教えてあげるよ
>517氏
人体練成が成功して、僕は晴れて人の身体に戻れた。
練成された身体は、すっかり筋肉が落ち赤ちゃんみたいに真っ白だった。
弱弱しい体…兄さんは前以上に過保護になった。
それはちょっと、異常なほどに。
兄さんは今、買出しに行っている。
僕は宿でお留守番だ。
鏡に自分の姿を映してみる。
細い首に腰、膨らんだ胸。それは少女の身体。
「鎧のときはあまり気に留めてなかったけど、僕、女の子だったんだよね…。」
久しぶりに見た、少し成長した自分の顔、姿はびっくりするほど亡き母にそっくりだった。
「兄さんは、病で倒れた母さんの姿と僕の姿をダブらせて見ているのかもしれない。」
過度の過保護はそのせいだろうか。
一人で外に出させてくれないどころか、お世話になった軍の人たちにも会いに行かせてくれない。
「危ないから駄目だ」の一点張り。
苦しそうに目を逸らしながら言うんだ。
僕の身体はもう大丈夫なのに…。
「挨拶ぐらいいいじゃないか…」
何だかこの身体になって、兄さんが分らなくなってしまった。
鎧のときは、あんなにベトベトくっ付いてきたのに何だかよそよそしいし。
そういえば、最近、兄に抱きしめてもらってない…
無性に心細くなって、僕は宿から抜け出した。
すこし人恋しくなったのもあったけど、僕の意見に耳を傾けてくれない兄さんを、少し心配させて気分を晴らしたかったのかもしれない。
焼きたてクッキーをお土産に兄と共に通いなれた、軍への道のりを初めて一人で、自分の足で、駆け出した。
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そして今、
僕は大人の男の人に抱きしめられている。
あれ?何でだっけ…?
青い軍服を着た軍人さん。
僕の兄さんの上司。
この身体…生身の肉体になって、初めて兄さん以外の男の人に抱きしめられた。
兄より広い胸に長い腕。
…変なの、嫌じゃないや。兄さん以外の人なのに。
むしろ包まれるように抱きしめられて、温かい体温が気持ちいい。
お土産のクッキーと、合わせて出された紅茶をぼーっと見ながら、久々に感じる人の体温に酔う。
何だか…
「お父さんみたい…」
小さい声で腕の中の少女が呟いた。
抵抗されるかと思ったが、少女は安心しきった様子で身体を預けてくる。
…こちらの邪な感情など、さっぱり気付いてないんだな…
短く切り揃えられた柔らかい亜麻色の髪。
そこから覗く真っ白い首筋。
良く日に焼けた兄とは違う
透けるような白は、この世に生まれたての証拠か。
堪らなくなり思わず首筋に吸い付く。
「大佐?」
甘ったるい少女の声が、不思議そうに名前を呼ぶ。
大きな丸い目が上目遣いで見上げてくる。
強烈な愛らしさだ。
長らく肉体を持たなかった彼女には、男の自分が、彼女に対しどういった感情を抱いているか、想像もつかないだろう。
そして、自分の少女…女としての魅力も。
鉄の鎧の中に閉じ込められていた、少女。
故に、同世代の少女達が当たり前に学ぶであろう性的な知識や経験すらない、真っ白な少女。
庇護心と被虐心がせめぎ合う。
「…大佐!?…ぁ!」
少女の初めては、私がなろう。
絶望と嫉妬で、気が狂いそうな少女の兄の姿が目に浮かぶ。
幾らでも、その焔のついた目で睨むがいい。
どんなに大切に守っても、どんなに大切に想っても足踏みのまま他の男に取られては意味が無いのだよ、
鋼の錬金術師。
「その身体になって はじめて を、君に教えてあげよう」
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ああ、やはり初めては気持ちいい。
なぁ、アルフォンス君。
END