Deep Love
110氏

父である、ホーエンハイム・エルリックが家を出ていったのは、私が3歳の時だった。
アルはまだその時のことをはっきりと覚えてないらしいが、私は覚えていた。
お母さんが泣いていてのに、お父さんはそんな母さんに「さよなら」も言わずに大きい鞄を持って出ていった。
私はその光景を、扉の隙間から見ることしかできなかった。私はその時、お父さんがお出かけしただけなんだと思っていたが、
お母さんが私を抱きしめながら泣いて「もうパパは帰ってこないのよ。」と言った。
まだ3歳だった私には、その気持ちがまだあまり理解できなかったけど、お父さんはお母さんを悲しませたんだということは、
なんとなく理解できた。
エドワードという私の名前は、お父さんが女でもつけたかった名前なんだってお母さんが言っていた。
当然私はこんな名前は嫌いだった。だってお母さんを悲しませたお父さんがつけた名前なんだから。
だから、お母さんが考えた名前のアルがなんだか羨ましかった。

「エド?アルー?」
春の午後。エド6歳アル5歳の春だった。2人の母親が箒を持ちながら家中を歩いていた。
突然姿を見せなくなった娘と息子を探すためである。
「お母さん!ここだよ!!」
一階に来たとき、エドの可愛らしい声が響いた。母は、その声が聞こえた部屋をどこだか確信すると、
「あらっ。」と苦笑してその部屋の扉を開けた。
そこは、父の研究部屋だったのだ。
「エド、アル!ここはお父さんの部屋だからダメだって・・・・・。」
「お母さん見ててよ!!」
「すごいことしてあげる!」
母は、突然喜んで声を上げた二人をびっくりして見た。よく見ると、二人の間に白のチョークで書かれた、
小さな練成陣が描かれている。落書きしちゃだめよ。と、母がもう一度注意しようとした時だった。
エドがアルに小さく笑うと、エドはその錬成陣に手を当てた。
パアァ−
と、眩い光が上がったと思うと練成陣が描かれている所に鉄でできた小さな鳥の人形があった。
「こ・・・・これって、錬金術よね?」
驚きながらも、嬉しく笑っているエドとアルに尋ねる。
「そうだよ!!」
「すごい?お母さん!!」
「え、ええ。でも、2人ともなんで・・・・・。」
「父さんの本にやり方が載っていたんだ!!」
「それを、見ただけで?」
「「うん!!」」
「まあ・・・・すごいわあ、2人とも!」
笑って強く抱きしめてくれる母。エドとアルはまたお互いを見て微笑んだ。
お母さんが喜んでくれる。それだけで私とアルは錬金術をどんどんやっていった。
こわれた花瓶や、箒とか直すとお母さんは「偉い」と言って優しく撫でてくれる。
一生懸命、錬金術の勉強をすると、「すごいわね。」と微笑みかけてくれた。だからどんどん勉強して、
もっとお母さんを喜ばせたかった。
そんなある日、幼馴染のウィンリイが誕生日だったため、私とアルは、ウィンリイをお母さんみたく喜ばせようと、
錬金術でプレゼントを練成することにした。部屋に大きな練成陣を書いて、そこに硬くて大きな粘土を置いた。
そう、人形を練成しようとしたのだ。ウィンリイが、心配そうに「大丈夫なの?」と聞いてので、
私とアルは「「大丈夫」」と言った。
そして練成陣にいつも通り手を合わせて練成した時だった。その光景が、まだ幼いウィンリイに余ほどの刺激を与えたのか、
彼女は怖くて泣いてしまった。人形はできたのだが、彼女を喜ばせることはできなかった。

