父との遭遇
>980氏
大佐を連れてばっちゃんの所に戻った時の事だ。
ぼんやりとした笑顔で微笑みかける…そう、奴だ。
もう2度と会う事も無いと思っていたそいつは「ただいま」とあの時と変わらないあの顔、あの笑顔で呟いたんだ。
母さんと俺や弟のアルを置いてふらりと何処かへ出かけたまま今になって「ただいま」なんて…一体どう言う神経してんだ!?
気が付いて頭がカッとなった時には殴り掛かっていた。
「何処で何やってたんだよ!!!こんの!糞親父ぃいーっ!」
あっけなく吹っ飛ぶ…奴の身体。
手加減はしなかったから下手すりゃ肋位は逝ってるかもしれない。
奴は身体を起こして……
「そうか…。」
寂し気に微笑んだ顔は悔しい程に殴ったこっちが気まずくなってくる。
物音と、俺の怒声に何ごとかとやってきた大佐。
だが、こんなモンじゃ俺の煮えくり返った腹はまだおさまらない。
気が付いた頃には奴の上に馬乗りになっていた。
殴ろうと振り上げた拳。
それを掴む……大佐の手。
「鋼の、それ以上やるのは感心しないな。
仮にも君の父親なのだろう?」
……ああ、そうだよ。
こいつは俺の父親だ。
もし出会う事があったら奴に言って置きたかった言葉は怒りと混乱で告げられぬまま、ぎりっと握りしめた奥歯。
「エド…これだけは聞いてくれ。」
奴が口にした言葉。
聞いてやるから早く話せっての……
「胸の大きい女性には気を付けなさい。
いや、大きい胸が悪い訳では無い、私も巨乳は大好きだよ。
だが…昔、トリシャに窒息させかけら……ごふっ!!」
我ながら惚れ惚れする程、鳩尾に綺麗に入ったストレート。
「……こいつと同じ血が流れてるなんて想像もしてくねーな。」
そう言いつつ傍らに蹲る実の父を足で小突いてひっくり返す。
「おい…やり過ぎだぞ、鋼の。
大丈夫か?」
抱き起こすロイ子の胸に目も止まらぬ早さで伸ばされたのはエドの父ホーエンハイムの腕。
「あっ………んっ!
やめっ!あう……っ!」
むにむにとその胸を堪能するように揉みしだくとロイ子からは切ない声が上がる。
「ああ、これはいい感触だ……。
トリシャを思い出す………がっ!!」
その顎へキメラでさえも一撃の元に倒れる肘鉄が鮮やかに飛んだ。
「そう言えば…エド、お前には聞いておきたい事がある。
父の…最後の望みを聞いてくれないか。」
またかよ…勿体ぶりやがって
「なんだよ…。」
ぶすっとした表情で返してやると、これまでに無いくらいにっこりと笑った奴は
「お前も…その、年頃でもう16だろう?
胸は大きくな……」
伸ばされた腕がさわさわとエドの胸をまさぐって行く。
その手がすぐにピタリと止まり
「ああ、すまんな。
まだ小さ……ぐはっ!」
次に叩き込まれたのは通常ならば、レンガの壁をも叩き壊す事の可能な機械鎧によるかかと落とし。
「誰がヒヨコみたく専門職に依頼しないと
性別が分からないくらいの貧乳じゃー!!
こんの……オッパイ星人がッ!!!」
怒り心頭のエドはもう誰にも止められない。
後にロイ・マスタング大佐はこうコメントしている。
「あんな地獄はイシュヴァールでも見た事が無い。」
リゼンブールの初夏の出来事だった。