一緒に帰ろう
>483氏
場所は東方司令部、時はちょうど日付の変わる前。
「あー…終わったー」
こきこき、と肩を鳴らしながらハボックは上司の元に歩み寄る。
「ハイ、大佐。本日中までの書類です」
「…本当にギリギリだな」
時計を見て、書類をぱらぱらとめくりながら言う。
「アンタがギリギリまで書類回さないからでしょーが」
見るからに面倒臭そうに書類を斜め読みしている大佐に
「…ってアンタちゃんと書類チェックしてるんですか?!」
「……………してる。問題ない」
さっさと書類を片付けて帰りの支度を始めるロイ子。
「大体他の奴らだってとっとと帰りやがって全く、薄情ですよ…」
尚もブツブツと文句を垂れるハボックに、
「ふふーん、そんなに私と一緒の残業が嫌なのか?」
「え?」
突然先程とは打って変わって目を輝かせんばかりにしている上司に戸惑う。
「私はこんなにハボックの事を愛してるのになぁ?」
ぐっと顔を近づけられる。
「え?え??」
時々この人はこの手の冗談を言う。
…多分冗談。
俺をからかっていじめるのが楽しいのだ。
引っかからないぞ。
だから勝手に赤くなるな、俺の顔!
「はっはっは。ハボックは面白いな」
くっそー完全に遊んでやがる。
「…では、帰るぞ」
「え?大佐の仕事は?」
「とうに済んだ」
「ええ?何でじゃ残業してまで俺が書類作成を?」
「さぁ?」
「何すかそれ―――っ!!」
「さて、時間も遅い。うら若き乙女を一人で帰らせるつもりじゃないだろうな?」
「自分で自分の事を『うら若き乙女』とか言っちゃうのはもう乙女じゃないと思うんすけど」
「何か言ったか?」
「いーえなんにも」
言ってない(事にする)からその発火布と擦り合わせようとしてる指は止めてクダサイ。
「では、私は着替えてくるので玄関で待っていろ」
着替え?
いつもは着替えるのが面倒クサイとか、夜は危ないしとか言って軍服で帰りたがるのに。
もしかして、俺がいるから?
…なんてな。
玄関で待ってる間に煙草を吹かす。
あー…至福の一時。
コツ、コツ…
ん?ヒールの音?
こんな時間に女なんて…
え?もしかして、大佐?
大佐がヒール?
え?なんで?いつもズボンなのに?
「待たせたな」
思わず煙草が落ちる。
それは紛う事なきロイ子・マスタング大佐であった。
美人なのはいつもの事として!
何故かスカート!しかもフェミニンな大人の魅力のタイトっ!!その上ミニ!!
そしてッ!いつも分厚い軍服越しにも誇らしげに存在を主張する胸が、胸が…っ!!
俺、生きてて良かったよ母ちゃん。
大総統、俺一生この人の下で働きたいので絶対に人事異動しないでください。
胸がVネックですんごく強調されてます。
うわ、そらこんな夜遅くに一人で帰りたくない格好だよな。
ああ、でも!これが、上司じゃなかったら!!
「なんだ?ハボック。こういう時にはお世辞でも『綺麗ですね』とか言うもんだぞ」
「えーっと、その」
だから近寄らないで下さいって!
長身の俺からはアンタのその胸の谷間がっ!
取り敢えず、何でもいいから褒めろ!
「綺麗です!マスタング大佐!」
ん、なんかちょっと嫌な表情された。
例えで言ったのをそのまま言われたからか?
「まぁいい、帰るぞ」
気を取りなおしたのか先に立って歩き始める。
カツカツとヒールを鳴らして歩く女王様とその犬って感じだよなぁ。
あ、でもこの人、項のラインが綺麗だ。
いつも軍服で隠れてるから見えなかったけど、色っぽいな…
などと思っていると見知った通りに出た。
「あれ?大佐の家はこっちの辺なんすか?俺のうちもこの近くなんですよ」
「知っている」
え?
「それについては既に調査済みだ。」
「因みにケインと、ファルマンが寮で、リザが…」
はっ?!ケイン?ケインて誰?あっ、フュリー曹長?
え?なんで、ファーストネームで呼んでるんすか?
もしかしてそういう仲?
うっわ、こりゃ明日の軍部には衝撃が走るね。
俺にも別の意味で衝撃が走ったけど。
あぶねぇ、あぶねーもう少しで手をだしそうだったよ。
すまん、フュリー。と心の中で手を合わせる。
「ハボック。聞いてるのか?」
「はっ?」
全く聞いてませんでした。
「だから、腹が減ったんだが。」
そりゃあ、この時間ですから腹も減るでしょうね。
「お前の家はこの近くだな?そして一緒に住んでる家族もいない。飯を食わせてくれ」
さすがにちょっと恥かしいのか下を向いて頬を染めている。
かわいい…
っといかんいかん。
これは同僚の彼女。
俺達は上司と部下。
それ以上でもそれ以下でもありません。
「や、それはまずいですって」
「何?お前の料理の腕はなかなかのものだと聞いているぞ!」
うわ、夜の住宅街で大声出さないでくださいよ。
思わず手で口を塞ぐ。
あ、唇の感触。
や〜らけ〜
「ともかく、彼氏持ちの若い女が、独身の男の一人暮しの部屋に、しかもこんな時間に来たいだなんて襲われたらどうするんですか…」
あれ?なんか、睨まれてる…?
ガブッ!
っ痛――――!!噛まれた!!
「何すんです…」
か、と言いかけて驚いた。
「誰が彼氏持ちだって?!」
え?泣いてる?
「な、何で泣いて」
「私に彼氏などいない!」
「でもさっきフュリー曹長のことファーストネームで」
「…チッ」
え?舌打ち?
「お前には何もかもが裏目に出るようだな。最初から小細工など弄すのではなかったか…」
は?なんか人を朴念仁みたいに。
「私は、お前が好きだ!」
「ええ――――?!!!」
今の大声で何件かご近所さんの家の灯りがついたのを感じたけどそんな事はどうでもいい。
「私は今日だって別に急ぎでもない仕事をお前に押し付けたり、他の者に協力してもらって早めに帰ってもらったり、こ、こんな着慣れない服とか、履き慣れないヒールとか、リザに相談とか、これでも色々努力したんだぞ」
「そ、そうなんすか?」
俺の為に?
大佐はもう涙と恥かしさで声も出ないのか必死に頷く。
「ホントに?」
こくん、と頷いて、涙目、上目遣いに俺を見る。
そ、そんな目でみられたら…
「ハボックは、私のことをどう、思ってるんだ?」
そんな恥じらいたっぷりに視線を逸らされて、俺の返事を待たれたら。
がばっ!
そのまま大佐を担ぎ上げて自宅へ走る。
鍵を出すのももどかしく、ドアを蹴り破るように開けて、そのままベッドに縺れ込む。
「さっきの、ホントですね?」
「今更取り消しとか、なしですね?」
「…うん」
と言ってロイ子は俺の首に抱きついてきた。
その後は、そりゃ、色々と。
ロイ子と仲良くしたっつうか。
ご想像におまかせシマス。
**
終