待ち人
>757氏

外回りから帰ってきた。
それを上司に報告に行こうとドアを開けるなり、「…遅い!」の声。
うわあ、物凄く不機嫌だ。
眉間にシワとか寄ってる。
ばさりと不機嫌そうに書類を放って立ちあがる。
「今日は中尉にも逃げられるし、雨は降ってくるし、最悪だ」
いや、雨の中の外回りも結構しんどかったですが。
帰着時間も…別に遅れてないし。
それに中尉に逃げられたのはアンタが無能…
「何だ?なにかあるのか?」
手を振って「何でもないっス」と笑ってごまかす。
「…まぁいい。私は帰る。約束があるのでな」
と、コートを着て部屋を出ていこうとする大佐。
あー雨の日でもデートの約束はあるんですね。
いいなぁ…俺もかわいー娘とご飯食べに行きたい…
煤けた背中で上司を見送ろうとすると、
「そこのソファの上のものはお前の荷物だ。
 あと毛布はきちんと仮眠室に返しておくように」

不思議に思いながら、取り敢えず大佐の背中に敬礼と「お疲れ様でした」の声を投げる。
何だ?俺の荷物??毛布?
確かにソファを見れば毛布が掛かっている。
しかも大量?
いや、これは中になんか入ってる?!

 う ご い た ―――― !!

ちょ、…っ!大佐。これは何かのバツゲームなんですか?
怖いんですけど!!めっちゃ怖いんですけど!!
思わずさっき出ていった、そしてまだその辺にいるであろう上司に助けを求めに行こうかと考えた。
や。でも、大佐はこの部屋に一人でずっといたんだよな?
…結論。
コレは、無害ッ!
とその勢いでそのまま毛布を掴んで引き寄せる。

バサリ、と音を立てて毛布を捲られたソファの上には。

…エド子・エルリック嬢?大将?
え?何でこんなとこに?!
寝てるの?

そこには仰向けですやすやと眠りこけるエド子。
混乱する頭で最初にハボック考えた事は、
大将!
何で上が黒のキャミソール1枚なんですか?!
ていうか、 ブ ラ 着 け て な く な い ? !
つか、脇からはみ乳してるよ!
うわーうわー!!
胸でけえ。
さ、触りた…っ!

いや待て未成年のそれも眠っている女の子に対してそういう事は考えちゃ駄目だろうハボック。
とかなんとか、自分を押さえてみようとしても、いつもきっちりと後ろで編まれている髪を解き、無防備に寝顔を曝しているエド子。
薄く開かれた唇がこちらを誘っているようで。
エド子が狭いソファの上で身じろぎをするたびに胸が、揺れる。

ホント待って、ダメだってこりゃヤバイだろ。いくらなんでも。
だから止まれ、俺の手!!
いやでもホントに柔らかそう…
ハボックが必死に己の中の煩悩と戦っていると不意に後ろから

コンコン

と、大佐が出ていったまま開け放たれていたドアが叩かれる。
「――――――――っ!!」
声にならない悲鳴を上げるハボック。

振りかえるとドアの隙間から大佐が立っているのが見えた。
「言い忘れていたが、鋼のはお前のことをずいぶん待っていたみたいだぞ」
み、見られた?
「待っている間、眠たそうだったからソファと毛布を提供した。
 そうしたら何時の間にか頭から毛布をかぶっていてな」
ふふ、と大佐が笑う。
それどころじゃない。
「た、大佐」
辛うじて声を絞り出した。
「見て…」
「ああ、ここで襲うなよ?」
言うなりドアの外へ身を翻す。
やっぱり…見てたんですか、見てたんですか、見てたんですか?!
ドア越しに「はっはっは」と笑っている声が遠ざかって行く。
くそう。
タイミングを狙ってたとしか思えない。
見透かされてんな―

はぁ。
なんか気が抜けた。
こうなってしまってはさっきまでの「エド子に何かしよう」とかそういう気分はすっかりどこかに行ってしまい、いつものようにエド子に声をかける。
「ほら、大将。起きて下さい」
でも、胸おっきかったな―…

さりげなく懲りてないハボックであった。

余談

「まぁ、鋼のと違って滅多に会えないという訳では無いから今回は鋼のに譲るが…
 私も、待っていたんだがなぁ」
と一人ロイ子大佐が軍部の玄関で呟いたのは夜の雨だけが知っていたりする。

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