「本当に、すみません。」
「いいのよ。ウィンリイはまだ、錬金術になれていないのよ。」
心配して来た母は、私とアルがウィンリイを泣かせたことを知って、彼女のお母さんに謝っていた。
ウィンリイのお母さんは、私とアルをすごい!と誉めてくれてたが、ウィンリイを泣かせてしまったという、
気持ちが大きくて、私とアルは外で待っていた。
「姉ちゃん・・・・僕達・・・・・。」
「悪いこと、した。泣かせちゃったんだ・・・・・。」
錬金術で泣いてしまうなんて、思ってもいなかった。けれど、あれを怖いという人は多分他にもいるのだろう。
「これで、母さんに錬金術はしちゃだめだって言われたら・・・・・。」
「あきらめるしかないよ・・・・・お母さんに言われたら・・・・。」
今にも泣きそうな顔をして、二人は夕方の空を眺めていた。
暫くすると、お母さんがウィンリイの家からでてきた。私はてっきり怒られるのだと、
悟った時だった。お母さんは私とアルを怒らないで、「帰りましょう。」と優しく言った。
これには、私とアルもびっくりして慌てて母の後を追いかけると、「なんで怒らないの?」と聞いた。
するとお母さんは優しく笑って、
「確かに、ウィンリイちゃんを泣かせたことは悪いわ。けれど、二人とも人を喜ばせようとしたんでしょう?
とっても偉いことだわ。」
と、言ってくれた。私は、その言葉がとても嬉しかった。だからこれからも錬金術を続けて、
母を、喜ばせようとその時決意した。

それから数年。私達の錬金術は上達していた。その度に母が「すごいわね。」と言ってくれて、
私とアルは充実した毎日を送っていた。けれどある日、運命は突然来た。
母に頼まれた野菜を買いにいって家に戻ってきたときだった。
「ただいまあ!」
と家に入ると、母が倒れていた。私はそれに気付くと、持っていた野菜を落としてしまい、
「お母さんっ!!!!」
と、すぐさま母にかけよった。
お母さんは、今流行している病気の一種にかかっていた。雨が降る夜、お母さんを診に来てくれた医者は、
「もう、手遅れです。」と静かに言った。
私とアルは、泣いて横たわっている母に寄り添った。死なないで!!神様助けて!!と何回も祈った。
けれどそんな祈りは通じないで、母は、
「お父さんが残したお金がまだあるの。2人とも、それで仲良く・・・・暮らしてね・・・・。」
といって息を引き取った。
「お母さん!!お母さん!!!」
何回も呼びかけたが、お母さんは目を覚まさなかった。なんて残酷なんだろうと、
私は泣き続けながらそう強く思った。

母の葬儀には、たくさんの人が来てくれた。来てくれた一人一人に挨拶をして、
私とアルは、母が眠る墓をずっと見ていた。それは、誰も居なくなってからも続いた。
夕方になってもずっとお母さんのお墓を見ていた。
そのうちアルが、
「姉ちゃん、お腹すいた。」と言って私を見てきた。
その言葉を合図に私はゆっくり言った。
「アル。」
「なあに?」
「私・・・・いや、俺・・・男になる。」
アルは驚いて目を見開いた。
エドの瞳は父に対する怒りと憎しみでいっぱいだった。
お母さんを悲しませた、お父さん。お母さんの葬式にも戻ってこなかったお父さん。
全部あいつのせいなんだと、私は怒りに震えていた。悔しかった、お母さんを死なせたことが。
すべての原因であるお父さんを心の底から憎んだ。
それと同時に、アルを守ろうという強い決意が私の中で生まれた。その為には、
こんな弱い女であることは許されない。だから、なんでも強い『男』になることを決めた。
そして、アルを絶対守ってやると、心からそう決めた。

家に戻ると、私は止めるアルを振り切って、ナイフで自慢だったブロンドの長い髪をバッサリ切った。
バサッと、髪が床に舞い落ちて、なんだか切ないような気持ちでいっぱいだった。
けれど泣いちゃだめだ。アルは私が守るのだから。
そんな強い決心をしても、すでに目は涙でぐちゃぐちゃだった。
「姉ちゃん・・・・ううん・・・兄さんっ!!!」
私の・・・否、俺の強い決心を悟ってアルも泣いていた。それに俺を、姉じゃなくて『兄』と読んでくれた。
「アルッ!!」
これからどんなにつらいことがあるだろうか?
悲しくて、怖くて、つらくて、俺とアルは抱きしめあっていつまでも泣いていた。
そして、その時だったのかもしれない。
人体練成を、考え始めたのは。









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