥で押し殺した声がして、思わず肩越しにヒューズを振り返る。
熱で浮かれて両目が潤んでいたから、彼がどんな顔をしているか、よく見えなかった。
それでも、そのまま腰を揺らして、彼の望みどおりにロイ子は乞いかける。
「早く来て…ッ、ん、ヒューズ…あぁっ、あん! …来て…っ」
その声が呼び水となったように、ヒューズは乱暴にロイ子の腰をがっしりと引き寄せた。
ぐっと、濡れた花弁に彼の切っ先が沈んでいく感触がして、ロイ子はああっと大きく喘ぐ。
じりじりと、そこからせりあがってきた熱い疼きに、ロイ子の目の前がうっすらと歪んだ。
ようやくだ、とロイ子は目を閉じる。ぎゅうっとさらにきつくシーツを握りしめて、ロイ子はヒューズを待つ。
待っていたんだ、このときを。
「あッ!」
ズッ――ヒューズ自身が、ついにロイ子を一気に貫いた。


→片思いロイ子









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